INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第16号
「中国が国産化する」で売って正解だったのは、10回中4回だった
編集部・最終更新 2026年7月29日
中国企業が半導体の露光装置を自社製造し始めたと報じられ、ASML株が2営業日で▲9.9%下げました。ニコンは▲13.0%、レーザーテックは▲13.3%です。「中国が国産化する」という報せで既存プレーヤーが売られる——この光景は10年以上、繰り返されてきました。
ならば答え合わせができます。中国国務院は2015年5月に《中国製造2025》を公布し、重点10分野を名指ししました。そこから11年。10分野それぞれで、既存プレーヤーと中国勢に何が起きたかを実測します(2026年7月29日時点・編集部構成)。
10分野のうち、売って正解だったのは4分野だけ。ここでいう「売る」は既存プレーヤーを手放して世界株指数(ACWI)に乗り換えること。残る6分野では指数を上回り、しかも負けた4分野でも株価自体はプラスでした。個別に降りるとさらに反転し、11年でマイナスになったのは既存側46社中4社、中国側は32社中12社です。
既存側が指数に負けた
4/10分野
世界株ACWI +207.8%対比
11年でマイナスの社数
4対12
既存46社/中国32社
ASMLの11年
+1479%
同じ露光装置のニコンは+71%
01 · THE POPULATION
母集団は、中国政府が11年前に決めていた
この種の検証は、どの事例を数えるかで結論が反転します。太陽光パネルとドローンだけ並べれば「中国は既存勢を壊滅させる」になりますし、旅客機と露光装置だけなら「中国には無理だ」になります。
そこで事例を選ばずに済むよう、中国国務院《中国製造2025》(国発〔2015〕28号・2015年5月19日公布)が「(六)大力推动重点领域突破发展」で列挙した10分野を、そのまま母集団にしました。中国政府自身が11年前に宣言したリストなので、こちらの裁量が入りません。起点も公布日で自動的に決まります。
| # | 原文 | 本記事での呼び方 |
| 1 | 新一代信息技术产业 | 次世代情報技術(集成電路及専用装備=露光装置を含む) |
| 2 | 高档数控机床和机器人 | 工作機械・ロボット |
| 3 | 航空航天装备 | 航空宇宙 |
| 4 | 海洋工程装备及高技术船舶 | 海洋設備・高技術船舶 |
| 5 | 先进轨道交通装备 | 鉄道車両 |
| 6 | 节能与新能源汽车 | 省エネ・新エネ車 |
| 7 | 电力装备 | 電力設備 |
| 8 | 农机装备 | 農業機械 |
| 9 | 新材料 | 新材料 |
| 10 | 生物医药及高性能医疗器械 | バイオ医薬・高性能医療機器 |
※中国政府網に掲載された原文(索引番号 000014349/2015-00078)から当サイトが抽出。露光装置は分野1に名指しで入っています。今回のASMLの件は、11年前に宣言された計画の進捗報告という位置づけになります。
企業は「公布日に上場していたもの」に限る
各分野で中国側・既存側それぞれ最大5社を採りました。ルールは2015年5月19日時点で上場していたもののみ。両者を同じ窓で測るためです。
この結果、CATL(2018年上場)、マインドレイ(2018年)、LGエネルギーソリューション(2022年)、GEヴァーノバ(2024年分社)などが落ちます。後発の勝ち組が入らないぶん、このルールは中国側に不利に働きます。それでも中国勢が勝っていれば結論は強くなる、という設計です。
非上場は測れないため除外しました。華為、COMAC、CXMT、ヤンマー、今治造船などが該当します。分野によっては主役が非上場である点は、結論を読むうえで重要です。また中国重工(601989)は2025年に中国船舶へ吸収合併され消滅、エンブラエルは価格系列が取得できなかったため、それぞれ除いています。
02 · THE SCORECARD
11年後の答え合わせ
公布日の2015年5月19日から2026年7月28日まで、等金額・買い持ち・配当再投資で測りました。同じ期間の世界株(ACWI)は+207.8%、中国A株(ASHR)は+1.6%です。
| 分野 | 中国側 | 既存側 | 既存の対ACWI |
| 1. 次世代情報技術 | +975%(5社) | +2209%(5社) | +2001pt |
| 6. 省エネ・新エネ車 | +314%(4社) | +456%(5社) | +248pt |
| 7. 電力設備 | +22%(4社) | +405%(5社) | +198pt |
| 8. 農業機械 | +27%(2社) | +283%(4社) | +75pt |
| 3. 航空宇宙 | +112%(3社) | +281%(4社) | +74pt |
| 5. 鉄道車両 | ▲72%(2社) | +261%(5社) | +53pt |
| 2. 工作機械・ロボット | +116%(4社) | +204%(5社) | ▲3pt |
| 9. 新材料 | +422%(3社) | +130%(5社) | ▲77pt |
| 10. バイオ医薬・医療機器 | +91%(3社) | +127%(5社) | ▲81pt |
| 4. 海洋設備・高技術船舶 | ▲45%(2社) | +119%(5社) | ▲88pt |
※当サイト実測。Yahoo Financeの調整後終値(配当再投資込み)を用いた等金額・買い持ち(リバランスなし)で、税・取引コストは控除していません。各社は自国通貨建てのまま測っています(為替を混ぜると「中国勢が勝った」のか「通貨が動いた」のかが分離できないため)。網掛けが既存側の負けた4分野。
既存プレーヤーが指数に負けたのは4分野だけでした。しかもその4分野を見ると、負け幅は最大で▲88ポイント、株価そのものは+119%から+204%とすべてプラスです。「国産化されて壊滅した」という絵にはなっていません。
株価そのものは+119%から+204%とすべてプラス。「国産化されて壊滅した」という絵にはなっていません。
逆に最大の勝者は分野1の既存側で+2209%、指数を2001ポイント上回りました。ここは中国が露光装置を名指しした分野です。
03 · TWO DIFFERENT QUESTIONS
「中国が伸びた」と「既存が沈んだ」は別の話
この2つを混同すると読み違えます。分けて4象限に置きました。
| 象限 | 分野数 | 該当分野 |
中国○ 既存× 教科書どおり | 3 | 工作機械・ロボット/新材料/バイオ医薬・医療機器 |
中国○ 既存○ 市場が拡大した | 5 | 次世代情報技術/航空宇宙/省エネ・新エネ車/電力設備/農業機械 |
中国× 既存× 分野ごと不振 | 1 | 海洋設備・高技術船舶 |
中国× 既存○ 国産化が効かなかった | 1 | 鉄道車両 |
※中国側は対ASHR(+1.6%)、既存側は対ACWI(+207.8%)で判定。
最多は「中国も伸びたが既存も無事」の5分野でした。市場そのものが拡大したため、シェアを取られても既存プレーヤーの売上と利益は増えています。中国の参入は、必ずしもゼロサムではなかったということです。
教科書どおりの「中国が伸びて既存が沈む」は3分野。そして鉄道車両は、CRRCが▲73%と大きく沈む一方で既存側は+261%と、国産化が既存プレーヤーに何の打撃も与えなかった分野でした。
04 · THE REVERSAL
個別に降りると、構図が反転する
分野別の平均は、中の割れ方を隠します。全社を並べ直しました。
| 既存側 46社 | 中国側 32社 |
| 等金額 | +449% | +262% |
| 中央値 | +177% | +64% |
| プラスの社数 | 42/46社 | 20/32社 |
| 11年でマイナスの社数 | 4社 | 12社 |
※複数分野に登場する企業(ABB・日立製作所)は1社として数えています。中央値と平均を併記しているのは、分野1のように一部の銘柄が平均を大きく持ち上げるためです。
11年でマイナスになったのは、既存側46社中4社に対し、中国側は32社中12社。比率でいえば9%対38%で、中国勢のほうが4倍の確率で沈んでいます。
11年でマイナスになったのは、既存側46社中4社に対し、中国側は32社中12社。中国勢のほうが4倍の確率で沈んでいます。
| 既存側でマイナスの4社 | 11年 | 中国側で下位の5社 | 11年 |
| ハンファオーシャン | ▲45% | CRRC 中国中車 | ▲73% |
| フォルクスワーゲン | ▲44% | 晋西車軸 | ▲72% |
| アルストム | ▲27% | 新松機器人 | ▲71% |
| BASF | ▲3% | 上海電気 | ▲65% |
| — | — | 中船防務 | ▲55% |
※当サイト実測。自国通貨建て・配当再投資込み。
05 · CASE FILE — NIKON
最も雄弁なのは、ニコンだった
露光装置が名指しされた分野1の内訳です。
| 既存側 | 11年 | 中国側 | 11年 |
| ラムリサーチ | +3796% | 北方華創(NAURA) | +2386% |
| 東京エレクトロン | +3082% | 華虹半導体 | +1363% |
| アプライドマテリアルズ | +2615% | SMIC 中芯国際 | +743% |
| ASML(露光装置) | +1479% | 長電科技 | +341% |
| ニコン(露光装置) | +71% | ZTE 中興通訊 | +43% |
※等金額は既存側+2209%(中央値+2615%)、中国側+975%(中央値+743%)。最大寄与を除いても既存側+1812%・中国側+623%で、1社に依存した結果ではありません。
同じ露光装置を手がけながら、ASMLは+1479%、ニコンは+71%。中国勢が現れるはるか前に、この2社の勝負はついていました。
これが本記事で最も重要な発見です。本当に沈んだ企業は、中国の参入によって沈んだのではなく、参入以前から競争力を失っていた企業でした。ハンファオーシャン、フォルクスワーゲン、アルストム、BASF——いずれも中国以外の理由で説明できる会社です。
本当に沈んだ企業は、中国の参入によって沈んだのではなく、参入以前から競争力を失っていた企業でした。
本記事の結論
06 · BACK TO THE PRESENT
直近の下落を、この物差しに置く
| 銘柄 | 直近2営業日 | 2026年7月 | 11年(2015-05〜) |
| ASML | ▲9.9% | ▲14.1% | +1479% |
| ニコン | ▲13.0% | ▲13.6% | +71% |
| レーザーテック | ▲13.3% | ▲26.3% | — |
| ラムリサーチ | ▲11.7% | ▲31.1% | +3796% |
※当サイト実測。直近2営業日は2026年7月24日終値から28日終値まで。レーザーテックは分野1の母集団に入れていないため11年の欄は空欄。
11年で+1479%積み上げた銘柄の▲9.9%、という位置づけになります。本記事はこの下落が行き過ぎだと言うものではありません。ただし「中国が国産化する」という報せが既存プレーヤーの株価にとって決定的だったことは、過去10分野のうち4分野でしかなかった——それが11年分のデータから言えることです。
07 · WHY IT SPLITS
なぜ分野によって結果が割れるのか
4象限を分けたものは何か。実測から見えるのは2つです。
- 市場が拡大しているか。「中国も伸びたが既存も無事」の5分野は、いずれも期間中にパイ自体が大きくなりました。半導体は人工知能向け需要、新エネ車は市場そのものの立ち上がりです。パイが伸びない分野で中国勢が入ると、既存プレーヤーは直接削られます。
- 技術の蓄積が効くか。露光装置のように装置1台の中に数十年分の擦り合わせが詰まっている分野では、11年でも差が詰まりませんでした。一方で工作機械・ロボットや新材料のように、部品を組み合わせて性能を出せる分野では既存側が指数に負けています。
後者は学術的にも整理されています。LeeとLim(2001)は韓国産業のキャッチアップを分析し、技術体制(technological regime)の違いによって、後発企業が追いつける分野と追いつけない分野が分かれると論じました。技術の変化が速く蓄積性が低い分野では後発が有利になり、逆に累積的な擦り合わせが効く分野では先行者が守り切る、という整理です。LeeとMalerba(2017)はこれを「機会の窓」の理論として一般化しています。
当サイトの4象限は、この理論の実測版として読めます。「中国が国産化を宣言した」という情報だけでは、どちらの分野なのかが分かりません。売るかどうかの判断材料としては、それだけでは足りないということです。
「中国が国産化を宣言した」という情報だけでは、どちらの分野なのかが分かりません。売るかどうかの判断材料としては、それだけでは足りない。
留意点
- 本記事は過去の値動きの集計であり、特定の銘柄・商品・売買タイミングを推奨するものではありません。今後の中国の技術開発や各社の競争力について予測するものでもありません。
- 企業の選定は「2015年5月19日時点で上場していた、その分野の主要プレーヤー」という基準によりますが、どの企業を主要とみなすかには当サイトの判断が入っています。分野は中国政府の文書で決まっており裁量は入りませんが、企業の選定は本記事で最も弱い部分です。全社の個別成績を掲載しているのはそのためです。
- 非上場企業は測れません。華為(通信機器)、COMAC(旅客機)、CXMT(メモリ)、ヤンマー、今治造船などが該当します。とくに中国側は主役が非上場である分野があり、株価は中国の実力を過小評価している可能性があります。
- 後発の勝ち組が入りません。CATL(2018年上場)、マインドレイ(2018年)などを含めれば中国側の成績は上がります。同じ窓で比較するために公布日時点の上場企業に限定した結果であり、この点は中国側に不利です。
- 各社は自国通貨建てのまま測っています。ドル換算すると人民元・円・ユーロ・ウォンの変動が混ざり、事業の勝敗と通貨の動きが分離できなくなるためです。円建てで測った日本企業とドル建てで測った米国企業を同じ表に並べている点にご留意ください。
- 株価は競争力以外の要因(金利、相場全体、個社の資本政策)にも動かされます。本記事は因果関係を主張するものではなく、「宣言された時点で売るという判断が結果的に当たったか」を集計したものです。
- 中国A株指数(ASHR)が同期間で+1.6%とほぼ横ばいのため、「中国勢が現地市場を上回った」という判定はハードルが低くなっています。絶対値も併記しているのはそのためです。
- 他資料と数値が異なる場合、起点・終点・通貨・配当の扱い・算出方法の違いによります。
FAQ
Q. 「中国が国産化する」という報道で、その分野の既存企業を売るのは有効ですか?
当サイトの実測では、10分野中4分野でしか正解になりませんでした。ここでいう「売る」は、その分野の既存プレーヤーを手放して世界株指数(ACWI)に乗り換えることを指します。中国国務院が2015年5月に公布した《中国製造2025》の重点10分野について、公布日から2026年7月28日までの株価を等金額・配当再投資で測ったところ、既存プレーヤーの成績がACWIの+207.8%を下回ったのは海洋設備・船舶、バイオ医薬・医療機器、新材料、工作機械・ロボットの4分野です。残る6分野では指数を上回り、とくに半導体を含む次世代情報技術は+2209%と指数を2001ポイント上回りました。さらに、負けた4分野でも既存プレーヤーの株価自体は+119%から+204%とプラスで、絶対値で損をしたわけではありません。本記事は過去の値動きの集計であり、特定の銘柄や売買を推奨するものではありません。
Q. 中国勢は実際に伸びたのですか?
分野によって大きく割れました。中国側32社の等金額は+262%ですが、中央値は+64%です。11年でマイナスになった社数を数えると、既存側46社のうち4社に対し、中国側は32社のうち12社と3倍多くなっています。CRRC(中国中車)は▲73%、新松機器人は▲71%、上海電気は▲65%でした。中国A株指数(ASHR)が同期間で+1.6%とほぼ横ばいのため、現地市場を上回った分野は8つありますが、これはハードルが低いことの裏返しでもあります。「中国勢が伸びた」と「既存プレーヤーが沈んだ」は別の現象で、当サイトの集計では両方が同時に起きた分野は10のうち3つ(工作機械・ロボット、新材料、バイオ医薬・医療機器)にとどまりました。
Q. なぜ「中国も伸びたが既存も無事」という分野が多いのですか?
市場そのものが拡大したためです。当サイトの集計で最も多かったのがこの組み合わせで、半導体・航空宇宙・新エネ車・電力設備・農業機械の5分野が該当します。たとえば半導体では、中国側(北方華創+2386%、華虹半導体+1363%、SMIC+743%など)も伸びましたが、既存側はラムリサーチ+3796%、東京エレクトロン+3082%、アプライドマテリアルズ+2615%とそれ以上に伸びました。人工知能向けの需要でパイ自体が何倍にもなったため、シェアを取られても既存プレーヤーの売上と利益は増えています。逆にいえば、市場が拡大しない分野で中国勢が入ってくると既存プレーヤーは直接削られます。LeeとLim(2001)は韓国産業の事例から、技術体制の違いによって後発企業のキャッチアップが成功する分野と失敗する分野が分かれると論じており、今回の4象限はその実測版として読めます。
Q. ASMLの株価下落はどう位置づけられますか?
11年の文脈に置くと小さな変動です。2026年7月27日から28日にかけての2営業日でASMLは▲9.9%、ニコンは▲13.0%、レーザーテックは▲13.3%、ラムリサーチは▲11.7%下げました。一方でASMLは《中国製造2025》公布日から+1479%です。より示唆的なのは同じ露光装置を手がけるニコンで、同じ11年間で+71%にとどまっています。ニコンは中国勢が現れる前にASMLとの競争に敗れており、本記事の実測で沈んだ企業の多くは、中国の参入によって沈んだのではなく、参入以前から競争力を失っていた企業でした。なお本記事は今後の株価を予想するものではなく、投資判断はご自身の責任で行ってください。
本記事は中華人民共和国国務院の公表文書、学術文献および市場データ(Yahoo Finance経由)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:中华人民共和国国务院《中国制造2025》(国発〔2015〕28号)、Yahoo Finance(調整後終値)、Lee & Lim (2001) Research Policy 30(3)、Lee & Malerba (2017) Research Policy 46(2)。市場データは2026年7月28日まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月29日時点・編集部構成)。