INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第38号
為替介入は、翌日は8割効く。1カ月後には、しなかった日と区別がつかない
編集部・最終更新 2026年8月8日
2026年7月31日、日米両政府はおよそ28年ぶりとなる円買い方向での協調為替介入を実施しました。1ドル=164円に迫っていた円相場は、数日で155円台前半まで戻しています。「介入は本当にレートを動かすのか、それはどれくらい続くのか」を、財務省が自ら公表している1991年以降の全介入記録と、実際のドル円の値動きで検証しました。
本記事は、財務省「外国為替平衡操作の実施状況」、セントルイス連銀(FRED、DEXJPUS系列)の為替データを基に、当サイト編集部が整理・実測したものです(手法はFOMC声明日・米雇用統計の検証(tools/fomc, tools/nfp)と同一設計)。日付・数値は2026年8月8日時点。
介入の翌日は、円買い平均+1.54%(勝率80%)・円売り平均+0.73%(勝率65%)と、どちらも平常日と統計的に有意に区別できます(p=0.0000)。円買い介入は1週間後も効果が残りますが(p=0.0006)、円売り介入は1週間で早くも平常日と区別がつかなくなります(p=0.35)。そして両方向とも、1カ月後には平常日との差が消えます(円買いp=0.85・円売りp=0.64)。介入は需給への一時的な衝撃としては強く働きますが、中期のトレンドそのものを変える力までは、平均的には持ちません。
円買い・介入翌日
+1.54%
勝率80%・p=0.0000
円買い・1カ月後
+0.24%
p=0.8515・平常日と区別つかず
母集団
33エピソード
1991年〜・円買い10/円売り23
02 · THE DATASET
母集団 — 1991年以降33エピソード
財務省のCSVを全数取得し、日本円が関わらない操作(米ドル/独マルク、米ドル/インドネシアルピア=1997-98年のアジア通貨危機支援で計6行)を除外すると、363件の日次記録が残ります。同じ方向の介入が間を空けずに続く場合は「一連の作戦」として市場も受け止めるため、方向が同じで30日以内に次の操作があるものは1つのエピソードにまとめ、初日を効果測定の基準日(day0)としました。これで33エピソード(円買い10・円売り23)になります。
方向が反転する隣接エピソード同士は、最短でも209日(day0間隔)離れており、本記事が主に見る1カ月以内の効果測定ウィンドウが逆方向の別エピソードを巻き込む心配はありません。
| 期間 | 方向 | 日数 | 合計金額 |
| 1998-06-17 | 円買い(日米協調) | 1日 | 2,312億円 |
| 2003-08-29〜2004-03-16 | 円売り | 85日 | 262,308億円 |
| 2011-10-31〜2011-11-04 | 円売り | 5日 | 90,917億円 |
| 2022-09-22〜2022-10-24 | 円買い | 3日 | 91,880億円 |
| 2024-04-29〜2024-05-01 | 円買い | 2日 | 97,885億円 |
| 2024-07-11〜2024-07-12 | 円買い | 2日 | 55,348億円 |
| 2026-04-30〜2026-05-06 | 円買い | 3日 | 117,348億円 |
全33エピソードの抜粋。1990年代は円売り介入(円高是正)が主流、2022年以降は円買い介入(円安是正)に転じている。出典: 財務省「外国為替平衡操作の実施状況」。
03 · THE NEXT-DAY EFFECT
直後は動く — 介入翌日の実測
各エピソードの初日前営業日の終値を基準に、意図した方向(円買いなら円高、円売りなら円安)への変化を「+」になるよう符号を揃えて集計しました。介入翌日(T+1)は、どちらの方向でもはっきり動いています。
| 方向 | n | 平均 | 中央値 | 勝率 | 平常日平均 | p値 |
| 円買い介入・翌日 | 10 | +1.54% | +1.60% | 80.0% | +0.00% | 0.0000 |
| 円売り介入・翌日 | 23 | +0.73% | +0.23% | 65.2% | ▲0.00% | 0.0000 |
符号は「意図した方向への変化」がプラスになるよう調整済み(円買い介入は生の変化率を反転)。平常日平均は1991年以降の全営業日の同ウィンドウ・同符号での平均。
04 · THE DECAY
だが1カ月は持たない
翌日・1週間後・1カ月後(主指標)、参考として3カ月後まで並べると、効果が時間とともに縮んでいく様子がはっきり出ます。
FIG. 01 — 介入効果は時間とともに縮む(翌日→1週間後→1カ月後)
図: 為替介入の効果は時間とともに縮む。円買い介入は1週間後まで有意な効果が残るが、円売り介入は1週間で早くも縮む。どちらも1カ月後には平常日との差が統計的に消える。出典は本文および一次情報リンク集を参照。
円買い介入は1週間後も統計的に有意な効果を保ちますが(p=0.0006)、円売り介入は1週間でもう平常日と見分けがつかなくなります(p=0.3464)。そして両方向とも、1カ月後には効果が消えます(円買いp=0.8515・円売りp=0.6447)。参考値の3カ月後(T+60)も同様に有意差はありません(円買いp=0.6953・円売りp=0.5739)。
05 · BUY VS. SELL
円買いと円売りの非対称
円買い介入(円安を止める)のほうが、円売り介入(円高を止める)より効果が強く、長持ちする傾向がはっきり出ました。翌日の勝率は円買い80.0%に対し円売り65.2%。1週間後の勝率は円買いがまだ80.0%を保つのに対し、円売りは47.8%とコイン投げより低くなります。
1週間後の勝率は円買いがまだ80.0%を保つのに対し、円売りは47.8%とコイン投げより低くなります
本記事の実測結果
介入前のトレンドを見ると、円買い介入は平均+2.78%(直前20営業日の円安方向)、円売り介入は平均▲2.64%(直前20営業日の円高方向)の局面で発動されており、「レートが行き過ぎたと判断したら動く」という運用は方向によらず一貫しています。効果の非対称は、発動基準ではなく市場側の反応の違いから来ています。
介入前のトレンドが「対処すべき逆風」だったケースに限って、1カ月後(T+20)に反転できたかを見ると、円買いで8件中5件(62.5%)、円売りで22件中13件(59.1%)。およそ6割はコイン投げよりやや高い程度で、§4の「1カ月後は平常日と区別がつかない」という結果と整合します。
06 · CASE FILES
個別エピソードが語ること
平均だけでは見えない話が、個別のエピソードには残っています。
1998年4月と6月 — 単独は失速、協調は持続
1998年は日本単独の円買い介入(4月9〜10日・2兆8,158億円)が先に行われましたが、翌日▲1.83%・1週間後▲2.41%と一度は効いたものの、1カ月後には+0.07%まで戻ってしまい、円安は止まりませんでした。2カ月後、日本は144円台まで売り込まれた場面で、米国と歩調を合わせた協調介入(6月17日)に踏み切ります。こちらは翌日▲4.42%・1週間後▲3.42%・1カ月後も▲2.92%と、単独介入より明確に長持ちしました。n=1の実例なので統計的な結論にはできませんが、今回(2026年7月31日)と同じ「協調」という型の、数少ない参考例です。
2022年9-10月 — 効果が切れて、もう一度打った
2022年9月22日の円買い介入(単独・2兆4,000億円規模)は、24年ぶりの円買い介入として話題になりましたが、実測では1週間後+0.01%とほぼフラットまで戻り、1カ月後には+3.94%(円安方向へ逆戻り)していました。効果が切れたところに、10月21日・24日と立て続けに追加の介入が入っています。「1回打てば終わり」ではなく「切れたら打ち直す」運用実態が、この1件に凝縮されています。
2024年7月 — 数字が強すぎて、逆に注意が要る例
2024年7月11〜12日の円買い介入は、1カ月後▲8.85%と全エピソード中もっとも強い「成功」に見えます。ただしこの1カ月後という時点は、3週間後の日銀利上げ(2024年7月31日)と、その直後のキャリートレード巻き戻し(2024年8月5日、世界的な株安)を測定ウィンドウに巻き込んでいます。介入単体の効果とは言い切れないため、この1件を除いて円買い介入の1カ月後を再計算すると、平均は+0.24%から▲0.71%まで下がります(§7)。強すぎる数字は、まず交絡を疑うべきだという実例です。
強すぎる数字は、まず交絡を疑うべきだという実例です
本記事の分析 — 2024年7月のエピソードより
07 · THE ROBUSTNESS CHECK
頑健性チェック — プラセボ検定
§3〜4の結果が介入日に固有のものかを確かめるため、各エピソードのday0を営業日単位で±5〜±25日ずらした「偽の介入日」で同じ統計を作り直しました(本物の介入日に重なった偽イベントは除外)。
| 指標 | 実測 | プラセボ平均 | 実測以上に外れたプラセボの割合 |
| 円買い・翌日 | +1.54% | ▲0.22% | 0/10(実測が最大) |
| 円買い・1週間後 | +1.81% | ▲0.53% | 0/10(実測が最大) |
| 円買い・1カ月後 | +0.24% | ▲1.02% | 9/10(近傍の日と大差ない) |
| 円売り・翌日 | +0.73% | ▲0.07% | 0/10(実測が最大) |
| 円売り・1週間後 | +0.26% | ▲0.33% | 3/10 |
| 円売り・1カ月後 | +0.22% | ▲1.16% | 9/10(近傍の日と大差ない) |
ずらし幅は10通りのみ(±5・10・15・20・25営業日)のため厳密な有意性検定ではなく、近傍の日と比べて外れているかの記述統計。
翌日の効果は、円買い・円売りとも10通りのプラセボすべてより大きく、介入日に固有の反応であることが確認できます。一方、1カ月後の効果は9割のプラセボが実測と同程度かそれ以上に外れており、「1カ月後の水準」は介入の有無で説明できる範囲を超えていることが分かります。§6で触れた2024年7月のエピソードを除いて円買いの1カ月後を再計算すると、平均+0.24%→▲0.71%、n=9。交絡を除くと、むしろ「1カ月後はやや逆戻り」に近い数字になります。
08 · THE 2026 EPISODE
今回(2026年7月31日)の位置づけ
2026年7月31日の介入は、財務省の確報がまだ出ていないため(§1)、本記事の統計には含まれていません。ただし公開情報からいくつか位置づけられることがあります。
- 片山さつき財務相は8月3日、7月31日に米財務省と協調して円買い介入を実施したと発表。円買い方向での日米協調は1998年6月17日以来28年ぶり、協調介入そのものは2011年3月18日(震災後のG7協調円売り介入)以来15年ぶりとされている
- 財務省の統計は「協調」かどうかを区別する列を持たない。本記事の円買い10エピソードのうち、米国との協調が公式に確認できるのは1998年6月17日のみで、2022年・2024年(2回)・2026年4-5月は日本単独の判断による操作とみられる
- 唯一の協調型の参考例(1998年6月)は、単独介入(1998年4月)より1カ月後の効果が明確に残った(§6)。ただしn=1であり、「協調だから効く」と一般化できる件数ではない
- 前日(7月30日)には日本単独の円買い・ドル売り介入も実施されたと報じられている。FRED(DEXJPUS)の終値でも7月29日163.86→7月30日159.47と、単日で4.4円の大幅な変化が確認できる
今回の介入が過去33エピソードの平均的な「翌日は効くが1カ月は不確か」というパターンをなぞるのか、それとも1998年6月のような協調ならではの持続を見せるのかは、2026年11月頃に財務省の確報が出た時点で追跡する予定です。
09 · THE TAKEAWAY
当サイトの整理
「為替介入」という1つの政策手段の中に、性質の異なる3つの事実が同居しています。
一つ目は即効性の話です。介入翌日は円買い・円売りとも平常日と統計的に有意に区別でき、プラセボ検定でも介入日に固有の反応であることが確認できました。財務省が「無秩序な動きに対処した」と説明する意味での、短期的な衝撃はデータ上も裏付けられます。
二つ目は持続性の話です。円買いは1週間、円売りは1週間ですら効果が縮み、両方向とも1カ月後には平常日と区別がつかなくなります。介入は需給への一時的な衝撃であって、金利差やファンダメンタルズが変わらない限り、中期のトレンドを変える力までは平均的には持ちません。
三つ目はその二つをつなぐ話です。効果が切れたら、また打つ——2022年9-10月がその実例で、1回の介入を「効いた・効かなかった」で単発評価するのではなく、一連の運用として見る必要があります。
効果が切れたら、また打つ——2022年9-10月がその実例で、1回の介入を「効いた・効かなかった」で単発評価するのではなく、一連の運用として見る必要があります
本記事の整理
10 · WHAT IT MEANS FOR INVESTORS
投資家への含意
介入のニュースを見て「これで円安トレンドが終わった」と結論づけるのは、少なくとも過去33エピソードの平均からは早すぎるようです。翌日・1週間の値動きに介入の効果が乗ること自体は統計的に裏付けられますが、1カ月というスパンで見ると、効果は平常の値動きに埋もれてしまいます。
「これで円安トレンドが終わった」と結論づけるのは、少なくとも過去33エピソードの平均からは早すぎるようです
本記事の結論
むしろ実践的なのは、「効果が切れたときに何が起きるか」を知っておくことかもしれません。2022年の例が示すように、効果が切れれば当局は打ち直します。今回のような協調介入は過去に1例しかなく、単独介入より持続した参考例ではありますが、統計的な結論を出せる件数ではありません。次にドル円が再び円安方向へ動いたとき、追加の介入が入るかどうかが、このパターンが今回も繰り返すかの試金石になります。本記事は特定の資産配分・金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
⚠ 留意点
- ドル円の価格データはyfinanceではなくFRED(DEXJPUS、NY時間の仲値)を使用しています。Yahoo Financeのドル円日足は2022〜2025年、始値が実質欠損していることを確認済みのため採用していません(tools/fomc/fetch_prices.py)。
- 母集団は財務省が「日本円を含む」と記載した操作のみを対象とし、日本円が関与しない操作(米ドル/独マルク、米ドル/インドネシアルピア=1997-98年のアジア通貨危機支援)を6件除外しています。
- 財務省の統計に「協調」かどうかを示す列はありません。協調の有無は報道・財務大臣談話等の外部情報に基づく判断で、本記事の母集団の分類には反映していません。
- 直近の確報は2026年5月分までです。2026年7月31日の介入は日次の金額がまだ財務省から公表されておらず、本記事の統計(33エピソード)には含まれていません。
- エピソード化(同方向・30日以内の連続操作を1件にまとめる処理)により、一部のエピソードは開始日から数カ月にわたります(例: 2003年8月〜2004年3月の85日間)。効果測定は初日を基準日(day0)としており、その後も断続的に操作が続くケースでは、測定した「効果」に追加の操作の影響が含まれます。
- 2024年7月のエピソードは3週間後の日銀利上げ・キャリートレード巻き戻しと測定ウィンドウが重なるため、1カ月後の数値は介入単体の効果と言い切れません(§6・§7)。
- ベースライン(平常日)は1991年以降の全営業日から計算しており、介入後の期間を除外していません。介入効果が本当に持続するなら、この保守的な取り扱いにより実際の差は本記事の数値よりやや大きく出る可能性があります。
- 日付・数値は2026年8月8日時点の公開資料に基づきます。今後の財務省の確報で数値が更新される可能性があります。
- 本記事は特定の資産配分・金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
FAQ
為替介入とは何ですか?誰がいつ実施するかは公表されているのですか?
政府(財務大臣)の指示に基づき日本銀行が外国為替市場でドルと円を売買し、レートに影響を与える公的な操作です。財務省は「外国為替平衡操作の実施状況」として、1991年4月以降の実施日・金額(億円)・売買した通貨の組み合わせを自ら公表しています。ただし公表は四半期ごとに、その四半期が終わってから行われるため、直近の介入(たとえば2026年7月31日の実施)は本記事執筆時点でまだこの公式記録に載っていません。
介入は本当にドル円のレートを動かすのですか?
1991年以降の33エピソード(円買い10・円売り23)を実測すると、介入翌日は円買い平均+1.54%(勝率80%)・円売り平均+0.73%(勝率65.2%)で、いずれも平常日と統計的に有意に区別できます(p=0.0000)。介入日をずらしたプラセボ検定でも、この翌日の効果は10通りの偽イベントすべてより大きく、介入日に固有の反応であることを確認しています。
なぜ効果は1カ月で消えてしまうのですか?
介入から20営業日(約1カ月)後の変化を見ると、円買い平均+0.24%(p=0.8515)・円売り平均+0.22%(p=0.6447)と、どちらも平常日と統計的に区別がつかなくなります。プラセボ検定でも、実測の1カ月後の値は10通りの偽イベントのうち9割がそれ以上に外れており、「1カ月後の水準」は介入の有無で説明できる範囲を超えています。介入は為替の需給に一時的な衝撃を与えますが、金利差やファンダメンタルズといった中期のトレンドそのものを変える力までは、平均的には持たないということです。
2026年7月31日の「28年ぶり」の日米協調介入は、これまでの介入と何が違うのですか?
財務省の統計は日本単独の操作を記録するもので、「協調」かどうかを区別する列はありません。過去33エピソードの大半は日本単独の判断による操作で、米国と歩調を合わせたことが公式に確認できる円買い協調介入は1998年6月17日(単日・2,312億円)まで遡ります。このときは翌日+4.42%・1週間後+3.42%・1カ月後も+2.92%と、単独介入より持続した数少ない実例でした。ただしn=1であり、統計的な結論を出せる件数ではありません。今回(2026年7月31日)の分は財務省の確報がまだ出ていないため、本記事の実測データには含まれていません。
本記事は財務省・セントルイス連銀(FRED)が公開する一次資料を基に当サイトが整理・実測した一般的な情報提供を目的としており、特定の政治的立場を主張するものでも、金融商品・資産配分の購入・売却を推奨・勧誘するものでもありません。検証結果は公開時点の資料に基づくものであり、記載内容は作成時点のものです。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典:財務省「外国為替平衡操作の実施状況」、セントルイス連銀(FRED、DEXJPUS)(2026年8月8日時点)。