INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第11号

下げ相場で個人株主が多い株が勝つのは、資金移動ではなくβが原因だった

手法
個人その他/外国法人等の比率上位30社ずつを日経225連動ETF(1321)へβ回帰し、市場変動幅別に平均差を比較(N=223社)
一次資料
金融庁EDINET(API v2)

2026年7月、日経225連動ETFは月間で▲7.4%でした。その同じ月に、個人株主の比率が高い銘柄を等金額で持っていれば+5.5%です。外国人比率の高い銘柄は+1.0%。差は歴然としています。

この逆行高は「AI関連株を利益確定した資金が、優待や還元に積極的な個人向け銘柄へ移った」と説明されます。資金の移動が起きているなら、それは相場の局面が変わったという話になります。

日経225採用銘柄の全社を有価証券報告書から二分し、2021年まで遡って実測しました(2026年7月27日終値まで・2026年7月28日時点・編集部構成)。

223社 日経225採用225社のうち、有報「所有者別状況」から株主構成を取得できた数。銘柄は選ばず全社が対象
r = −0.592 個人その他比率と外国法人等比率の相関。2つの上位30社に重複は1社もない
2022年のみ 個人比率上位が外国人比率上位に勝った年。集計期間で唯一ETFがマイナスだった年でもある
判定
原因誤認

資金は移動していない。個人比率の高い銘柄のベータが0.66だというだけ。市場が2%超下げた日の差は+0.80ポイント、2%超上げた日は▲0.87ポイントで、差の向きと大きさは市場の変動幅にほぼ比例します。下げた月に浮くのは定義上の帰結で、上げ相場では同じ理由で負け続けます。実際、2021年からの年率は個人上位20.4%に対し外国人上位25.0%でした。

個人比率上位30のβ
0.66
外国人比率上位30は0.93
市場が2%超下げた日
+0.80pt
個人上位 − 外国人上位・77日
市場が2%超上げた日
▲0.87pt
同・86日。符号が反転する
年率(5年7カ月)
20.4% / 25.0%
個人上位 / 外国人上位

Evidence Card

この記事の検証条件を1か所にまとめました。再検証・引用にどうぞ。

母集団
日経225採用225社の有価証券報告書「所有者別状況」(EDINET XBRL)→223社取得
期間
株主構成は2026年6月30日基準(各社最新有報)/株価は2021年1月5日〜2026年7月27日(1,358営業日)
手法
個人その他/外国法人等の比率上位30社ずつを日経225連動ETF(1321)へβ回帰し、市場変動幅別に平均差を比較(N=223社)
結果
個人株主比率上位30のβ 0.66(外国人上位30は0.93)
確度
限定的 — 日経225全225社中223社を取得した全数分析で、生の相関と市場調整後の相関で符号は一致。ただし観測期間は2021年以降の一貫した上昇相場のみで、下落局面での再現性は確認できていない。
この結果が崩れる条件
下落が長く続く相場では順位が入れ替わりうる——2022年がその実例(本文参照)。ベータは単純な線形推定で、期間によって変動する。
更新トリガー
有報は毎年6月更新。7月にfetch_edinet.py --refresh→measure.pyを再実行
データ
所有者別状況データ(JSON・223社) — 出典:金融庁EDINET(API v2)。二次利用はPDL1.0に基づきます。β・局面別成績はYahoo Finance由来のデータをもとに当サイトが独自算出したもので、算出結果のデータセットとしての一括配布は行っていません(算出条件は本文に明記、出典は下記参照)。
ID
IVYXON Evidence #0014
最終更新
2026年8月17日
作成者
IVYXON
レビュー状況
編集部確認
DATASETこの記事のDatasetページ — 対象・期間・手法・ライセンスをまとめて確認
01 · THE POPULATION

母集団は有価証券報告書から作りました

「個人株主比率の高い銘柄」を語るとき、どの30社を指すかで結果は変わります。そこで銘柄を選ばず、日経225採用銘柄の全社について一次資料から比率を取り、上から機械的に30社ずつ切りました。

使ったのは有価証券報告書の【株式等の状況】にある「所有者別状況」です。金融庁のEDINETがXBRLデータとして配布しているため、次の3項目を機械的に取得できます。

XBRL要素内容
PercentageOfShareholdingsIndividualsAndOthers所有株式数の割合-個人その他
PercentageOfShareholdingsForeignersOtherThanIndividuals同-外国法人等(個人以外)
PercentageOfShareholdingsForeignIndividualInvestors同-外国法人等(個人)

※日経225採用225社のうち223社で取得できました。取得できなかった2社は、新規上場で有価証券報告書がまだ提出されていないものと、当該項目のタグが想定した文脈に入っていなかったものです。外国人比率は法人と個人を合算しています。

結果、個人その他の比率は223社の中央値が18.2%、上位30社は32.9%〜51.4%。外国法人等は中央値34.2%、上位30社は46.4%〜77.9%でした。両者の相関はr = −0.592で、きれいに裏返しの関係にあります。2つの上位30社に重複は1社もありません。

個人その他の比率 上位個人外国人外国法人等の比率 上位外国人個人
キヤノン51.4%18.0%中外製薬77.9%5.2%
ANAホールディングス50.3%15.2%ネクソン75.2%4.4%
ディー・エヌ・エー49.7%13.2%シャープ74.5%15.7%
SHIFT44.8%30.1%キオクシアHD68.5%5.3%
東京電力HD43.2%24.2%ルネサスエレクトロニクス61.7%5.9%
高島屋42.8%16.4%HOYA61.0%7.7%
レーザーテック40.0%25.3%日産自動車60.8%20.8%
東武鉄道39.7%19.7%ソニーグループ58.2%13.6%

※各上位10社のうち8社を抜粋。比率は各社の最新有価証券報告書の基準日(多くは2026年3月期末)時点。報道等で使われる調査会社の数値とは時点と定義が異なるため、値が一致しないことがあります。

外国人比率の上位に並ぶのは、親会社が外国企業である銘柄です。中外製薬はロシュ、シャープは鴻海精密工業、ネクソンは韓国系の持株会社が大株主で、これらは「外国人投資家に人気がある」のではなく支配株主が外国法人であることによる数字です。この点は結果を読むときの注意になります。

「外国人投資家に人気がある」のではなく、支配株主が外国法人であることによる数字だった。

外国法人等の比率 上位30社の内訳より
02 · THE HEADLINE, CHECKED

2026年7月は、報じられたとおりでした

まず現象そのものを確認します。日本経済新聞は2026年7月27日の「スクランブル」で、個人比率の高い上位30社の7月の騰落率が+4.5%、外国人比率上位30社が+0.8%、日経平均が▲7.3%だったと報じました。当サイトが有報から独自に組んだ母集団でも、ほぼ同じ数字が出ます。

2026年7月1日〜27日当サイト実測報道された値
個人比率 上位30社+5.5%+4.5%
外国人比率 上位30社+1.0%+0.8%
日経225連動ETF(1321)▲7.4%▲7.3%(日経平均)

※当サイト実測は等金額・配当再投資。銘柄の選定基準(有価証券報告書 vs 調査会社の集計)が異なるため完全には一致しません。

1ポイント程度の差はありますが、同じ現象を別の資料から再現できています。ここまでは争点になりません。問題は、これを「資金が移った」と読むかどうかです。

03 · THE YEARLY SCOREBOARD

年で見ると、勝っているのは外国人比率のほうです

個人比率 上位30外国人比率 上位30日経225ETF個人 − 外国人
2021+24.2%+25.2%+7.1%▲0.9pt
2022+12.7%▲4.3%▲7.6%+17.0pt
2023+30.3%+35.8%+30.6%▲5.5pt
2024+2.4%+19.9%+21.4%▲17.5pt
2025+21.6%+32.0%+28.4%▲10.4pt
2026(7月27日まで)+19.9%+29.4%+30.1%▲9.6pt

※等金額・配当再投資。2026年は年初来。

個人比率上位が明確に勝ったのは2022年だけです。そして2022年は、この6年で唯一ETFがマイナスだった年(▲7.6%)でした。2024年は17.5ポイント、2025年は10.4ポイントの劣後で、7月に5.5%の逆行高を演じた2026年ですら、年初来ではまだ9.6ポイント負けています。

「逆襲」と呼べる状況は、下げ相場の年にだけ現れています。ここから先は、それが資金の移動なのか別のものなのかを分ける作業です。

「逆襲」と呼べる状況は、下げ相場の年にだけ現れている。

年別成績(2021〜2026年)の実測より
04 · THE REAL DRIVER

正体はベータでした

市場全体に対する感応度(ベータ)を測ると、話は単純になります。

β上昇日のβ下落日のβ年率ボラティリティ
個人比率 上位300.660.610.7318.0%
外国人比率 上位300.930.930.9822.3%
日経225連動ETF(1321)1.0022.1%

※2021年1月5日〜2026年7月27日、1,358営業日の日次リターンを1321に回帰。

個人比率上位のベータは0.66。市場が1%動くとき、この30社は平均0.66%しか動きません。ならば市場が下げるとき相対的に浮くのは当然で、そこに資金の移動を持ち出す必要はありません。

これを確かめるため、市場の変動幅で日を5つに分け、両者の差を取りました。

その日の市場日数個人比率 上位30外国人比率 上位30
2%超の下落77日▲1.87%▲2.67%+0.80pt
0.5〜2%の下落319日▲0.70%▲0.99%+0.29pt
±0.5%486日+0.05%+0.06%▲0.01pt
0.5〜2%の上昇390日+0.78%+1.04%▲0.25pt
2%超の上昇86日+1.68%+2.55%▲0.87pt

※各区分の平均。日次・等金額・配当再投資。

中央がほぼゼロで、左右対称に開いていきます。市場がほとんど動かなかった486日では差が▲0.01ポイント、つまり無風の日には両者に区別がありません。市場が大きく動いた日にだけ差が出て、しかも符号が反転します。

資金がAI関連株から個人向け銘柄へ移動しているなら、下げた日に個人株が「上がる」はずです。実際には下げた日も個人株は▲1.87%と下げています。外国人比率上位より下げ幅が0.80ポイント小さいだけです。逃避先で買われているのではなく、単に落ち方が緩やかなだけでした。

逃避先で買われているのではなく、単に落ち方が緩やかなだけだった。

市場変動幅別の実測より

日次リターンの相関も、この見方を支持します。両者の生の相関は+0.852、市場の動きを差し引いた後でも+0.477で、いずれもです。逆相関、すなわち一方が売られて他方が買われる関係は観測できません。

05 · THE LONG RUN

5年7カ月で見ると、リスクを取ったほうが報われています

2021年1月5日〜2026年7月27日累計年率年率ボラβ
個人比率 上位30+172.3%+20.4%18.0%0.66
外国人比率 上位30+233.2%+25.0%22.3%0.93
日経225連動ETF(1321)+162.3%+19.6%22.1%1.00

※当サイト実測。Yahoo Finance の調整後終値(配当再投資込み)を用いた等金額・買い持ち(リバランスなし)で、税・取引コストは控除していません。ベンチマークは日経225連動ETFの1321。同期間の1305(TOPIX)は+157.9%、日経平均(配当なし)は+137.0%で、最悪日はいずれも2024年8月5日でした。

個人比率上位はベンチマークをわずかに上回っています(年率20.4%対19.6%)。ボラティリティが18.0%と低いぶん、リスク調整後で見れば健闘したと言えます。ただし外国人比率上位は年率25.0%で、絶対値では6割ほど大きな累計リターンを残しました。

もっとも、これは日経平均が5年半で1.6倍になった上昇局面での結果です。ベータの低い銘柄群が絶対リターンで劣後するのは、上げ相場では当たり前のことでもあります。下落が長く続く相場なら順位は入れ替わります——2022年がその実例でした。

06 · WHAT IT MEANS FOR INVESTORS

では、優待や還元には意味がないのか

そうは言えません。本記事が否定したのは「資金が移動している」という説明であって、個人株主を増やす経営の是非ではありません。

むしろ、ベータが0.66という結果自体が、個人株主の性質を示しています。長期保有の個人が厚い株主構成では、指数の売買や短期の資金フローに引きずられる度合いが小さくなります。値動きが穏やかになるという意味では、株主構成の設計は実際に効いていることになります。

注意すべきは、それを相場観として使えるかです。「AI相場が一巡したから個人株へ」という判断は、実質的には「これから相場が下がる」という予想と同じことを言っています。ベータの低い資産を選ぶ行為は、市場の方向に賭ける行為と分離できません。下げを当てられるなら有効ですが、それは別の難しさです。

株主構成そのものは、有価証券報告書を開けば誰でも確認できます。銘柄を選ぶ材料としてではなく、その銘柄がどれくらい市場に揺すられやすいかを推し量る手がかりとして見るほうが、実測の結果には忠実です。

ベータの低い資産を選ぶ行為は、市場の方向に賭ける行為と分離できない。

本記事の結論

留意点

SOURCES

出典と一次資料

FAQ

Q. 個人株主比率の高い銘柄は下げ相場に強いのですか?
強いですが、それは銘柄の性質というよりベータの低さによるものです。当サイトが日経225採用銘柄を有価証券報告書の「所有者別状況」で二分して実測したところ、個人その他の比率が上位30社のベータは0.66、外国法人等の比率が上位30社は0.93でした(2021年1月5日〜2026年7月27日、1,358営業日、日経225連動ETF 1321を市場とする)。市場が2%を超えて下げた77日では個人上位が平均▲1.87%、外国人上位が▲2.67%で差は+0.80ポイント。逆に市場が2%を超えて上げた86日では+1.68%対+2.55%で▲0.87ポイントです。差の向きと大きさは市場の変動幅にほぼ比例しており、下げた日に強いことと上げた日に弱いことは同じ一つの性質の裏表です。

Q. 「優待株の逆襲」は起きているのですか?
2026年7月という1カ月を切り取ればそのとおりですが、同じ年で見ると劣後しています。当サイトの実測では2026年7月1日〜27日に個人比率上位30社が+5.5%、外国人比率上位30社が+1.0%、日経225連動ETFが▲7.4%でした。一方で2026年の年初来では個人上位+19.9%に対し外国人上位+29.4%、ETFが+30.1%で、7月の反発を含めてもなお9.6ポイント負けています。個人上位が明確に勝った年は2021年以降で2022年(+17.0ポイント)だけで、その2022年は集計期間で唯一ETFがマイナス(▲7.6%)だった年でした。下げ相場の年に勝つという同じパターンの繰り返しです。

Q. 個人株主比率はどこで調べられますか?
有価証券報告書の【株式等の状況】にある「所有者別状況」が一次資料です。金融庁のEDINETで誰でも閲覧でき、XBRLデータとしても配布されているため機械的に取得できます。当サイトはEDINETのAPI(v2)から日経225採用銘柄の最新有報を取得し、jpcrp_cor:PercentageOfShareholdingsIndividualsAndOthers(個人その他)と、外国法人等の個人以外・個人の2要素を使いました。225社のうち223社で取得でき、残る2社は新規上場で有報が未提出のものと、当該項目のタグが想定した文脈で入っていなかったものです。なお有報の基準日は各社の決算期末なので、報道等で使われる調査会社の数値とは時点と定義が異なり、値が一致しないことがあります。

Q. 長期ではどちらが有利だったのですか?
当サイトの集計期間では外国人比率の高いほうが上回りました。2021年1月5日から2026年7月27日までの等金額・配当再投資の累計は、個人比率上位30社が+172.3%(年率+20.4%)、外国人比率上位30社が+233.2%(年率+25.0%)、日経225連動ETFが+162.3%(年率+19.6%)です。年率ボラティリティは個人上位が18.0%、外国人上位が22.3%で、リスクが低いぶんリターンも低いという関係になっています。ただしこれは日経平均が5年半で1.6倍になった上昇局面での結果であり、下落局面が長く続く相場では逆になり得ます。本記事は過去の値動きの集計であり、特定の銘柄や投資手法を推奨するものではありません。

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本記事は金融庁EDINETの法定開示(有価証券報告書)、日本取引所グループおよび日本経済社の公表資料、市場データ(Yahoo Finance経由)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:金融庁 EDINET(有価証券報告書 所有者別状況・XBRL)、日経平均プロフィル(構成銘柄)、日本取引所グループ、日本経済新聞 2026年7月27日。市場データは2026年7月27日終値まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月28日時点・編集部構成)。