TECHNOLOGY COLUMN ・ オープンウェイト動画生成AI

GPUが足りなかったのではない、ディスクとメモリが足りなかった — オープンウェイト動画生成AI「MiniMax H3」を個人のColabで動かした記録

2026年8月、テキスト・画像・動画・音声を同一モデルで扱う動画生成AI「MiniMax H3」がオープンウェイトで公開されました。重み自体は無料で誰でもダウンロードできます。ただし実際に個人のGoogle Colab上で動かそうとすると、つまずいた場所はGPUのメモリ(VRAM)ではなく、ディスク容量とシステムRAMでした。

本記事は、当サイト編集部が実際にこのモデルをColab上で動かし、失敗と復旧を重ねて成功にたどり着くまでの記録です。伝聞ではなく、当サイトが直接操作して観測した実機の挙動を基にしています。生成した動画も本文で紹介します。

83.5GB パイプライン組み立て時に使い切ったシステムRAM。GPUのVRAMとは別物で、ここがクラッシュの原因だった
¥1,179〜 従量課金では届かず、唯一成功した構成に必要だったColab Proの月額
607秒 1344×768・約5.2秒の動画1本を実際に生成するのにかかった時間
AT A GLANCE

先に判定

01 · THE MODEL

MiniMax H3とは何か

MiniMax H3(開発コード名 Hailuo 3.0)は、テキスト・画像・動画・音声を同一の文脈で扱うマルチモーダル動画生成モデルです。2026年7月31日にAPIとして公開された後、8月3日にモデルの重みそのものが公開(オープンウェイト化)されました。出力は5〜15秒・24fps、解像度は768ピクセル以上・32の倍数、映像と同時にステレオ音声も生成します。

ライセンスは「MiniMax H3 Community License」で、除外地域はEU・英国・韓国・米国のみ。日本はこの対象に含まれず、通常ライセンスで利用できます。商用利用も年間売上高2,000万ドル未満であれば事前承認は不要です。diffusers(Hugging Faceが提供するモデル実行ライブラリ)への対応は2026年8月5日にmainブランチへマージ済みですが、この記事の執筆時点ではpipの安定版にはまだ配布されておらず、GitHubから直接インストールする必要がありました。

02 · THE FOUR STAGES

図解 — GPUではなく、ディスクとRAMで3回つまずいた

下の図は、実際に成功にたどり着くまでの4段階を、GPUのVRAM(右側)と対比して並べたものです。VRAMは最初から最後まで一度も問題にならなかった一方、左側の状態は段階ごとに変わっています。

FIG. 01 — ディスク・システムRAMの4段階とGPU VRAMの対比 MiniMax H3をColabで動かすまでの4段階(ディスク・システムRAM)とGPU VRAMの対比 実際にたどった4段階(ディスク/システムRAM) GPU VRAM ① 従量課金A100・素のロードを試行 ディスク112.64GB(OS+パッケージで約47GB使用) transformer→text_encoderの順にダウンロード ✗ 2個目のダウンロードで確実に容量不足 ② Colab Proにアップグレード ディスクが235.7GBに拡張 → ダウンロードは完走 (GPUの種類・VRAMはまだ何も変えていない) ③ 同じColab Pro・ハイメモリは未設定のまま パイプライン組み立て(load_components相当)を実行 システムRAM 83.5GBを使い切りセッションがクラッシュ ✗ GPUのVRAMではなく、CPU側のシステムメモリ不足 ④ ランタイムで「ハイメモリ」をON RAM 167.1GB・VRAM 80GBの個体になる int8量子化+グループオフロードでVRAMに収まる ✓ 成功(transformer/text_encoderのロード完了) ①〜④のどの段階でも GPUのVRAMは一度も 不足しなかった A100のVRAM40GB〜80GB (構成により異なる)に対し、 量子化前は67GB超が 2モデルぶん必要だったが、 int8量子化+オフロードで 常に収まる設計だった。 失敗の原因は毎回 GPUの外側(ディスク/ システムRAM)にあった。 結論:Colab Pro(月額¥1,179〜)+A100+ハイメモリの組み合わせが、実機で唯一成功した構成 従量課金のみでは、GPUの種類をいくら変えてもディスクとRAMの壁を越えられない 2026年8月7日・当サイト編集部が実機で確認
図: MiniMax H3をGoogle Colabで動かすまでに実際にたどった4段階(左)と、GPUのVRAMの状態(右)の対比。2026年8月7日時点で当サイト編集部が実機確認した内容を基に作成。

色分け:赤=その段階で実際に失敗した箇所/緑=成功した最終構成/グレー=中間段階(まだ失敗も成功もしていない)。

ディスクを解消してもパイプラインの組み立て処理でシステムRAM 83.5GBを使い切りセッションがクラッシュした。GPUのVRAMとは別物の、CPU側のメモリ不足。

実機検証・2026年8月7日
03 · THE RUN LOG

実際に動かした記録

フェーズ1 — PoC(1カットだけ動かす)

まず最小構成で、テキストから1カットの動画(音声つき)を生成できるかを検証しました。int8量子化とグループオフロードの設定コードは、公式ドキュメント本文と一字一句照合し、量子化から除外するモジュール名やModularPipelineの組み立て順序に食い違いがないことを確認しています。low_cpu_mem_usage=True(公式サンプルはFalse)に変更したことと、avパッケージのpip installが公式サンプルから漏れていたことに気づいたのが、実機で見つかった2つの追加対応でした。この段階で1カットの生成・保存に成功しています。

フェーズ2 — バッチ生成の新規セッション通し実行

複数カットをshot list(JSON)から無人で生成し続けるバッチ版ノートブックを作成しました。ロードには15分以上かかるため、パイプラインはセッション開始時に1回だけ組み立て、以降は全カットで使い回す設計です。このノートブックを、既にロード済みのPythonプロセスを流用せず、まっさらな新規セッションからファイル単体で「すべてのセルを実行」した記録が下の表です。

ステップ結果
GPU割り当てA100-SXM4-80GB ✓
pip install(diffusers等)44秒 ✓
Hugging Faceログイン1秒 ✓
Google Driveマウント自動成功(認証ポップアップなし)✓
モデルロード11分(transformer 57.2GBダウンロード+int8量子化+text_encoder+グループオフロード)✓
shot list読み込み〜バッチループ既存出力はスキップ判定 → 完走 ✓

この通し実行の途中で、新たに1つ罠を踏みました。並行して開いていた別のノートブック(フェーズ1のPoC)のランタイムがまだ接続されたままだったため、このバッチ版ノートブックの新規ランタイム割り当てが「セッションが多すぎます」というダイアログで拒否されたのです。Colab Proには同時に保持できるアクティブなランタイム数の上限があり、使っていない側のランタイムを切断してから再試行すると通りました。ノートブックを複数タブで並行して開いている場合に踏みやすい罠です。

別ノートブックのランタイムが接続されたままだと、新規ランタイムの割り当てが「セッションが多すぎます」で拒否された。

今回新たに踏んだ罠

生成してみた

実際に、都市の川沿いを一人でジョギングしながらスポーツドリンクを飲む成人女性が写る、さわやかなCM風の動画を1本生成しました。30ステップの設定で、長さは約5.2秒です。

実在の人物ではなく、テキストプロンプトから生成した架空の人物です。

プロンプトは英語で「20代半ばの成人女性が、都市の川沿いのランニングコースを一人でジョギングし、スポーツドリンクを飲んでいる、さわやかな朝の光、都市の高層ビルと橋を背景に、CM風」という趣旨の内容を指定しました。ボトルのラベルには判読可能な文字を入れるよう指定しましたが、実際の出力ではロゴらしき図形と、文字のような崩れた模様が再現されるにとどまり、読める文字にはなりませんでした。動画生成AIが総じて文字のレンダリングを苦手とする傾向を、この生成でも裏付ける結果です。

04 · WHY IT MATTERS

この仕組みが意味を持つこと

本記事の内容は、直接の売買助言にはなりません。ただし、AI関連企業やサービスを理解するうえでの前提として押さえておく価値があります。

① 「オープンウェイト」は参入障壁をゼロにはしない

モデルの重みが無料でも、動かすための計算資源とノウハウというコストはそのまま残ります。今回の検証だけでも、従量課金からColab Proへの契約変更、ハイメモリ設定への変更と、複数回のインフラ調整が必要でした。「重みを公開する」ことと「誰でもすぐ使える」ことの間には、まだ距離があります。

「重みを公開する」ことと「誰でもすぐ使える」ことの間には、まだ距離がある。

本記事の結論

② 個人でも数千円/月の投資で動画生成AIが動かせる時代

Colab Pro月額¥1,179〜という比較的小さな投資と、1本あたり実測10分程度の生成時間があれば、個人でも音声つきの動画を1本作れます。同様の需要はクラウドGPUを提供する事業者側にも積み上がっており、動画生成AIの普及がGPUクラウドの需要にそのまま連動する構図がここでも見えます。

③ ライセンスは「描写の可否」ではなく「利用目的」で線引きされている

本記事で確認した通り、MiniMax H3のライセンスは特定の被写体の描写そのものを禁じるのではなく、「搾取・加害する利用」という目的ベースで禁止用途を定めています。この設計思想は他の主要なAIモデルの利用規約とも共通しており、AI生成コンテンツのモデレーション実務を理解する土台になります。

本記事で紹介した数値・手順は、あくまで当サイトが2026年8月に実機で確認した結果であり、Colabの仕様変更やモデルの更新により今後変わる可能性があります。特定の銘柄やサービスの購入・利用を推奨するものではなく、一般的な情報提供を目的としています。

SOURCES

一次情報・参考文献

⚠ 留意点

FAQ

Q. MiniMax H3は誰でも無料で動かせるのですか?
モデルの重み自体はHugging Faceで無料公開されており、日本からは通常ライセンスで利用できます。ただし実際に動かすには専用のGPU環境が必要で、本記事で見た通り従量課金のColabでは失敗し、Colab Pro(月額¥1,179〜)以上の契約が実質的に必要でした。「重みが無料」と「動かすコストがゼロ」は別の話です。

Q. なぜGPUのVRAMではなく、ディスクやシステムRAMで失敗するのですか?
モデルの重みをダウンロードする段階ではGPUを使わずディスクだけを消費するため、ディスクが小さいと生成を始める前に容量不足で止まります。またパイプラインを組み立てる段階(本記事のload_components相当の処理)はCPU側で行われる部分があり、ここでシステムRAM(VRAMとは別物)を大量に使います。GPUのVRAM自体は、量子化とオフロードを正しく設定すれば本記事の環境では最後まで余裕がありました。

Q. このモデルのライセンスは、どんな内容でも生成してよいのですか?
いいえ。MiniMax H3 Community LicenseのExhibit A(禁止用途リスト)第6項には「Use in any manner that exploits or harms, or intends to exploit or harm, minors」(未成年を搾取・加害する、またはその意図がある利用の禁止)という条項があるほか、性的コンテンツ・暴力的コンテンツ等も禁止用途リストに含まれます。生成前に必ず原文を確認することを推奨します。

Q. この記事の内容は投資判断に関係しますか?
直接の売買助言にはなりません。ただし「オープンウェイト=コストゼロ」ではなく、実際の運用コストの多くが計算資源(GPU・ディスク・メモリ)に残るという構造は、AI関連企業がどの層で収益を上げているかを見分ける視点の一つになります。特定の銘柄やサービスの購入・利用を推奨するものではありません。

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本記事は、当サイト編集部がMiniMax H3というAIモデルをGoogle Colab上で実際に操作して観測した挙動、および公開されている一次資料を基に整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品やAIサービス・クラウドサービスの購入・利用を推奨・勧誘するものではありません。AI製品・クラウドサービスの仕様は更新により変化する可能性があります。最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

出典:MiniMax-H3公式リポジトリ・ライセンス原文(Hugging Face)、diffusers公式ドキュメント、Google Colab公式サイト、当サイト編集部による直接操作・実測(2026年8月7日時点)。