INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第8号
ディフェンシブ株はなぜ一撃で崩れるのか — 電力10社に分けても、元本回復に13年かかった
編集部・最終更新 2026年7月27日
2011年3月10日、東京電力の終値は2,153円でした。設立の1951年以来ほぼ途切れることなく配当を出し続け、時価総額は3兆4,000億円台で電力10社の首位。景気が悪くなっても電気の使用量は大きく減らないという理屈から、この会社の株は「安全な株」の代名詞でした。
翌日の14時46分に地震が起き、その3週間後の3月30日、株価は466円になっていました。48年ぶりの安値です。そして15年4カ月が経った2026年7月24日、株価は516.7円、配当は無配のまま——2027年3月期も中間・期末とも見送る予定が公表されています。
「ディフェンシブ」が測っているのは需要と利益の振れ幅であって、株主が負う損失の上限ではない。そして分けるべき単位は銘柄ではなく、リスクの源だった。電力10社に等金額で分けても、元本を回復したのは13年1カ月後の2024年4月15日でした。10個の卵に見えて、かごは1つだったからです。
東電1銘柄に100万円
24.0万円
2011/3/10→2026/7/24・▲76.0%
電力10社に等金額
102.2万円
15.4年で年率+0.14%
同期間のTOPIX
581.6万円
+481.6%・年率+12.13%
暴落銘柄の財務
54% が黒字
ピーク時点・JPモルガン2024
01 · THE PROMISE
「ディフェンシブ」という言葉が約束していたもの
景気が悪くなっても電気は使う、水道は止めない、薬は飲む、パンは買う。この当たり前の観察から、電力・ガス・通信・食品・医薬品・生活必需品といったセクターの株はディフェンシブ株と呼ばれてきました。英語圏には「widow-and-orphan stock(未亡人と孤児の株)」というもっと古い呼び方があり、収入を必要とする人が持っていても大丈夫なほど安全、という含意です。公益企業はその典型とされてきました。規制された地域独占で、料金は公的機関が決め、需要は景気にあまり連動せず、その予測可能な利益から平均以上の配当を出せる——という理屈です。
東京電力はこの説明にぴたりと当てはまっていました。毎年60円前後の配当が続き、1951年の設立直後を除けば無配になったことがありません。震災前の時価総額は3兆4,000億円台で、電力10社のトップでした。
ここで一度立ち止まる価値があります。この「安全」の根拠は、すべて損益計算書の上の話です。需要が振れない、利益が読める、だから配当が続く。どれも売上と利益の安定性についての主張であって、この会社が最悪の場合いくら払わされるのか、という上限については何も言っていません。この記事で見ていく事例は、ほぼすべてこの一点で説明がつきます。
この会社が最悪の場合いくら払わされるのか、という上限については何も言っていません。
ディフェンシブ株の「安全」の中身より
02 · THE NUMBERS
実測 — 震災前日の100万円は、いまいくらか
抽象論は後にして、まず数字から見ます。2011年3月10日(震災前日)の終値で100万円を投じ、2026年7月24日まで一度も売らず、配当はすべて再投資した場合の結果です。3つの置き方を比べました。
| 100万円の置き方 | 2026/7/24の評価額 | 累積 | 年率 | 途中の底 | 元本回復 |
| ① 東京電力 1銘柄 | 239,991円 | ▲76.0% | ▲8.87% | ▲94.4% (2012/11/12) | 未回復 |
| ② 電力10社に等金額 | 1,021,708円 | +2.2% | +0.14% | ▲66.3% (2012/9/12) | 2024/4/15 (13年1カ月) |
| ③ TOPIXに丸ごと | 5,815,947円 | +481.6% | +12.13% | ▲24.6% (2012/7/25) | 2013/1/30 (10カ月) |
※当サイト実測。2011年3月10日→2026年7月24日(15.37年)、Yahoo Finance の調整後終値(配当再投資込み)を使用、税・取引コストは控除していません。②は旧一般電気事業者10社(9501東京・9502中部・9503関西・9504中国・9505北陸・9506東北・9507四国・9508九州・9509北海道・9511沖縄)を等金額で買い、以後リバランスなし。③はTOPIX連動ETFの1305(ダイワ上場投信-トピックス)。同じ計測を1348(MAXIS トピックス)でも行い+483.6%と一致することを確認しています。なお1306はデータ提供元が受益権分割を反映しておらず系列が壊れるため使用していません。
①と③の差を作ったのは、比率だけ
①と③を並べると、24万円と582万円で24倍の開きがあります。ただし現実には、多くの人は「東電だけ」でも「東電ゼロ」でもなく、その中間にいました。そこで、東電を何割持っていたかで結果がどう変わるかを計算します。残りはすべてTOPIXに置いた前提です。
| ポートフォリオに占める東電の比率 | 2026/7/24の評価額 | 累積 | 年率 |
| 0% | 5,815,948円 | +481.6% | +12.13% |
| 1%(当時のTOPIXでの比重にほぼ相当) | 5,760,188円 | +476.0% | +12.06% |
| 5% | 5,537,150円 | +453.7% | +11.78% |
| 10% | 5,258,352円 | +425.8% | +11.40% |
| 25% | 4,421,959円 | +342.2% | +10.15% |
| 50% | 3,027,969円 | +202.8% | +7.47% |
| 100% | 239,991円 | ▲76.0% | ▲8.87% |
※当サイト算出。東電部分は0.2400倍、TOPIX部分は5.8159倍として加重。震災前の東電の時価総額3兆4,000億円台に対し、2010年末の東証1部時価総額は305.6兆円で、比率にすると約1.1%になります(TOPIXは浮動株調整後の時価総額加重のため、実際の指数内比重はこれと厳密には一致しません)。表の全行を計算式から再計算し、線形性と両端(0%=TOPIX単独、100%=東電単独)の一致を確認しています。
同じ銘柄、同じ事故、同じ15年。違うのは比率だけです。指数と同じ約1%だけ持っていた人にとって、日本の戦後最大級の企業災害は、576万円が582万円にならなかったという程度の出来事でした。全額を入れていた人にとっては、資産の4分の3が消える出来事でした。
ここまでは「1銘柄に集中するな」という、誰もが知っている教訓の再確認にすぎません。この記事の本題は次です。
03 · WHY TEN WASN'T ENOUGH
10銘柄に分けたのに、13年かかった理由
先の表の②——電力10社への等金額分散——をもう一度見てください。銘柄数は10、地域は北海道から沖縄まで、東電への集中は10%です。分散の教科書としては悪くない見た目です。それでも2012年9月には▲66.3%まで沈み、元本を回復したのは2024年4月15日でした。その間、TOPIXは10カ月で元本を回復し、以後ずっと上を走っています。
| 各年末時点の累積損益(2011/3/10起点) | 電力10社 等金額 | 東京電力 単独 | TOPIX |
| 2011年末 | ▲37.7% | ▲91.5% | ▲21.4% |
| 2012年末 | ▲46.5% | ▲90.4% | ▲7.1% |
| 2015年末 | ▲15.7% | ▲67.5% | +76.6% |
| 2020年末 | ▲41.5% | ▲87.4% | +129.5% |
| 2023年末 | ▲24.8% | ▲65.7% | +223.1% |
| 2025年末 | +0.5% | ▲69.5% | +387.9% |
※当サイト実測(条件は前掲と同じ)。抜粋。2020年末の電力セクターの落ち込みは、コロナ禍の需要減と再エネ競争の影響が重なった時期にあたります。
理由は単純です。10銘柄は、同じ1本の紐にぶら下がっていました。
- 原発の一斉停止——事故を起こしたのは福島第一だけですが、規制の強化と再稼働の停止は全国の原子力発電所に及びました。
- 燃料費——代替の火力発電のために、電力9社の燃料費は通常時と比べて年3.2兆円増えると政府は試算しました。
- 料金規制——コスト増を価格に転嫁するには認可が要ります。値上げは遅れ、値上げすれば批判されました。
結果、2012年度の電気事業は9社合計で1兆5,951億円の損失となりました。最大は東京電力の6,943億円、次いで関西電力と九州電力が3,000億円前後。10社のうち黒字だったのは沖縄電力1社だけで、その理由は「原子力発電所を持っていないこと」でした(資源エネルギー庁の部門別損益による。各社の連結最終損益とは集計範囲が異なります)。九州電力は2013年3月期に創業年度(1951年度)以来はじめて年間無配となり、関西電力は2013年3月期から2016年3月期まで4期連続で無配が続きました。
ここが本題です。分散の単位は銘柄ではなく、リスクの源です。10社に分けても、その10社が同じ規制・同じ燃料・同じ政治的圧力の下にあるなら、分けた数は10ではなく1です。「ディフェンシブなセクターで固める」という発想は、分散しているつもりで、実は1つのかごの中で卵を並べ替えていただけだったことになります。
分散の単位は銘柄ではなく、リスクの源です。
本記事の結論
ちなみにセクターの中に勝者がいなかったわけではありません。中部電力は同じ15.4年で+113.2%、関西電力は+61.7%、九州電力は+28.3%でした。10社の等金額が+2.2%にとどまったのは、勝者の利益を東電の▲76.0%が食べてしまったからです。1つの卵が割れると、同じかごの他の卵にその汁がかかります。
04 · THE ROSTER
同じことが起きた会社の名簿
これは日本だけの、あるいは原子力だけの話ではありません。「安全」と呼ばれていた銘柄が一撃で崩れた事例を並べます。
| 企業 | 何と呼ばれていたか | 起点 | 株主が受け取ったもの |
東京電力HD (9501) | 設立以来60年の安定配当・電力10社で時価総額首位 | 2011年3月 福島第一原発事故 | 無配が15年継続中(2027年3月期も見送り予定)。株価は震災前の24% |
PG&E (PCG) | 米カリフォルニアの規制公益企業 | 2018年11月 Camp Fire | 2017年12月20日に配当停止 → 2019年1月29日に連邦破産法11章を申請 |
Edison International (EIX) | 同上(南カリフォルニア) | 2025年1月 Eaton Fire | 2025年末までに損失122億ドルを計上(税引後の純負担34億ドル)。配当は維持したまま係争中 |
| BP | 英FTSE100の配当を支える最大級の1社 | 2010年4月 Deepwater Horizon | 3四半期にわたり配当停止、再開時は従前の半分 |
General Electric (GE) | ダウ算出開始時の12社で最後の生き残り・AAA格 | 2008年 GE Capital | 2009年2月に68%減配(1938年以来)→ 3月にAAA喪失 → 24¢→12¢→1¢ → 2018年6月26日にダウ除外 |
3M (MMM) | 配当王・65年連続増配 | PFAS・耳栓の訴訟 | 2024年に約54%減配($1.51→$0.70)。連続増配記録が途切れる |
| Bayer | 独の医薬・農薬コングロマリット | 2018年 モンサント買収 | 2024年に配当を€2.40→€0.11(▲95%)。2026年6月25日に米最高裁で勝訴したが、損失は先に確定済み |
| Shell | 第二次大戦後、一度も減配していない | 2020年 コロナ禍の需要蒸発 | 2020年4月30日に66%減配($0.47→$0.16)。戦後初 |
日本航空 (旧9205) | ナショナルフラッグ・「国が潰さない」 | 2010年1月 会社更生法 | 100%減資により株式は無価値化。2010年2月20日に上場廃止 |
東芝 (旧6502) | 日本を代表する重電 | 2015年 不適切会計 2017年 WH破綻 | 2023年12月20日に上場廃止。74年の上場に幕 |
※各社の公表資料・SEC提出書類・報道に基づく。Edison Internationalの数値は同社のForm 10-K(FY2025)記載の「through December 31, 2025」の累計で、2017/2018年の山火事・その他の火災・Eaton Fireを合算したもの。株主が受けた結果の記述は、配当政策と上場地位の変化に絞っています。
崩れ方は4つに分けられる
並べてみると、機序が違うことが見えてきます。
- ① 偶発債務型(東電・PG&E・Edison・BP)——1件の事故で、自己資本を超える賠償責任が発生する。これがディフェンシブ株にとって最も致命的です。需要が安定していることと、事故の賠償額に上限があることは、まったく別の話だからです。
- ② 訴訟承継型(3M・Bayer)——過去に売った製品、あるいは買収した会社の過去が、何十年も経ってから請求書になって届く。バイエルがモンサントを買ったのは2018年ですが、争点のグリホサートは1970年代の製品です。
- ③ 隠れレバレッジ型(GE)——製造業の看板の裏に金融子会社があり、そちらの資金繰りが本体を沈める。GEはAAA格の産業コングロマリットとして知られていましたが、GE Capitalは実質的に巨大なノンバンクでした。
- ④ 需要蒸発型(Shell・JAL)——「景気で需要は振れない」という前提そのものが破れる。2020年に人が移動をやめたとき、燃料需要は景気循環では説明できない落ち方をしました。
賠償に上限がない、という設計
①が特に効くのは、法律がそう作られているからです。日本の原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)は、原子炉の運転等により生じた原子力損害について、事業者に故意・過失の有無を問わず賠償責任を負わせ、賠償額の限度を定めていません。免責されるのは「異常に巨大な天災地変」と「社会的動乱」の2つだけです。
実際の金額を見ると、東京電力の賠償の請求・支払い実績は2026年4月3日時点で個人約3兆5,600億円、自主的避難等に係る損害約4,486億円、法人・個人事業主など約7兆5,200億円に達しています。原子力損害賠償・廃炉等支援機構からの資金交付は累計10兆8,958億円です。震災前の時価総額3兆4,000億円台の会社に、その3倍を超える規模の支払いが乗りました。株式の価値がどうなるかは、この時点でほぼ算数の問題になります。
米カリフォルニアの山火事も構造が似ています。同州では送電設備が発火源となった場合の責任が重く、それがPG&Eを2019年に破綻させました。Edison Internationalは現在その途中にいます。同社のForm 10-Kによれば、Eaton Fire関連では約20,000人の個人原告らによる訴訟が提起され、先行事件の陪審審理は2027年1月に設定されています。罰金・制裁金は保険からもWildfire Fundからも電気料金からも回収できないと明記されています。
05 · THE BLIND SPOT
財務指標では、事前に見分けられない
「そういう会社は決算書を見れば分かるのでは」と考えたくなります。JPモルガンが2024年10月に公表した調査は、そこに正面から答えています。同社は「ピークから70%下落し、そこから回復しない」ことを"catastrophic decline"と定義し、そうなった銘柄がピーク時にどう見えていたかを調べました。
| 暴落した銘柄が、暴落前のピーク時点でどう見えていたか | 割合 |
| 黒字だった(profitable) | 54% |
| ネット有利子負債 ÷ EBITDA が 2倍以下だった | 63% |
| 予想PERは「普通の範囲」(おおむね10〜50倍)だった | 大半 |
| アナリストのコンセンサスは「強気買い」に大きく傾いていた | — |
| 目標株価にさらに上値余地があるとされていた | 約半数 |
※J.P. Morgan「The Agony & The Ecstasy: Concentrated Stock Positions」(2024年10月3日)より。データはBloomberg・JPMAM、2024年9月時点。当サイトが同レポート本文の記述から集計。同レポートは業種別では医療・バイオが最多の暴落数だったとしています。
読み下すとこうなります。壊滅的に下げた銘柄の過半数は、下げる直前まで黒字で、借金も少なく、バリュエーションも正常で、アナリストは買い推奨でした。財務諸表は過去の取引を記録するもので、まだ起きていない事故や、まだ提起されていない訴訟や、まだ発動していない規制は、そこに載っていません。同レポートは格付機関についても、こうしたイベントリスクの事前特定には苦労していると指摘しています。
壊滅的に下げた銘柄の過半数は、下げる直前まで黒字で、借金も少なく、バリュエーションも正常で、アナリストは買い推奨でした。
J.P. Morgan「The Agony & The Ecstasy」(2024年10月3日)より
これは「分析しても無駄」という話ではありません。「銘柄選択の精度を上げる」という方向では、この種のリスクは減らせないという話です。減らせるのは、1銘柄あたりの比率を下げることだけです。
なお、このレポートが挙げる暴落銘柄の一覧にはウォルグリーンも含まれています。同社が何によって沈んだのかはウォルグリーンを沈めたのはセラノスかで個別に検証しています。
07 · THE ONGOING CASE
いま同じ場所にいる会社の見方
この種の記事は過去の話で終わりがちですが、ひとつ現在進行形の事例があります。Edison Internationalです。2025年1月のEaton Fireはロサンゼルス郡で約14,000エーカーを焼き、民間人18名が亡くなりました。同社は2025年12月31日までに関連損失122億ドルを計上し、税引後の純負担は34億ドルです。それでも配当は維持されており、2026年2月18日に1株0.8775ドルの配当が宣言されています(同年4月30日支払い)。
つまり同社はいま、東京電力でいえば2011年の春にいます。ここで役に立つのは株価予想ではなく、「何が決まれば結論が出るのか」の一覧です。同社のForm 10-Kから読み取れる分岐点はこうなっています。
| 論点 | 2026年7月時点の状態 |
| 損害の総額 | 確定していない。約20,000人の個人原告に加え、代位求償・公的機関の訴訟が係属 |
| 責任の有無 | 先行事件(bellwether)の陪審審理が2027年1月に設定 |
| 回収の道筋 | Wildfire Fundの支払い能力はEaton Fire向けに210億ドル超(2025年9月30日時点の運営者報告)。ただし罰金・制裁金は保険・同基金・電気料金のいずれからも回収不可 |
| 自家保険 | 2026年2月11日時点の費用計上・和解により、Eaton Fire関連の自家保険からの回収は使い切る見込み |
※Edison International Form 10-K(FY2025、SEC提出)記載事項の要約。数値は同書類の開示時点のものです。
東京電力の15年を経て言えるのは、この種の局面で結論が出るまでには年単位、場合によっては十年単位かかるということです。そして株価は、結論が出る前に織り込みにいきます。バイエルは2026年6月25日に米最高裁でグリホサート訴訟について7対2で勝訴しましたが、95%の減配は2024年に実行済みで、株主の損失はその時点で確定していました。法的な決着と、株主の損益が確定するタイミングは一致しません。
08 · PUTTING IT INTO PRACTICE
日本から実行するなら
ここまでの話を口座の操作に落とすと、やることは2つです。保有を「同時に沈むグループ」で括り直すことと、1グループあたりの比率に上限を置くこと。銘柄を売り買いする前に、まず数え直す作業です。
国内で選べる商品は東証ETFデータ一覧にまとめています。個別株よりETFの方が内部相関は下がりますが、セクターETFや高配当ETFは、中身が同じリスク源に寄っていることがある点は同じです。名前ではなく組入上位を見る必要があります。ETFごとの中身と設計思想は東証ETF解説で個別に扱っています。
NISAで組み替えるときの注意
集中していた銘柄を売って組み替える場合、NISAの枠は2層に分かれている点に注意が必要です。
| 枠 | 売却したら? |
| 非課税保有限度額(生涯1,800万円) | 復活する——ただし翌年以降に、簿価(取得金額)分だけ(金融庁:「翌年以降売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ非課税投資枠が復活し、再利用が可能」) |
| 年間投資枠(つみたて120万・成長240万/年) | その年の中では戻らない——枠は購入額で消費され、復活の定めは総枠(翌年以降)にしかない |
つまり、集中した保有を一度に組み替えようとしても、その年に買い直せる金額は年間投資枠が上限になります。数年に分ける前提で計画するのが現実的です。また、NISA口座では損失が出ても他の口座の利益と損益通算できません。含み損のある銘柄を整理する場合、特定口座かNISA口座かで扱いが変わります。
⚠ 留意点
- 実測の条件:本記事の収益率はすべて、Yahoo Finance の調整後終値(配当再投資込み)を用いた等金額・リバランスなしのポートフォリオで、税・取引コスト・売買スプレッドは控除していません。起点は2011年3月10日終値、評価日は2026年7月24日終値です。ベンチマークはTOPIX連動ETF(1305)を用いており、TOPIX指数そのものの配当込みリターンとは信託報酬・トラッキングの分だけ差が出ます。1348での再計測(+483.6%)と併記しています。
- 「電力10社」は後知恵の括りです。2011年3月時点で旧一般電気事業者10社に等金額で投資していた人が実際にどれだけいたかは分かりません。この計測は「セクター内で分けても同時に沈む」ことを示すためのもので、実在した戦略の成績ではありません。
- 事例の選び方には偏りがあります。本記事は「ディフェンシブと呼ばれた銘柄が崩れた事例」を集めたものです。同じ期間に崩れなかったディフェンシブ銘柄のほうがはるかに多く、この名簿から「ディフェンシブ株は危険だ」と結論することはできません。示せるのは、崩れる場合の崩れ方に共通の構造がある、ということだけです。
- 係争中の案件を含みます。Edison InternationalのEaton Fire関連、およびBayerのグリホサート関連は、いずれも法的手続が継続中です。本記事の記述は各社の開示および2026年7月時点の公表情報に基づくもので、責任の有無や最終的な負担額について当サイトが判断を示すものではありません。
- 分散は損失をなくしません。分散が減らすのは1銘柄・1リスク源に起因する損失であって、市場全体が下げる局面の損失ではありません。表の③(TOPIX)も途中で▲24.6%まで下げています。
- 過去の実績は将来を保証しません。本記事は特定の銘柄・商品・売買タイミングを推奨するものではありません。
FAQ
Q. ディフェンシブ株とは何ですか?なぜ「安全」と呼ばれてきたのですか?
景気の良し悪しで需要が大きく振れない事業——電力・ガス・水道・通信・食品・医薬品・生活必需品——を営む企業の株を指します。英語圏では「widow-and-orphan stock(未亡人と孤児の株)」という古い呼び方もあり、収入を必要とする人が持っても大丈夫なほど安全、という含意でした。安全とされた根拠は主に3つで、需要が景気に連動しにくいこと、規制で料金や参入が守られていること、そして長期にわたり安定した配当を出してきた実績です。東京電力は1951年の設立以来ほぼ途切れず配当を出し、震災前の時価総額は3兆4,000億円台で電力10社の首位でした。重要なのは、この「ディフェンシブ」という言葉が測っているのは需要と利益の振れ幅であって、株主が負う損失の上限ではないという点です。
Q. 東京電力の株は、震災前と比べていまどうなっていますか?
2026年7月24日終値は516.7円で、震災前日(2011年3月10日)の終値2,153円に対して76.0%安い水準です。15年4カ月が経過してなお、震災前の約4分の1にとどまります。配当は2011年3月期の期末配当以降ずっと無配で、2026年3月期は災害特別損失9,138億円などにより4,542億円の最終赤字となり見送り、2027年3月期も中間・期末とも見送る予定が公表されています。株価の底は終値ベースで2012年11月12日の121円(震災前日比▲94.4%)、ザラ場では2012年7月18日の120円でした。なお同社は上場を維持しており、株主の権利が消滅した日本航空(2010年に100%減資)とは異なります。
Q. 電力株のように「同じセクターの中で複数銘柄に分ける」のは分散になりますか?
この事例では、ほとんど効きませんでした。当サイトの実測では、2011年3月10日に旧一般電気事業者10社(東京・中部・関西・中国・北陸・東北・四国・九州・北海道・沖縄)へ等金額で投資し配当を再投資した場合、2012年9月には▲66.3%まで沈み、元本を回復したのは2024年4月15日——13年1カ月後でした。2026年7月24日時点で累積+2.2%(年率+0.14%)です。原因は、10銘柄が同じリスク源にぶら下がっていたことにあります。原発の一斉停止、代替火力の燃料費(政府試算で9社合計・年3.2兆円増)、料金規制という共通の紐です。実際、資源エネルギー庁の部門別損益によれば2012年度の電気事業は9社合計で1兆5,951億円の損失となり、10社のうち黒字だったのは原子力発電所を持たない沖縄電力1社だけでした。10個の卵に見えて、かごは1つだったということです。
Q. 「卵は1つのかごに盛るな」とよく言われますが、いくつに分ければよいのですか?
銘柄数の学術的な目安は30〜40です。Statman(1987, JFQA 22(3), doi:10.2307/2330969)は、無作為に選んだ銘柄で分散効果を出し切るには借入を行う投資家で30銘柄、行わない投資家で40銘柄が必要だと示し、当時通説だった「10銘柄で十分」を否定しました。ただし数より重要なのは中身です。当サイトの実測では、東京電力を震災前日に買った人の15.4年後の結果は、ポートフォリオに占める比率だけで決まりました。比率1%(当時のTOPIX並み)なら100万円が576.0万円、5%なら553.7万円、25%なら442.2万円、100%なら24.0万円です。同じ銘柄、同じ事故、同じ15年で、違うのは比率だけでした。数えるべき単位は銘柄数ではなく、独立したリスク源がいくつあるかです。
本記事は学術文献・SEC提出書類・各社の公表資料・官公庁資料および市場データ(Yahoo Finance経由)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。係争中の事案について当サイトが責任の有無を判断するものではありません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:Markowitz (1952) Journal of Finance 7(1)、Statman (1987) JFQA 22(3)、Bessembinder (2018) Journal of Financial Economics 129(3)、J.P. Morgan「The Agony & The Ecstasy」(2024-10-03)、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)、東京電力ホールディングス公表資料、Edison International Form 10-K (FY2025)、資源エネルギー庁、金融庁NISA公式、各社公表資料。市場データは2026年7月24日終値まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月27日時点・編集部構成)。