INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第17号
下がった任天堂株の「買い目」を、25年分の全営業日で探した
編集部・最終更新 2026年7月29日
任天堂株は2025年8月18日の高値から▲44.4%下げています。こういうとき「どこまで下がったら買いか」という話になりますが、その問いは過去に何度も答え合わせができます。
2001年から2026年7月までの6,368営業日を、高値からの下落率で機械的に区分し、その水準にあった全営業日から買った場合の1年後・2年後・3年後を集計しました。局面は選んでいません(2026年7月29日時点・編集部構成)。
深く下げたところほど良い、にはならなかった。高値から20〜30%の押し目までは指数を上回りますが、40%より深いところで買うと1年後は▲2.0%、50%より深いと1年後▲3.8%・2年後▲7.2%と負けます。ところが同じルールを日経225の221社に当てると形が正反対で、深いほど良くなりました。この逆転はゲーム株に固有です。
検証した営業日
6,368日
2001年〜2026年7月
高値から20%以上下げていた期間
69.2%
4,406日/下がった状態が常態
50%超の下落から買った1年後
▲3.8%
対1305・中央値/勝率46%
2008年の高値を戻すまで
12年7カ月
最大下落▲87.3%
01 · THE METHOD
測り方 — 局面を選ばず、全営業日を数える
「どの下落局面を拾うか」を人が決めると、結論は自由に作れます。Wii U期の底だけ見れば「深いほど報われる」になり、直近だけ見れば逆になります。
「どの下落局面を拾うか」を人が決めると、結論は自由に作れます。
測り方より
そこで局面を選ばず、高値からの下落率(drawdown)が閾値以下だった全営業日を対象にしました。これは「20%下げたら買う」というルールをそのまま実行した場合に相当します。
必ず指数との差で見る
ここが要点です。暴落後に買えば、市場全体の回復が乗ります。生のリターンだけ見ると「押し目買いが効いた」と誤読します。実際、任天堂の生リターンは下落が深くても大きく変わりません。
| 買った水準 | 1年後(生) | 1年後(対1305) | 2年後(生) | 2年後(対1305) |
| いつでも買う | +10.0% | ▲0.1% | +31.4% | +3.4% |
| ▲40%以下で買う | +9.3% | ▲2.0% | +32.1% | +11.3% |
| ▲50%以下で買う | +7.4% | ▲3.8% | +30.7% | ▲7.2% |
※すべて中央値。生リターンで見ると50%下げから買っても+7.4%/+30.7%で悪くなさそうに見えますが、同じ期間に指数がそれ以上に戻っているため、差し引くとマイナスになります。以降の表はすべて対1305の超過です。
壊れた株価系列を先に落とす
日経225には、合併・再上場・分割が調整されず株価系列そのものが壊れている銘柄が混じっています。実測で見つかったものを挙げます。
- 東京海上ホールディングス — 2005年3月以前がマイナス価格
- 日本航空 — 2012年9月19日の再上場で単日+191,400%(それ以前は破綻前の旧JAL)
- バンダイナムコ — 2005年9月29日の経営統合で単日▲76.5%
- ガンホー — 2005年3月10日、上場翌日に単日+1,566%
日本株は値幅制限があるため単日で±50%を超える変化は制度上ほぼ起こりません。これを機械的な破損判定として使い、該当した11銘柄は最後の破損日より後だけを使いました。処理後に単日異常はゼロになっています。
02 · THE NINTENDO DATA
任天堂 — 浅い押し目は効き、深い押し目は効かない
| 買った水準 | 該当日数 | 期間に占める割合 | 1年後 | 2年後 | 3年後 |
| いつでも買う | 6,368 | 100.0% | ▲0.1% | +3.4% | +25.1% |
| ▲10%以下で買う | 5,134 | 80.6% | +0.7% | +7.8% | +28.9% |
| ▲20%以下で買う | 4,406 | 69.2% | +2.2% | +10.9% | +31.3% |
| ▲30%以下で買う | 3,708 | 58.2% | +1.4% | +14.6% | +34.7% |
| ▲40%以下で買う | 3,261 | 51.2% | ▲2.0% | +11.3% | +35.8% |
| ▲50%以下で買う | 2,704 | 42.5% | ▲3.8% | ▲7.2% | +31.5% |
※当サイト実測。Yahoo Financeの調整後終値(配当再投資込み)。数値はTOPIX連動ETF(1305)に対する超過リターンの中央値。ベンチマークに1305を使う理由は、より一般的な1306が2026年3月30日に、1348が2024年8月5日に、それぞれ実際のTOPIXと合わない単日変動を起こしているためです。網掛けが最も成績の良かった水準。
読みどころは3つあります。
- 「下がった」が常態である。高値から20%以上下げていた日は6,368日中4,406日、69.2%を占めます。50%以上下げていた日も42.5%あります。押し目を待つという発想が、そもそも成立しにくい銘柄です。
- 最良は20〜30%の押し目。1年後+2.2%、2年後+14.6%。ここが山で、それより深くなると落ちます。
- 50%より深いところは1年後も2年後もマイナス。指数を上回った割合も1年後46%、2年後49%と、コイン投げを下回ります(いつでも買う場合は50%・53%)。
3年まで待てば、どの水準からでもプラスになります。ただし3年後の成績は深さとほとんど関係がなく(+28.9%から+35.8%)、深く下げたことのご褒美はありません。
3年後の成績は深さとほとんど関係がなく、深く下げたことのご褒美はありません。
任天堂の実測より
03 · THE CROSS-CHECK
同じルールを他の銘柄に当てると、形が逆になる
1銘柄だけのバックテストは偶然の当たりを拾います。任天堂で見つけた形が本物かどうかは、同じルールを他に当てて確かめるしかありません。
| 買った水準 | 任天堂 | ゲーム株9社 | 日経225(221社) |
| 1年後 | 3年後 | 1年後 | 3年後 | 1年後 | 3年後 |
| いつでも買う | ▲0.1% | +25.1% | +3.0% | +26.2% | ▲0.3% | ▲0.2% |
| ▲10%以下 | +0.7% | +28.9% | +4.7% | +27.1% | +0.5% | +1.0% |
| ▲20%以下 | +2.2% | +31.3% | +6.3% | +28.2% | +1.5% | +3.0% |
| ▲30%以下 | +1.4% | +34.7% | +4.9% | +29.4% | +2.6% | +6.2% |
| ▲40%以下 | ▲2.0% | +35.8% | ▲0.3% | +29.8% | +4.7% | +8.8% |
| ▲50%以下 | ▲3.8% | +31.5% | ▲3.4% | +31.4% | +6.7% | +19.3% |
※当サイト実測。すべて対1305の超過リターン中央値。ゲーム株9社=任天堂・ソニーグループ・カプコン・コーエーテクモ・バンダイナムコ・スクウェア・エニックス・コナミグループ・セガサミー・ガンホー。日経225は2026年6月30日時点の構成銘柄のうち、株価系列が使える221社(50%以下の行は該当が少ない銘柄を除き203社)。
日経225では、深いほど良くなります。▲10%で+1.0%、▲30%で+6.2%、▲50%で+19.3%と、3年後の超過が単調に増えます。「深く下げるほど買い」という発想は、一般の日本株では実際に成立していました。
ところが任天堂とゲーム株9社は、20%が山で、そこから深くなると落ちる同じ形をしています。つまりこの逆転は任天堂1社の偶然ではなく、ゲーム業界に固有の性質です。
この逆転は任天堂1社の偶然ではなく、ゲーム業界に固有の性質です。
ゲーム株9社・日経225との比較より
04 · WHY IT REVERSES
なぜゲーム株だけ逆になるのか
下落の中身が違うためだと考えられます。
一般の銘柄が高値から50%下げるのは、リーマン・ショックやコロナ・ショックのように市場全体が下げる局面が中心です。企業の中身は変わっていないので、市場が戻れば一緒に戻ります。
これに対しゲーム株の深い下落は、ハードウェアの世代交代に伴う業績の谷であることが多く、次のハードが当たるまで回復しません。任天堂の場合、2008年1月に付けた高値を取り戻したのは2020年8月——12年7カ月かかっています。その途中、2012年7月25日には高値から▲87.3%まで沈みました。
この「1年後は負けるが3年後には勝つ」という形自体は、学術的に知られた2つの現象の重なりとして読めます。JegadeeshとTitman(1993)は3〜12カ月の期間で過去の負け組が負け続けるモメンタムを報告し、De BondtとThaler(1985)は3〜5年の長期では逆に負け組が勝ち組を上回るリバーサルを報告しました。本記事の実測で1年後がマイナス・3年後がプラスになるのは、この2つの時間軸がそのまま出た形といえます。
ただしゲーム株では、深い下落ほど1年後・2年後のマイナスが大きくなります。谷が深いほど、モメンタムの負けが長引いているということです。
05 · WHERE WE STAND NOW
いまはどの水準にあるか
任天堂は2025年8月18日の高値から▲44.4%(2026年7月29日時点)。本記事の区分では「▲40%以下」のゾーンです。
| ▲40%以下から買った過去の実績 | 対1305の中央値 | 指数を上回った割合 |
| 1年後 | ▲2.0% | 48% |
| 2年後 | +11.3% | 52% |
| 3年後 | +35.8% | 58% |
※当サイト実測。該当は2,286日ぶんの観測。
過去25年の集計では、この水準から買って1年後に指数を上回ったのは48%——半分を割ります。2年、3年と延ばせば改善しますが、1年で判断するつもりなら分の悪い賭けだったということです。
1年で判断するつもりなら、分の悪い賭けだった。
「▲40%以下」ゾーンの実測より
もっとも、これは過去の集計にすぎません。当時と現在では製品サイクルの位置も競争環境も違います。本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
留意点
- 本記事は過去の値動きの集計であり、特定の銘柄・売買タイミングを推奨するものではありません。「下がったら買う」という発想を検証対象として扱ったもので、当サイトがその実行を勧めるものではありません。
- 任天堂は生き残って復活した会社です。同じルールを、業績が回復しなかった会社に当てはめれば結果は変わります。本記事の数値には、任天堂がSwitchで復活したという結末が織り込まれています。
- 1銘柄のバックテストは偶然の当たりを拾いやすいため、ゲーム株9社と日経225の221社に同じルールを当てて確かめています。それでも「▲20%が山」という水準自体は、閾値の刻み方(10%刻み)に依存します。
- 同じ下落局面の日々は互いに強く相関するため、6,368という日数がそのまま独立した観測数を意味するわけではありません。任天堂の場合、▲20%以下の4,406日は実質的に8つの下落局面に集約されます。統計的な有意性は主張していません。
- 高値は「その時点までの最高値」で計算しています(将来の高値は使っていません)。ただし下落率の閾値そのものは後から見て設定したもので、当時リアルタイムに同じ区分を選べたとは限りません。
- 日経225の構成銘柄は2026年6月30日時点のものを使っています。過去に採用されていて現在は外れた銘柄は入っておらず、生存者バイアスがかかります(成績は実際より良い方向に寄ります)。
- 株価系列が壊れていた11銘柄は最後の破損日より後だけを使いました。この処理により、それらの銘柄では観測期間が短くなっています。
- 他資料と数値が異なる場合、起点・終点・配当の扱い・ベンチマークの選び方の違いによります。
FAQ
Q. 任天堂株は何%下げたところが買い目ですか?
本記事は買い目を示すものではなく、過去に下がったところで買っていたらどうなったかを集計したものです。その集計では、高値から20%から30%下げた水準で買った場合が最も良く、TOPIX連動ETF(1305)に対する超過リターンの中央値が1年後で+2.2%から+1.4%、2年後で+10.9%から+14.6%でした。一方で40%より深く下げた水準で買うと1年後は▲2.0%、50%より深いと1年後▲3.8%・2年後▲7.2%と、指数に負けています。深く下げたところほど良いわけではありませんでした。なお高値から20%以上下げた状態は2001年からの6,368営業日のうち4,406日、全体の69.2%を占めます。「下がったら買う」の下がった状態が、任天堂では常態だということです。
Q. 他の銘柄でも同じ形になりますか?
なりません。同じルールを日経225採用の221社に当てたところ、形は正反対でした。高値から10%下げで買った場合の3年後の対1305超過リターンは中央値+1.0%、20%で+3.0%、30%で+6.2%、40%で+8.8%、50%で+19.3%と、深いほど良くなります。一般の日本株では「深く下げるほど買い」が成立しているということです。一方でゲーム株9社は任天堂と同じ形で、20%下げが最良(1年後+6.3%)、50%より深いと1年後▲3.4%でした。つまりこの逆転はゲーム業界に固有の性質で、任天堂1社の偶然ではありません。1銘柄だけのバックテストは偶然の当たりを拾いやすいため、同じルールを他の銘柄に当てて確かめています。
Q. なぜゲーム株だけ形が逆になるのですか?
下落の中身が違うためだと考えられます。一般の銘柄が高値から50%下げるのは、リーマン・ショックやコロナ・ショックのように市場全体が下げる局面が中心で、市場が戻れば一緒に戻ります。これに対しゲーム株の深い下落は、ハードウェアの世代交代に伴う業績の谷であることが多く、次のハードが当たるまで回復しません。任天堂の場合、2008年1月に付けた高値を取り戻したのは2020年8月で、12年7カ月かかっています。この間の最大下落率は87.3%(2012年7月25日)でした。本記事は因果関係を証明するものではなく、下落の性質が異なるという解釈を示したものです。
Q. いまの任天堂株はどの水準にありますか?
2026年7月29日時点で、高値(2025年8月18日)から▲44.4%です。本記事の区分でいえば「40%より深い」ゾーンにあたり、過去の集計では同じ水準から買った場合の1年後の対1305超過リターンが中央値▲2.0%、指数を上回った割合は48%でした。ただしこれは過去25年の集計であり、今回も同じになるとは限りません。当時と現在では製品サイクルの位置も競争環境も異なります。本記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。
本記事は公開市場データ(Yahoo Finance経由)および学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:Yahoo Finance(調整後終値)、日本経済新聞社(日経平均構成銘柄・2026年6月30日時点)、De Bondt & Thaler (1985) The Journal of Finance 40(3)、Jegadeesh & Titman (1993) The Journal of Finance 48(1)。市場データは2026年7月29日まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月29日時点・編集部構成)。