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INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第35号

オルカンから資金が逃げたことは、一度もなかった — 設定来7回の下落局面を全部実測した

オルカンが33.8%下落したコロナショックの間も、資金の流出は起きていません。2018年10月の設定以来、基準価額が全期間最高値から10%を超えて下落した局面は7回ありましたが、高値から底値までの累計資金フローが純流出に転じたことは、そのどれにもありません。

オルカンの開発を主導した代田秀雄氏は、値下がりに耐えられず保有を手放してしまうことを投資家のありがちな失敗として挙げています(日本経済新聞、2026年8月6日のインタビュー)。この不安が実際の資金の動きに表れているかどうかを、資産運用業協会「投信総合検索ライブラリー」の公開データ(基準価額・純資産の設定来全期間)から口数を復元して実測しました(2026年8月5日時点・当サイト実測、編集部構成)。

判定
自動が支えた

8%〜33.8%下がった局面(閾値10%で7回、5〜15%まで振っても4〜12回の範囲で結果不変)、高値から底値までの累計資金フローが純流出になったことは一度もありません。下落局面中の資金純流出日の割合(4.7%)は平常時(6.1%)よりわずかに低い程度で、統計的な有意差はありません(p=0.35)——正確には「流出日が増える様子はまったく見えない」。ただしこれは集計値であり、個人単位の売買までは見えません。特定の暦日に資金が偏って集まっており、NISAつみたての自動買付が相当部分を占めていると考えられます。

下落局面(閾値10%)
7回
5〜15%で振っても4〜12回・結果は不変
累計フローが純流出だった回数
0回
どの閾値でも一度もなし
流出日率 局面中 / 平常時
4.7% / 6.1%
z検定 p=0.35(有意差なし)
設定来の累計資金流入
9.09兆円
現在の純資産13.32兆円の68.3%
FIG. 01 — 基準価額と累計資金フローの推移 オルカン 基準価額と累計資金フローの推移(2018-10-31〜2026-08-05) 基準価額(円)——帯は下落局面(閾値10%) 累計資金フロー(兆円)——同じ帯 世界同時株安(米利上げ懸念・政府閉鎖) (-15.4%) 世界同時株安(米利上げ懸念・政府閉鎖) (-15.4%) コロナショック (-33.8%) コロナショック (-33.8%) 利上げ加速+ロシアのウクライナ侵攻 (-13.6%) 利上げ加速+ロシアのウクライナ侵攻 (-13.6%) インフレ・利上げ第2波 (-12.9%) インフレ・利上げ第2波 (-12.9%) 2022年型の続き(インフレ高止まり) (-11.5%) 2022年型の続き(インフレ高止まり) (-11.5%) 令和のブラックマンデー(円キャリー巻き戻し) (-16.8%) 令和のブラックマンデー(円キャリー巻き戻し) (-16.8%) トランプ関税ショック (-20.5%) トランプ関税ショック (-20.5%) 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 8,102 38,532 0.0兆 9.1兆 コロナショック ▲33.8% 令和のブラックマンデー ▲16.8% トランプ関税ショック ▲20.5%
図: オルカンの基準価額と累計資金フローの推移(2018年10月31日〜2026年8月5日)。赤い帯は全期間最高値から10%以上下落した局面(7回)。上段の価格は帯の中で大きく沈むが、下段の累計資金フローは同じ帯の中でも一度も下向きに転じていない。出典:資産運用業協会「投信総合検索ライブラリー」、当サイト実測。
01 · THE METHOD

データと方法——口数復元と下落局面の機械検出

オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式〈オール・カントリー〉)は2018年10月31日設定で、資産運用業協会(旧・投資信託協会)「投信総合検索ライブラリー」の遡及20年の制限に掛からず、設定来の基準価額・純資産総額・分配金が全期間そのまま取得できます。分配金は毎年4月に決算していますが、金額は設定来ずっと0円——実質的な無分配型です。

資金の流出入は、口数(純資産×10000÷基準価額)を日次で復元し、その増減に当日の基準価額を掛けて推計します。分配金が常に0円なので、この式は分配実務の摩擦を含まず「新規設定−解約」だけを表します。

下落局面は機械的に検出しました。全期間最高値からの下落率が閾値以上に達した区間を1エピソードとし、次に全期間最高値を更新した時点でエピソードを閉じます。手で事例を選ぶ余地はなく、裁量が入るのは閾値の値だけです。主結果には一般的な「調整」の目安である10%を使い、5〜15%まで振って結果が変わらないかを確認しています(後述)。各局面の「平常時との比較」には、局面の高値の直前60営業日の平均フローを物差しに使いました。オルカンの純資産は年々増え続けているため、全期間平均を基準にすると初期の局面が不当に小さく、直近の局面が不当に大きく出てしまうためです。

02 · THE SCORECARD

実測①:7回の下落局面、資金は一度も流出しなかった

閾値10%で検出した7回の下落局面すべてで、高値から底値までの累計資金フローを集計しました。

局面高値→底値下落率高値時点AUM局面中の累計フローフロー/AUM(直前60日基準)流出日/取引日
世界同時株安2018-11-08→12-25▲15.4%1.3億円+5.4億円429.8%(基準512.8%)3/31日
コロナショック2020-02-21→03-24▲33.8%180.8億円+47.2億円26.1%(基準13.8%)0/20日
利上げ加速+ウクライナ侵攻2022-01-05→03-09▲13.6%4,052億円+660.6億円16.3%(基準13.5%)2/42日
インフレ・利上げ第2波2022-04-20→06-17▲12.9%5,220億円+697.5億円13.4%(基準9.3%)2/38日
2022年型の続き2022-09-13→2023-01-04▲11.5%7,054億円+1,479.4億円21.0%(基準17.0%)2/74日
令和のブラックマンデー2024-07-11→08-06▲16.8%4.10兆円+1,334.4億円3.3%(基準4.1%)1/17日
トランプ関税ショック2025-01-24→04-09▲20.5%5.53兆円+4,716.3億円8.5%(基準10.6%)2/50日

※当サイト実測。投信総合検索ライブラリーの基準価額・純資産から口数を復元。「フロー/AUM」は局面の高値時点の純資産に対する累計フローの比率、「基準」は局面直前60営業日の平均フロー率×同じ日数。2018年の局面はAUMが1.3億円しかなく、比率が数百%に達するのは分母が極端に小さいため(参考値)。

7回のうち4回(コロナショック、2022年の3つの波)は、直前60日の基準よりもフローが加速しています。残る3回(2018年、令和のブラックマンデー、トランプ関税ショック)はやや減速していますが、それでも累計はプラスのままです。つまり「下落局面でむしろ買いが増える」と言い切れるわけではなく、加速する局面と減速する局面の両方がある——ただしマイナスに転じたことは、この7回に一度もありません

加速する局面と減速する局面の両方がある——ただし、マイナスに転じたことは、この7回に一度もありません。

実測①・7局面(閾値10%)の累計フロー
03 · THE THRESHOLD TEST

実測②:閾値を5〜15%に振っても結果は同じ

「10%」という区切りは一般的な「調整」の目安ですが、恣意的に選べば結果を作れてしまいます。そこで閾値を5%から15%まで動かし、検出される局面の数を変えても結論が揺れないかを確認しました。

閾値検出局面数純流出だった局面流出日率(局面中)流出日率(平常時)p値
5%12回0回4.8%6.2%0.292
8%8回0回5.0%6.1%0.435
10%(本稿の基準)7回0回4.7%6.1%0.352
12%6回0回5.4%5.9%0.759
15%4回0回4.9%5.9%0.644

※当サイト実測。p値は下落局面中と平常時の資金純流出日率の差についての2群比率z検定(両側)。

検出される局面が4回でも12回でも、純流出になった局面はゼロのままです。流出日率もどの閾値でも局面中のほうが平常時と同程度かやや低く、p値は0.29〜0.76の範囲で、有意水準5%に一度も届きません。10%という閾値の選び方が結論を作っていたわけではないことが、これで確認できます。

検出される局面が4回でも12回でも、純流出になった局面はゼロのままです。

実測②・閾値5〜15%の感応度検証
04 · THE SIGNIFICANCE TEST

実測③:流出日率は下落局面中と平常時で統計的に見分けがつかない

閾値10%の7局面(延べ279営業日)と、それ以外の平常時(延べ1,612営業日)で、資金が純流出になった日の割合を比べました。

点推定だけを見ると下落局面のほうが低く、「下落局面でむしろ投資家が買っている」と書きたくなりますが、この差はp=0.35でまったく有意ではありません。サンプルサイズ(局面中279日・平常時1,612日)に対して、両群の割合の差は誤差の範囲に収まっています。正確な言い方は、「下落局面で資金流出日が増える様子は、統計的にはまったく見えない」——増えたとも減ったとも言い切れない、というのが最も慎重な表現です。

05 · THE OUTLIER DAY

唯一目立つ単日流出は、暴落当日ではなく2日後に出ている

設定来1,891営業日のうち、資金が純流出になった日は111日(5.9%)です。そのうち最大の流出額は▲78.9億円で、日付は2024年8月7日でした。

市場全体が急落した「令和のブラックマンデー」の当日は2024年8月5日、当サイトの検出でこの局面の底値になった日は8月6日です。最大の単日流出は、暴落の当日でも底値の当日でもなく、市場が反発に転じたその翌日に出ています。パニックの最中に売りが殺到したのではなく、底を打って落ち着いたタイミングで一部の資金が抜けた、と読むほうが実態に近そうです。

最大の単日流出は、暴落の当日でも底値の当日でもなく、市場が反発に転じたその翌日に出ています。

2024年8月7日の単日フロー

逆方向で最大の単日流入は+1,539.1億円、日付は2026年1月7日です。新しい年のNISA枠が使えるようになった直後の営業日で、年初の一括投資が集中しやすいタイミングと一致します。

06 · THE CALENDAR BIAS

この「握力」の中身は何か——暦日への偏り

ここまでの実測は、あくまでファンド全体を集計したフローです。個人単位で見れば下落局面で売った投資家も当然いるはずで、それを上回る新規資金が入り続けているために集計が純流入のまま保たれている、という可能性は否定できません。

手がかりの1つが、資金が入ってくる暦日の偏りです。直近3年(2023年1月〜)の日次流入を暦日ごとに平均すると、次のようになりました。

暦日平均流入(直近3年)全体平均比
5日284億円3.0倍
4日219億円2.3倍
10日195億円2.1倍
(全暦日の平均)95億円1.0倍

※当サイト実測。2023年1月4日〜2026年8月5日の日次フローを暦日(1〜31日)ごとに平均。営業日でない日は当然0件で平均から除外。

5日・4日・10日という特定の暦日に資金が突出して集まるのは、投資家が毎日相場を見ながら判断しているというより、あらかじめ設定された積立が、決まった日に自動実行されている状態と整合します。NISAのつみたて投資枠は自動買付が基本であり、下落局面でも解約しない限り淡々と買い続けます。この実測が示しているのは「集計に売りが表れていない」ことであって、「投資家一人ひとりが動揺しなかった」ことの証明ではありません——握力の相当部分は、投資家の胆力よりも制度の自動性によるものと考えるのが実態に近いはずです。

握力の相当部分は、投資家の胆力よりも制度の自動性によるものと考えるのが実態に近いはずです。

実測・暦日別の資金流入(直近3年)
07 · THE ROBUSTNESS CHECK

結果を疑う

1. 極端に小さいAUMの局面が結論を作っていないか

2018年の局面は高値時点のAUMが1.3億円しかなく、比率が跳ねやすい状態です。この局面を除いて残り6局面だけで見ても、純流出になった局面は0回のままで、結論は変わりません。

2. データ異常が紛れていないか

基準価額の日次リターンで±7%を超えた日を確認したところ、2020年3月のコロナショック週(3営業日、▲8.92%〜+9.01%)と2025年4月10日(トランプ関税ショック底値の翌営業日、+7.29%)に限られていました。設定来1,892営業日で最大の値動きは9.26%で、投信の基準価額としては不自然な跳躍(分割・データ事故を疑うような20%超の変動)は1件もありません。

3. 閾値の選び方が結論を作っていないか

前述(実測②)のとおり、5%から15%まで振っても純流出の局面は一度も出ず、流出日率の差も一貫して有意ではありませんでした。

留意点

SOURCES

出典と一次資料

計算コードと中間データは当サイトが保持しています。口数復元・下落局面の検出・閾値感応度チェック・z検定はすべてネットワークに依存せず再実行でき、実測とは独立に検証できる構成にしてあります。

FAQ

オルカンは下落局面で資金が流出したことがありますか?

実測の範囲では一度もありません。2018年10月の設定から2026年8月まで、基準価額が全期間最高値から10%以上下落した局面は7回ありました(2018年末の世界同時株安、2020年のコロナショック〈▲33.8%〉、2022年の3つの波、2024年の令和のブラックマンデー〈▲16.8%〉、2025年のトランプ関税ショック〈▲20.5%〉)。当サイトが投信総合検索ライブラリーの基準価額・純資産から口数を復元して実測したところ、このどの局面でも、高値から底値までの累計資金フローが純流出になったことはありません。下落率の閾値を5%から15%まで振って12回から4回まで検出局面数を変えても、純流出になった局面は一度も出てきませんでした。

資金の流出入はどうやって計測していますか?

オルカンの基準価額と純資産総額(ともに資産運用業協会の投信総合検索ライブラリーで公開)から、口数(純資産×10000÷基準価額)を日次で復元し、その増減に当日の基準価額を掛けて資金の純流入を推計しています。オルカンは決算こそ毎年4月にありますが分配金は設定来ずっと0円(実質無分配)なので、この式は分配金の再投資や払い出しに伴う摩擦を含まず、単純に「新規の設定と解約の差」だけを表します。

下落局面と平常時で、資金が流出する日の割合に差はありますか?

統計的に意味のある差は見つかりませんでした。閾値10%で検出した7回の下落局面(延べ279営業日)のうち、資金が純流出になった日は4.7%です。それ以外の平常時(延べ1,612営業日)では6.1%で、むしろ下落局面のほうがわずかに低いという結果でした。ただし2群の比率のz検定ではp値0.35で、有意水準5%を満たしません。閾値を5%から15%まで振っても同じ傾向(下落局面中がやや低いか同程度、有意差なし)が続くので、正確な言い方は「下落局面で資金流出日が増える様子はまったく見えない」です。

オルカンの現在の純資産はいくらですか?

2026年8月5日時点で13兆3,150億円です(当サイトが投信総合検索ライブラリーのデータで実測)。2018年10月31日の設定から現在までの累計資金流入は9兆939億円で、現在の純資産の68.3%にあたります。残りは主に値上がり益です。

これは「投資家がパニック売りしていない証拠」と言えますか?

言い切るのは慎重であるべきです。この実測はファンド全体を集計したフローであり、個人単位の売買までは見えません。一部の投資家が売っていても、それを上回る新規流入があれば集計は純流入のままになります。実際、直近3年の日次流入を暦日で平均すると特定の日(5日・4日・10日)に資金が偏って集まっており、これは投資家が毎日相場を見て意思決定しているというより、あらかじめ設定した積立が自動的に実行されている状態と整合します。この実測が示しているのは「集計に売りが表れていない」ことであって、「投資家一人ひとりが動揺しなかった」ことの証明ではありません。

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本記事は公開情報(資産運用業協会「投信総合検索ライブラリー」の基準価額・純資産総額データ、日本経済新聞の報道)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・検証した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績・パターンは将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:資産運用業協会(旧・投資信託協会)「投信総合検索ライブラリー」、日本経済新聞。基準価額・純資産データは2026年8月5日時点まで(実測・集計は当サイト算出、2026年8月6日時点・編集部構成)。