TECHNOLOGY COLUMN ・ オープンウェイト動画生成AI
GPUが足りなかったのではない、ディスクとメモリが足りなかった — オープンウェイト動画生成AI「MiniMax H3」を個人のColabで動かした記録
編集部・最終更新 2026年8月7日
2026年8月、テキスト・画像・動画・音声を同一モデルで扱う動画生成AI「MiniMax H3」がオープンウェイトで公開されました。重み自体は無料で誰でもダウンロードできます。ただし実際に個人のGoogle Colab上で動かそうとすると、つまずいた場所はGPUのメモリ(VRAM)ではなく、ディスク容量とシステムRAMでした。
本記事は、当サイト編集部が実際にこのモデルをColab上で動かし、失敗と復旧を重ねて成功にたどり着くまでの記録です。伝聞ではなく、当サイトが直接操作して観測した実機の挙動を基にしています。生成した動画も本文で紹介します。
83.5GB
パイプライン組み立て時に使い切ったシステムRAM。GPUのVRAMとは別物で、ここがクラッシュの原因だった
¥1,179〜
従量課金では届かず、唯一成功した構成に必要だったColab Proの月額
607秒
1344×768・約5.2秒の動画1本を実際に生成するのにかかった時間
AT A GLANCE
先に判定
- ✗「オープンウェイト=無料で誰でもすぐ動かせる」
重みの入手自体は無料でも、実際に動かせる環境を作るコストは別。従量課金のColab(ディスク112.64GB)では、2個目のモデルパーツをダウンロードする時点で確実に容量不足になった。
- ✗「A100クラスのGPUを積めば、あとはVRAM次第」
transformer本体だけでbf16換算61.7GB、テキストエンコーダも62.1GBあり、素のロードではA100の40GB版はもちろん80GB版でも両方は収まらない。int8量子化とグループオフロードを組み合わせて、初めてVRAMに収まった。
- ○「本当のボトルネックはGPUではなく、ディスクとシステムRAMだった」
ディスクを解消してもパイプラインの組み立て処理でシステムRAM 83.5GBを使い切りセッションがクラッシュした。GPUのVRAMとは別物の、CPU側のメモリ不足。
- ○「Colab Proでも、同時に複数ノートブックのランタイムを動かそうとすると失敗する」
別ノートブックのランタイムが接続されたままだと、新規ランタイムの割り当てが「セッションが多すぎます」で拒否された。今回新たに踏んだ罠。
- △「ライセンスは、未成年が映る動画の生成を一律禁止している」
実際の条文は「搾取・加害する利用(またはその意図がある利用)」の禁止であり、非性的・非搾取的な描写を一律禁止するものではない。要約を鵜呑みにせず原文を確認して判明した。
01 · THE MODEL
MiniMax H3とは何か
MiniMax H3(開発コード名 Hailuo 3.0)は、テキスト・画像・動画・音声を同一の文脈で扱うマルチモーダル動画生成モデルです。2026年7月31日にAPIとして公開された後、8月3日にモデルの重みそのものが公開(オープンウェイト化)されました。出力は5〜15秒・24fps、解像度は768ピクセル以上・32の倍数、映像と同時にステレオ音声も生成します。
ライセンスは「MiniMax H3 Community License」で、除外地域はEU・英国・韓国・米国のみ。日本はこの対象に含まれず、通常ライセンスで利用できます。商用利用も年間売上高2,000万ドル未満であれば事前承認は不要です。diffusers(Hugging Faceが提供するモデル実行ライブラリ)への対応は2026年8月5日にmainブランチへマージ済みですが、この記事の執筆時点ではpipの安定版にはまだ配布されておらず、GitHubから直接インストールする必要がありました。
02 · THE FOUR STAGES
図解 — GPUではなく、ディスクとRAMで3回つまずいた
下の図は、実際に成功にたどり着くまでの4段階を、GPUのVRAM(右側)と対比して並べたものです。VRAMは最初から最後まで一度も問題にならなかった一方、左側の状態は段階ごとに変わっています。
FIG. 01 — ディスク・システムRAMの4段階とGPU VRAMの対比
図: MiniMax H3をGoogle Colabで動かすまでに実際にたどった4段階(左)と、GPUのVRAMの状態(右)の対比。2026年8月7日時点で当サイト編集部が実機確認した内容を基に作成。
色分け:赤=その段階で実際に失敗した箇所/緑=成功した最終構成/グレー=中間段階(まだ失敗も成功もしていない)。
ディスクを解消してもパイプラインの組み立て処理でシステムRAM 83.5GBを使い切りセッションがクラッシュした。GPUのVRAMとは別物の、CPU側のメモリ不足。
実機検証・2026年8月7日
03 · THE RUN LOG
実際に動かした記録
フェーズ1 — PoC(1カットだけ動かす)
まず最小構成で、テキストから1カットの動画(音声つき)を生成できるかを検証しました。int8量子化とグループオフロードの設定コードは、公式ドキュメント本文と一字一句照合し、量子化から除外するモジュール名やModularPipelineの組み立て順序に食い違いがないことを確認しています。low_cpu_mem_usage=True(公式サンプルはFalse)に変更したことと、avパッケージのpip installが公式サンプルから漏れていたことに気づいたのが、実機で見つかった2つの追加対応でした。この段階で1カットの生成・保存に成功しています。
フェーズ2 — バッチ生成の新規セッション通し実行
複数カットをshot list(JSON)から無人で生成し続けるバッチ版ノートブックを作成しました。ロードには15分以上かかるため、パイプラインはセッション開始時に1回だけ組み立て、以降は全カットで使い回す設計です。このノートブックを、既にロード済みのPythonプロセスを流用せず、まっさらな新規セッションからファイル単体で「すべてのセルを実行」した記録が下の表です。
| ステップ | 結果 |
| GPU割り当て | A100-SXM4-80GB ✓ |
| pip install(diffusers等) | 44秒 ✓ |
| Hugging Faceログイン | 1秒 ✓ |
| Google Driveマウント | 自動成功(認証ポップアップなし)✓ |
| モデルロード | 11分(transformer 57.2GBダウンロード+int8量子化+text_encoder+グループオフロード)✓ |
| shot list読み込み〜バッチループ | 既存出力はスキップ判定 → 完走 ✓ |
この通し実行の途中で、新たに1つ罠を踏みました。並行して開いていた別のノートブック(フェーズ1のPoC)のランタイムがまだ接続されたままだったため、このバッチ版ノートブックの新規ランタイム割り当てが「セッションが多すぎます」というダイアログで拒否されたのです。Colab Proには同時に保持できるアクティブなランタイム数の上限があり、使っていない側のランタイムを切断してから再試行すると通りました。ノートブックを複数タブで並行して開いている場合に踏みやすい罠です。
別ノートブックのランタイムが接続されたままだと、新規ランタイムの割り当てが「セッションが多すぎます」で拒否された。
今回新たに踏んだ罠
生成してみた
実際に、都市の川沿いを一人でジョギングしながらスポーツドリンクを飲む成人女性が写る、さわやかなCM風の動画を1本生成しました。30ステップの設定で、長さは約5.2秒です。
実在の人物ではなく、テキストプロンプトから生成した架空の人物です。
プロンプトは英語で「20代半ばの成人女性が、都市の川沿いのランニングコースを一人でジョギングし、スポーツドリンクを飲んでいる、さわやかな朝の光、都市の高層ビルと橋を背景に、CM風」という趣旨の内容を指定しました。ボトルのラベルには判読可能な文字を入れるよう指定しましたが、実際の出力ではロゴらしき図形と、文字のような崩れた模様が再現されるにとどまり、読める文字にはなりませんでした。動画生成AIが総じて文字のレンダリングを苦手とする傾向を、この生成でも裏付ける結果です。
04 · WHY IT MATTERS
この仕組みが意味を持つこと
本記事の内容は、直接の売買助言にはなりません。ただし、AI関連企業やサービスを理解するうえでの前提として押さえておく価値があります。
① 「オープンウェイト」は参入障壁をゼロにはしない
モデルの重みが無料でも、動かすための計算資源とノウハウというコストはそのまま残ります。今回の検証だけでも、従量課金からColab Proへの契約変更、ハイメモリ設定への変更と、複数回のインフラ調整が必要でした。「重みを公開する」ことと「誰でもすぐ使える」ことの間には、まだ距離があります。
「重みを公開する」ことと「誰でもすぐ使える」ことの間には、まだ距離がある。
本記事の結論
② 個人でも数千円/月の投資で動画生成AIが動かせる時代
Colab Pro月額¥1,179〜という比較的小さな投資と、1本あたり実測10分程度の生成時間があれば、個人でも音声つきの動画を1本作れます。同様の需要はクラウドGPUを提供する事業者側にも積み上がっており、動画生成AIの普及がGPUクラウドの需要にそのまま連動する構図がここでも見えます。
③ ライセンスは「描写の可否」ではなく「利用目的」で線引きされている
本記事で確認した通り、MiniMax H3のライセンスは特定の被写体の描写そのものを禁じるのではなく、「搾取・加害する利用」という目的ベースで禁止用途を定めています。この設計思想は他の主要なAIモデルの利用規約とも共通しており、AI生成コンテンツのモデレーション実務を理解する土台になります。
本記事で紹介した数値・手順は、あくまで当サイトが2026年8月に実機で確認した結果であり、Colabの仕様変更やモデルの更新により今後変わる可能性があります。特定の銘柄やサービスの購入・利用を推奨するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。
⚠ 留意点
- 本記事で報告したディスク・RAM・所要時間などの数値は、2026年8月7日時点で当サイト編集部がGoogle Colab上で実機確認した値です。Colabのインフラ仕様やモデル自体の実装は更新される可能性があり、将来同じ数値になるとは限りません。
- 「セッションが多すぎます」という同時ランタイム数の上限は、当サイトが契約しているColab Proプランで実際に発生した事象です。上限の具体的な本数や、プランによる違いまでは検証していません。
- ライセンスの解釈(Exhibit A第6項の適用範囲)は、当サイト編集部が条文を確認した上での一般的な理解であり、法的助言ではありません。個別の利用が条項に抵触するかどうかの最終判断は、利用者ご自身の責任で行ってください。
- 本記事で紹介した動画生成AIの動作・品質は、プロンプトや設定によって大きく変わります。本文中の生成時間・品質は本記事の設定固有の実測値です。
- 本記事は公開情報および当サイト編集部の実機検証を基に一般的な情報提供を目的として整理したものであり、特定の金融商品や特定のAIサービス・クラウドサービスの購入・利用を推奨・勧誘するものではありません。
FAQ
Q. MiniMax H3は誰でも無料で動かせるのですか?
モデルの重み自体はHugging Faceで無料公開されており、日本からは通常ライセンスで利用できます。ただし実際に動かすには専用のGPU環境が必要で、本記事で見た通り従量課金のColabでは失敗し、Colab Pro(月額¥1,179〜)以上の契約が実質的に必要でした。「重みが無料」と「動かすコストがゼロ」は別の話です。
Q. なぜGPUのVRAMではなく、ディスクやシステムRAMで失敗するのですか?
モデルの重みをダウンロードする段階ではGPUを使わずディスクだけを消費するため、ディスクが小さいと生成を始める前に容量不足で止まります。またパイプラインを組み立てる段階(本記事のload_components相当の処理)はCPU側で行われる部分があり、ここでシステムRAM(VRAMとは別物)を大量に使います。GPUのVRAM自体は、量子化とオフロードを正しく設定すれば本記事の環境では最後まで余裕がありました。
Q. このモデルのライセンスは、どんな内容でも生成してよいのですか?
いいえ。MiniMax H3 Community LicenseのExhibit A(禁止用途リスト)第6項には「Use in any manner that exploits or harms, or intends to exploit or harm, minors」(未成年を搾取・加害する、またはその意図がある利用の禁止)という条項があるほか、性的コンテンツ・暴力的コンテンツ等も禁止用途リストに含まれます。生成前に必ず原文を確認することを推奨します。
Q. この記事の内容は投資判断に関係しますか?
直接の売買助言にはなりません。ただし「オープンウェイト=コストゼロ」ではなく、実際の運用コストの多くが計算資源(GPU・ディスク・メモリ)に残るという構造は、AI関連企業がどの層で収益を上げているかを見分ける視点の一つになります。特定の銘柄やサービスの購入・利用を推奨するものではありません。
本記事は、当サイト編集部がMiniMax H3というAIモデルをGoogle Colab上で実際に操作して観測した挙動、および公開されている一次資料を基に整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品やAIサービス・クラウドサービスの購入・利用を推奨・勧誘するものではありません。AI製品・クラウドサービスの仕様は更新により変化する可能性があります。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。
出典:MiniMax-H3公式リポジトリ・ライセンス原文(Hugging Face)、diffusers公式ドキュメント、Google Colab公式サイト、当サイト編集部による直接操作・実測(2026年8月7日時点)。