INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第24号
「世界のベスト」の毎月150円は、稼ぐ力の2倍を配る水準だった。年13.8%稼いだ9年半でも、基準価額は4割減った
編集部・最終更新 2026年8月1日
「世界のベスト」(インベスコ世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>毎月決算型)は、純資産4兆2,136億円(2026年7月30日)と、国内のアクティブファンドとして最大級の存在になりました。当サイトの実測では、2025年に1兆4,183億円、2026年も7月までに9,535億円の資金が流入しています。買われている理由ははっきりしています——毎月、1万口あたり150円の分配金。では、これは安心して持っていられる商品なのか。
この問いに数字で答えるため、資産運用業協会(旧・投資信託協会)の公開データベースから基準価額・分配金・純資産の直近20年・約4,900営業日を取得し、分配金を再投資したトータルリターン、オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式)との比較、分配水準の維持可能性、そして前例(このファンド自身の分配停止とグロソブの減配史)を全部実測しました。分配金の中身は運用報告書の原本で確認しています(2026年7月31日時点・編集部構成)。
運用は本物、分配水準は算術的に続かない。毎月分配が始まった2016年末からのトータルリターンは年+13.8%と指数並みに稼いでいるのに、分配率(毎年13.7〜21.8%)が9年半の稼ぎを平均で上回ったため、基準価額は16,245円→9,253円(▲43%)。いまの分配率19.4%を維持するには信託報酬込みで年21%の運用が必要で、これは20年の実測(年8.3%)の2倍を超えます。このファンド自身、リーマン後に分配を8年間ゼロにした前歴があり、「毎月150円が続くこと」を前提にした持ち方だけは、実測と整合しません。
分配率(年換算)
19.4%
150円×12÷基準価額9,253円
毎月分配開始からの9年半
TR+244% / 価額▲43%
再投資なら3.4倍、基準価額は16,245→9,253円
オルカンとの差(7.75年)
▲55.5pt
うち約43ptは信託報酬差の複利
分配ゼロの前歴
8年間
2008年12月〜2016年12月(リーマン後)
01 · THE RISE
「世界のベスト」とは——22億円の休眠ファンドが4.2兆円になるまで
正式名称はインベスコ世界厳選株式オープン。世界の株式から銘柄を厳選するアクティブファンドで、為替ヘッジの有無×決算頻度の組み合わせで8本のシリーズがあり(毎月決算型・年1回決算型・奇数月決算型・予想分配金提示型)、シリーズ合計の純資産は4兆8,361億円(当サイト実測)。その87%を<為替ヘッジなし>(毎月決算型)1本が占めます。運用は英国ヘンリー・オン・テムズ拠点のインベスコのグローバル株式チームで、2026年6月末時点の組入は49銘柄・米国44.9%・英国21.5%——上位は3iグループ、カナディアン・パシフィック・カンザスシティ、テキサス・インスツルメンツ、ロールス・ロイスと、指数ファンドとはかなり違う顔ぶれです(月次運用レポート)。
意外に知られていないのは、このファンドの経歴です。設定は1999年1月7日と古いものの、当初は「モルガン・スタンレー 世界株式オープン Bコース」という別名の年2回決算ファンドでした(請求目論見書「ファンドの沿革」)。2010年7月にインベスコへ移管され、2016年9月20日の約款変更で決算を年2回から毎月へ変更、現在の名称になりました。最初の毎月分配が2017年1月23日の150円です。それ以前はどうだったかというと、リーマン・ショック後の2008年12月から8年間、分配金はゼロ、2016年末時点の純資産はわずか22億円。いまの4.2兆円は、ほぼ全額が毎月分配になってからの9年半で集まったお金です。純資産が1兆円に乗ったのは2023年12月1日、2兆円が2025年5月14日、3兆円が2025年12月9日、4兆円が2026年7月2日——直近は7ヶ月ごとに1兆円ずつ増えています。インベスコ自身、シリーズ合計で2017年1月以降107ヶ月連続の資金純流入と公表しています(2025年11月末時点・プレスリリース)。公開データから口数の増減で資金流出入を復元すると、こうなります。
| 年末 | 基準価額 | 年間分配金 (1万口あたり) | 分配率 (対前年末価額) | 純資産 | 推計純流入 |
| 2016 | 16,245円 | 0円 | — | 22億円 | — |
| 2017 | 16,498円 | 2,440円 | 15.0% | 64億円 | +41億円 |
| 2018 | 11,578円 | 2,260円 | 13.7% | 134億円 | +113億円 |
| 2019 | 11,891円 | 2,100円 | 18.1% | 276億円 | +137億円 |
| 2020 | 8,887円 | 1,800円 | 15.1% | 473億円 | +266億円 |
| 2021 | 9,857円 | 1,800円 | 20.3% | 1,156億円 | +613億円 |
| 2022 | 8,255円 | 1,800円 | 18.3% | 2,624億円 | +1,740億円 |
| 2023 | 9,106円 | 1,800円 | 21.8% | 1兆673億円 | +7,572億円 |
| 2024 | 9,434円 | 1,800円 | 19.8% | 1兆7,733億円 | +6,730億円 |
| 2025 | 8,960円 | 1,800円 | 19.1% | 3兆1,179億円 | +1兆4,183億円 |
| 2026年7月30日 | 9,253円 | 1,050円(7月まで) | — | 4兆2,136億円 | +9,535億円 |
※当サイト実測。資産運用業協会「投信総合検索ライブラリー」の基準価額・分配金・純資産データ(<為替ヘッジなし>毎月決算型)。分配率は年間分配金÷前年末基準価額。推計純流入は口数(純資産÷基準価額)の増減×基準価額で復元した概算で、分配金再投資コースの再投資分は流入側に含まれます(分配金の払い出しを流出に数える定義では2025年は約9,500億円)。
この表は2つのことを同時に言っています。第一に、基準価額が16,245円から9,253円へ下がっていく過程で、純資産は22億円から4.2兆円へ増えた。第二に、分配率(年間分配金÷前年末基準価額)は一度も15%を下回っていない。基準価額が下がるほど、同じ150円の分配は「率」として重くなる——2017年に15.0%だった分配率は、2023年には21.8%に達しています。
02 · THE REINVESTED RETURN
実測①:分配金を再投資すると成績はどうだったか
「基準価額が4割下がった」だけならただの下手な運用ですが、このファンドはそうではありません。分配金を全額再投資したトータルリターン(税引前)で測り直すと、まったく別の顔が出てきます。
| 窓 | 基準価額のみ | 分配金再投資(TR) | 年率(TR) |
| 直近20年(2006-07-31〜) | ▲21.7% | +391.6% | +8.3% |
| 毎月分配時代(2016-12-30〜) | ▲43.0% | +244.5% | +13.8% |
※当サイト実測。TRは分配金落ち日に(基準価額+分配金)÷前日基準価額を掛け合わせた税引前・再投資ベース。データベースの遡及上限が直近20年のため2006年7月31日起点。
毎月分配が始まってからの9年半、このファンドは年+13.8%で運用してきました。これは文句のつけようがない成績です。それでも基準価額が43%下がったのは、毎年13.7〜21.8%——9年半の稼ぎを平均で上回る率——で配り続けたからです。稼ぎより配りが大きければ、差額は元本から出ていく——それだけの算術で、運用の巧拙とは別の話です。もし2017年から分配を1円も出していなければ、計算上の基準価額はいま55,965円になっていました。実際の9,253円との差、1万口あたり約4.7万円ぶんが「毎月の現金」として先に支払われた計算です(この間に受け取った分配金の累計は18,650円。再投資しなかった場合の複利の逸失が残りを説明します)。設定来の分配金累計は1万口あたり20,500円(2026年7月・第151期まで)で、うち9割超が毎月分配時代の9年半に集中しています(公式月次レポートの累計20,350円〔第150期まで〕と当サイト集計は一致)。
稼ぎより配りが大きければ、差額は元本から出ていく——それだけの算術で、運用の巧拙とは別の話です。
下落耐性も株式ファンドの相場どおりです。リーマン・ショックでは2007年7月13日の高値からTRベースで▲65.6%下落し、回復まで86ヶ月(7年2ヶ月)かかりました。この最中の2008年12月に、当時年2回だった分配は0円になっています(後述)。毎月分配時代にも下落は普通に来ています——コロナ急落(2020年2月20日→3月24日)はTRで▲38.4%、2018年1月の高値から2020年3月の底までの最大下落は▲40.3%。この間も毎月150円は変わりませんでした。同じ150円でも、資産が4割減った状態では取り崩しの重さが1.7倍になります。
03 · THE BENCHMARK GAP
実測②:オルカンと比べる——差の主因は運用ではなく信託報酬
「同じお金をオルカンに入れていたら」を、オルカンの設定日(2018年10月31日)に起点を揃えて実測します。世界のベストは分配金再投資のTR、オルカンは無分配なので基準価額がそのままTRです。
| 暦年 | 世界のベスト(TR) | オルカン | 勝敗 |
| 2019 | +22.5% | +26.8% | ✕ |
| 2020 | ▲8.0% | +9.0% | ✕ |
| 2021 | +33.9% | +32.7% | ○ |
| 2022 | +2.9% | ▲5.6% | ○ |
| 2023 | +35.3% | +30.4% | ○ |
| 2024 | +25.1% | +32.5% | ✕ |
| 2025 | +16.4% | +20.5% | ✕ |
| 2026(7月30日まで) | +16.2% | +12.8% | ○ |
| 累積(2018-10-31〜) | +220.8%(年16.2%) | +276.3%(年18.7%) | ▲55.5pt |
※当サイト実測。両ファンドとも投信総合検索ライブラリーのデータ。世界のベストは分配金再投資(税引前)、オルカンは分配実績なし。暦年は前年末基準価額比。
暦年では4勝4敗。2022年の下落年にプラスを守り(+2.9%対▲5.6%)、2026年もいまのところ勝っています。それでも累積で55.5ポイント負けているのはなぜか。信託報酬です。世界のベストの信託報酬は年1.903%(税込)、オルカンは0.05775%。この差1.845%を7.75年複利にすると約43ポイント——55.5ポイントの差の8割近くを説明します。実際、信託報酬を足し戻したグロスの運用成績は年18.1%対18.7%でほぼ互角。運用チームは指数並みに稼ぎ、その取り分が投資家とオルカンの差になっている、というのがこの8年の構図です。公式月次レポートでも、課税前分配金再投資ベースの設定来は+531.3%と自身のベンチマーク(MSCIワールド円換算・+499.3%)に勝ち越しています(ただしこのベンチマークは2023年9月に配当なし指数から配当込みへ変更された接合系列で、それ以前の区間は低めに出ます)。
参考までに窓を毎月分配の開始直後まで広げると(eMAXIS Slim 先進国株式インデックス〔除く日本〕の設定日2017年2月27日起点・9.4年)、+249.6%対+355.6%で▲106.1ポイント。差は窓が長くなるほど複利で開きます。もうひとつ、同じ中身で分配だけしない<年1回決算型>(2018年10月設定・分配実績ゼロ・信託報酬同率)と比べると、毎月型のTRは7.75年で10.9ポイント低い。理論上は一致するはずの2本の差は、毎月の分配実務(現金の確保や売買)に伴う摩擦と考えられます。分配金を受け取ってすぐ再投資するくらいなら、最初から年1回型を持つほうが、税金の話をする前からすでに有利ということです。
04 · THE ARITHMETIC
実測③:毎月150円の算術——維持には年21%が要る
ここまでで「運用は本物」「でも基準価額は痩せ続ける」が出ました。では、毎月150円はいつまで続けられるのか。約束された数字ではないので、算術で挟みます。
- 必要な運用益:分配率19.4%(150円×12÷9,253円)+信託報酬1.903%=年21.4%を、資産全体で稼ぎ続ける必要があります。
- 実測の稼ぐ力:直近20年の実測は年8.3%(分配率の2.3倍不足)。毎月分配時代の9年半は年13.8%、円安と株高が歴史的に重なった直近5年ですら年21.3%——追い風が全部そろった5年間で、ようやく配る量に追いつくのがこの水準です。
- 出ていく現金の実額:口数×分配金で復元すると、直近12ヶ月にファンドが払い出した現金は6,573億円。直近の1回だけで675億円です。純資産4.2兆円に対して年6,500億円強を配るには、およそ16%の運用益が毎年必要で、稼げない年はその分を保有株の売却で作ることになります。
- 基準価額が下がるほど率は上がる:150円は固定額なので、基準価額が9,253円から8,000円に下がれば分配率は22.5%、7,000円なら25.7%。下がるほど維持のハードルが自動的に上がる構造です。逆に基準価額が上がれば率は下がりますが、そのためには配る量を上回って稼ぐ必要がある——という同じ算術に戻ります。
運用報告書が示す分配の中身——直近6期中3期は「当期の収益以外」から
この算術は、運用報告書(第139〜144期・2025年6月〜12月)の「分配原資の内訳」で裏が取れます。1万口あたりの数字です。
| 決算期 | 分配金 | 当期の収益から | 当期の収益以外から |
| 第139期(2025-07) | 150円 | 150円 | — |
| 第140期(2025-08) | 150円 | 27円 | 122円 |
| 第141期(2025-09) | 150円 | 13円 | 136円 |
| 第142期(2025-10) | 150円 | 150円 | — |
| 第143期(2025-11) | 150円 | 2円 | 147円 |
| 第144期(2025-12) | 150円 | 150円 | — |
※インベスコ「交付運用報告書」(第139〜144期、2026年2月交付)の分配原資の内訳。「当期の収益以外」はファンド会計上の繰越分等からの支払いで、受益者ごとの「元本払戻金(特別分配金)」とは別の概念です(後者は各自の個別元本との関係で決まります)。
6期合計900円のうち、当期の収益でまかなえたのは492円。残り405円(45%)は当期の収益以外からの支払いでした。相場が良かった2025年後半ですらこれです。さらに全体版運用報告書の計算過程を見ると、第144期時点の分配可能額2兆9,992億円(1万口あたり8,718円=150円の約58ヶ月分)のうち、96%は「収益調整金」で、過去の利益の蓄積である分配準備積立金は0円。収益調整金は新しい資金が入ること自体で膨らむ会計上の勘定です(追加設定時に分配可能原資が口数に応じて調整されるため)。つまり「58ヶ月分の余力」の実体はほぼ全部、後から入ってきたお金がつくった枠であり、流入が続く限り保たれ、止まると細る——毎月分配型の分配余力は、ファンドの稼ぐ力だけでなく人気の関数でもあるということです。
毎月分配型の分配余力は、ファンドの稼ぐ力だけでなく人気の関数でもあるということです。
05 · THE PRECEDENTS
前例はどうなったか——このファンド自身と、グロソブ
「それでも150円は続くかもしれない」に対する最良の資料は、前例です。2つあります。
前例①:このファンド自身——2008年12月、分配0円
世界のベストは2006〜2008年、年2回決算で200円→100円の分配を出していました。リーマン・ショックで基準価額が6,068円まで沈んだ2008年12月24日の決算で分配は0円になり、以後2016年12月まで17回連続・8年間、1円も分配していません。いまの毎月150円は2017年1月に始まったもので、まだ一度も本格的な長期下落相場を経験していない、と言い換えることもできます(2020年のコロナ急落は2ヶ月で反発、2022年もこのファンドはプラスでした)。分配を止めた前歴は、悪口ではなく事実として、目論見書の「分配金は保証されるものではない」の実例です。
前例②:グロソブ——6%の分配率でも維持できなかった
毎月分配型の先代の王者、グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)は、ピーク時の純資産5兆7,685億円(2008年8月8日・当サイト実測)——当時の世界のベストの2,600倍の規模でした。分配金の推移はこうです。
| 時期 | 毎月の分配金 | 何が起きたか |
| 〜2009年1月 | 40円 | 分配率およそ年6%。「毎月分配の代名詞」として5.7兆円を集める |
| 2009年1月 | 40円→30円 | リーマン後に減配(同年8月に35円へ一部戻す) |
| 2014年1月 | 35円→20円 | 2度目の減配 |
| 2016年8月 | 20円→10円 | 3度目 |
| 2020年12月 | 10円→5円 | 4度目。現在の分配率は年1.0% |
| 2026年7月30日 | 5円 | 純資産2,421億円=ピークの4.2% |
※当サイト実測。投信総合検索ライブラリーの分配金・純資産系列から機械的に抽出(2006年7月31日以降)。
注意してほしいのは水準です。グロソブが維持できなかったのは年6%の分配率でした(債券ファンドとしては既に高い水準です)。世界のベストが配っているのはその3倍超の19.4%。もちろん株式ファンドと債券ファンドの違いはありますが、「純資産日本一の毎月分配型」「分配金は長年維持されてきた」という当時の安心材料が、減配を止めなかったことは記録に値します。減配が始まると分配目当ての資金は抜け、純資産は20年かけて25分の1になりました。
前例③:歴代の売れ筋も、全員が減配している
グロソブが特殊なのではありません。毎月分配型ブームの歴代の主役を同じデータベースで確認すると、全員が同じ道をたどっています。
| ファンド | 毎月の分配金の推移 | 純資産ピーク→現在 |
| フィデリティ・USリートB(ヘッジなし) | 100円→70円(2016-11)→35円(2017-11) | 1兆6,163億円(2016-12)→8,139億円 |
| ラサール・グローバルREIT | 100円→段階減配→10円(2021-07〜) | 1兆3,500億円(2015-03)→2,776億円 |
| ピクテ・グローバル・インカム株式(グロイン) | 50円→40円(2019-04)→30円(2020-02)→20円(2022-07〜) | 2兆8,469億円(2007-06)→1兆670億円 |
※当サイト実測(投信総合検索ライブラリーの分配金・純資産系列、2026年7月30日時点)。ラサールの中間経路は100→80→70→60→40→25→15→10円。
とくにフィデリティ・USリートBは、売れ筋の頂点(純資産1.6兆円)に立った直後の2016年11月に100円→70円、その1年後に35円へ——2年で分配金が3分の1になりました。ピクテのグロインは2007年に2.8兆円を集めた「当時の世界のベスト」でしたが、やはり段階減配しています。「純資産が大きい」「人気がある」は、分配金が維持される理由にはならなかった——これが毎月分配型の歴史の一貫した教訓です。
「純資産が大きい」「人気がある」は、分配金が維持される理由にはならなかった——これが毎月分配型の歴史の一貫した教訓です。
もうひとつ、小さいが示唆的な事実があります。インベスコは2025年12月、このシリーズに「予想分配金提示型」——基準価額の水準に応じて分配金額を変える設計の姉妹ファンド——を追加しました。固定額の分配と基準価額の関係が論点になっていることは、商品組成側も前提にしている、と読める動きです(なおインベスコ自身がプレスリリースで、この型も毎月決算のためNISA成長投資枠の対象外であることを明記しています)。この設計が実際にどう動くかは、4年先行する実例で確かめられます——第25号でWCM世界成長株厳選ファンドを実測しました(下げでは分配0円が26回、上げでは年37%、同じ中身の無分配型と基準価額は2倍差)。
06 · WHO IT FITS
持っていて良いケース、合わないケース
ここまでの実測を「持ち方」に翻訳します。売買の推奨ではなく、どの持ち方がどの実測数字と整合するかの整理です。
実測と整合する持ち方
- 分配金を「元本の取り崩しを含む現金」と理解して、受け取って使っている——毎月分配開始の直前(2016年末)に買って分配金を使い続けた場合でも、受け取った分配金累計18,650円と残った基準価額9,253円の合計は投資元本16,245円に対し+71.8%(税引前)。損はしていません。取り崩しの自動化にお金(信託報酬1.903%と、指数比の複利差)を払っている、という認識と一致していれば、実測と矛盾しない持ち方です。
- 「150円が減っても続けるか」を先に決めてある——分配金は約束ではなく、このファンドは0円にした前歴があります。減配された瞬間に手放すつもりなら、それはこの商品の歴史と整合しない期待を持っている、ということです。
実測と矛盾する持ち方
- 分配金を再投資している——同じ中身で分配しない年1回決算型に、税金の話をする前から7.75年で10.9ポイント負けます(分配実務の摩擦)。課税口座なら普通分配金からさらに20.315%源泉徴収されてから再投資することになり、劣位は広がります。再投資するなら、分配しない器(年1回型や低コスト指数ファンド)がこの目的のための設計です。
- NISAの成長投資枠で積みたい——毎月決算型は制度の対象外なのでそもそも買えません。交付目論見書にも「当ファンドは、NISAの対象ではありません」と明記されています(同じシリーズでも年1回決算型と奇数月決算型〔隔月〕は成長投資枠の対象です)。
- 「利回り19%」として生活設計に織り込んでいる——19.4%は利回りではなく分配率で、維持には年21%の運用が必要です。実測の稼ぐ力(20年で年8.3%)との差は、基準価額の目減りか、将来の減配のどちらかで精算されます。
- 「基準価額が下がって割安になった」と読んでいる——この基準価額の下落は株が安くなったのではなく、分配で先に払い出した結果です。実測のトータルリターンはプラス(9年半で+244.5%)であり、割安のシグナルではありません。
07 · THE RESEARCH
金融庁と学術研究はどう言っているか
毎月分配型への公的な評価は、金融庁が2017年10月の「平成28事務年度 金融レポート」で明文化しています。曰く、毎月分配型は「複利効果が働きにくいことに加えて、元本を取り崩しながら分配される場合には運用原資が大きく目減りして、運用効率を下げてしまう」。あわせて引用された投資家調査では、「分配金として元本の一部が払い戻されることもある」ことを認識していない割合が5割弱、「支払われた額だけ基準価額が下がる」ことを認識していない割合も約5割——つまり買っている人の半分は仕組みを知らない、という調査結果まで載っています。つみたてNISA(現つみたて投資枠)の対象要件から毎月分配型が除外されているのも、この延長線上の制度設計です(租税特別措置法施行令第25条の13)。
「毎月現金がもらえるファンドに資金が集まり、そのために投資家がリターンを犠牲にする」という現象は、学術研究でも定量化されています。HarrisとHartzmark、Solomonの2015年の論文(Journal of Financial Economics)は、米国の投信が配当銘柄を分配日直前に買い集めるなどして分配利回りを「盛る」行動(juicing)を実証し、高い分配を出すファンドほど資金流入が大きい一方、この行動は投資家の税負担と取引コストを増やしリターンを毀損すると報告しました。分配の高さがリターンの高さを意味しないどころか、分配を高く見せる行動自体がコストになる、という結果です。
HartzmarkとSolomonの2019年の論文(Journal of Finance)は、この需要側の心理を「フリー・ディビデンド錯誤」と名付けました。投資家は配当・分配金を元本と切り離された「ただでもらえる収入」として扱い、株価(基準価額)がその分下がっていることを勘定に入れない——だから下げ相場や低金利期ほど分配への需要が高まり、価格が歪む、という実証です。「基準価額は下がったが、分配金をもらっているから大丈夫」という会話は、この錯誤の教科書的な形をしています。本記事の実測で言えば、見るべきはトータルリターン(+244.5%)と分配率(19.4%)の関係であって、「毎月150円もらえた」という事実そのものではありません。
「基準価額は下がったが、分配金をもらっているから大丈夫」という会話は、この錯誤の教科書的な形をしています。
留意点
- 本記事は公開データの集計であり、特定の商品の購入・解約・保有継続を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。
- 実測のデータ源は資産運用業協会(旧・投資信託協会)「投信総合検索ライブラリー」で、遡及は直近20年(2006年7月31日以降)です。1999年の設定から2006年までの成績・分配は本記事の実測範囲に含まれません(設定来の分配金累計のみ公式月次レポートで補完)。
- 運用報告書の「当期の収益以外」からの分配はファンド会計上の区分であり、受益者ごとの「元本払戻金(特別分配金)」に必ず該当するわけではありません。各自の課税区分は個別元本と分配落ち後基準価額の関係で決まります。
- トータルリターンは分配金落ち日に全額再投資した税引前の理論値です。実際の再投資には課税(普通分配金に20.315%)と約定日のずれがあり、ここで示した数値より不利になります。「受け取って使う」場合の+71.8%も税引前です。
- 信託報酬差の寄与(55.5ポイント中約43ポイント)は「オルカンの純リターンから報酬差を引いて複利した場合との差」による近似で、複利の順序や相互作用は無視しています。厳密な要因分解ではありません。
- オルカン(全世界・日本含む・新興国含む)と世界のベスト(先進国中心の厳選)は投資対象が同一ではありません。本記事は「投資家が実際に選べた代替」としての比較で、スタイルの違いによる差は信託報酬以外の残差に含まれます。
- 推計純流入は口数の増減から復元した概算で、運用会社・調査会社の公表値とは定義が異なる場合があります。
- 分配金・分配率・純資産などの時点物は本文記載の基準日時点の値です。分配金額はファンドの決算で変わり得ます(増額も減額も)。シリーズ合計の純資産(4兆8,361億円)は当サイトが各ファンドの直近基準日で合算した値で、インベスコ公表のシリーズ合計(2026年6月末時点4兆5,400億円)とは基準日が異なります。
- 他資料と数値が異なる場合、起点・終点・分配金の扱い(再投資の有無・課税前後)・算出方法の違いによります。
FAQ
Q. 「世界のベスト」とはどんなファンドですか?
インベスコ・アセット・マネジメントが運用する「インベスコ世界厳選株式オープン」シリーズの愛称で、世界の株式から銘柄を厳選するアクティブファンドです。中心になっているのは<為替ヘッジなし>(毎月決算型)で、2026年7月30日時点の純資産は4兆2,136億円。為替ヘッジの有無×決算頻度(毎月・年1回・奇数月・予想分配金提示型)で8本のシリーズになっており、合計では4兆8,361億円です。設定は1999年1月ですが、2016年末までは純資産22億円の小さなファンドでした。毎月150円の分配を始めた2017年1月以降に資金が集中し、現在の規模はほぼすべてこの9年半で集まったものです。
Q. 分配金利回り19%というのは本当ですか?
分配金(毎月150円=年1,800円)を基準価額9,253円(2026年7月30日)で割ると年19.4%になるのは事実です。ただしこれは「利回り」ではありません。投資信託の分配金は運用収益だけでなく元本を取り崩しても支払えるため、分配率が運用リターンを上回れば、その差の分だけ基準価額が下がります。実際、毎月分配が始まった2016年末から2026年7月までの運用成績(分配金再投資のトータルリターン)は年13.8%と極めて好調だったのに、分配率(毎年13.7〜21.8%)が9年半の稼ぎを平均で上回ったため、基準価額は16,245円から9,253円へ43%下落しました。実際、運用報告書の「分配原資の内訳」では、直近6期(2025年6月〜12月)のうち3期で、150円のうち122〜147円が「当期の収益以外」からの支払いでした。受け取っている現金は、その月の運用収益だけから出ているわけではありません。
Q. 世界のベストは安心して持っていられますか?
「安心」の中身を2つに分けると答えが出ます。運用そのものは指数並みに稼いでいます(2018年10月〜2026年7月のグロスリターンは年18.1%で、オルカンの年18.7%とほぼ同じ)。一方で毎月150円という分配水準は、20年の実測リターン(年8.3%)の2.3倍にあたり、維持には信託報酬込みで年21%の運用を続ける必要があるため、算術的にいつまでも続く水準ではありません。このファンド自身、リーマン・ショック後の2008年12月に分配金をゼロにし、8年間分配を止めた前歴があります。「毎月150円が続くこと」を前提にした持ち方は、この歴史と整合しません。分配金は元本の取り崩しを含むと理解した上で受け取って使う分には、2016年末に買った場合でも分配金と残った基準価額の合計は+71.8%(税引前)とプラスです。
Q. 世界のベストはNISAで買えますか?
毎月決算型は買えません。NISAの成長投資枠は「信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託およびデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等」を対象から除外しており(金融庁)、交付目論見書にも「当ファンドは、NISAの対象ではありません」と明記されています。同じシリーズでは、年1回決算型と奇数月決算型(隔月分配)が成長投資枠の対象です(資産運用業協会の対象商品リストで確認)。年1回決算型は同じ中身で運用され分配実績はゼロのため、基準価額がそのままトータルリターンになります。実測では2018年10月の設定から2026年7月までで+206%です。なお毎月決算型の分配金のうち普通分配金には20.315%が源泉徴収され、元本払戻金(特別分配金)は非課税ですが、これは「儲かった分配金に税金がかからない」のではなく「自分のお金が返ってきただけなので課税対象ですらない」という意味です。
本記事は公開市場データ(資産運用業協会「投信総合検索ライブラリー」・各運用会社の開示資料・金融庁/国税庁公表資料)および学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の商品の購入・解約・保有継続を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:資産運用業協会(旧・投資信託協会)投信総合検索ライブラリー(基準価額・分配金・純資産)、インベスコ・アセット・マネジメント 交付目論見書・請求目論見書・月次レポート・運用報告書・プレスリリース、三菱UFJアセットマネジメント(eMAXIS Slim・グロソブ)、金融庁 平成28事務年度金融レポート・NISA特設サイト、国税庁タックスアンサー、Harris, Hartzmark & Solomon (2015) JFE 116(3)、Hartzmark & Solomon (2019) JF 74(5)。市場データは2026年7月30日基準価額まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月31日時点・編集部構成)。