INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第27号

テレビで紹介された企業の株が上がるのは、放送の前だった。視聴者が最初に買える翌朝の寄り付きには何も残っておらず、そこから1カ月は市場に負ける

「経済番組で取り上げられた企業の株は上がる」——投資の入門書やマネー誌の定番として、いまも広く流通している経験則です。番組を録画してチェックし、放送直後の夜間取引で拾う、という手順まで含めて語られます。ところが同じ市場には「カンブリア天井」という正反対の俗語もあります。放送が株価の天井になり、そこから崩れるという意味です。

どちらが正しいのかを、テレビ東京「カンブリア宮殿」の全993回(2006年4月〜2026年7月)を公式バックナンバーから全数取得して測りました。事例を選ばず、アーカイブに載っている出演企業をすべて数えています。東証に上場していた出演は329回、うち当時の株価が取れた308回が実測の対象です(2026年8月1日時点・当サイト実測、編集部構成)。

判定
後の祭り

「紹介されると上がる」は本当。ただし上昇は放送より前に起きていて、視聴者が最初に売買できる翌朝には残っていない。放送直前5営業日の市場調整後リターンは中央値+0.85%(95%信頼区間 +0.35〜+1.33%)と有意にプラスである一方、翌朝の寄り付きギャップは中央値±0.00%。そこから20営業日は市場に▲1.14%負けます(勝率41.5%)。同じ銘柄の「放送していない日」869件を偽イベントにしたプラセボ検定では同じ窓が▲0.16%で、この負けは放送に固有でした。ただし1カ月で終わり——2カ月以降は信頼区間が0を跨ぎ、1年ではゼロです。「天井」の劇的な版は支持されません。そして効くのは小型株だけで、TOPIX Mid400以上では上昇も劣後も消えます。

母集団
993回 → 308件
全放送回から機械抽出、事例は選んでいない
放送前5営業日
+0.85%
β調整後・CI +0.35〜+1.33%・p=0.002
翌朝の寄り付きギャップ
±0.00%
中央値。+5%超は308回中7回(2.3%)
放送後20営業日
▲1.14%
β調整後・勝率41.5%・プラセボ比 p=0.046
01 · TWO NARRATIVES

正反対の2つの通説が、同じ番組について流通している

通説の1つ目は「テレビ効果」です。経済番組で紹介された企業は視聴者に知られ、買いが集まって株価が上がる——だから番組をチェックして先回りする、という形で語られます。実際に、番組サイトには次回の放送内容が事前に告知されますし、放送直後は市場が閉まっているのでPTS(私設取引システム)の夜間取引で買う、という具体的な手順まで含めて紹介されることがあります。

2つ目はその逆で、投資家の間で使われる「カンブリア天井」という言い回しです。番組に出るのは業績が良く注目されている時期なので、放送がちょうど株価のピークになり、そこから下がるという意味で使われます。個人投資家のブログや検証記事では「ガイアの夜明け天井」と並べて語られることもあります。マネー系メディアでは放送後5日で約11%上がったが90日後にはほぼ放送前の水準に戻ったという個別事例の検証も出ています。

「上がる」と「天井」は同じ現象の別の側面かもしれませんし、単にどちらかが間違っているのかもしれません。区別するには時間軸を分けて測る必要があります。この記事では次の4つの区間に分けました。

なお本記事は過去データの集計であり、特定の番組・銘柄・時期の売買を推奨するものではありません。

02 · THE POPULATION

母集団の作り方——993回を全部数える

この種の検証で結論を決めるのは計算式ではなく「どの回を数えたか」です。記憶に残っている事例を並べると、それは「大きく動いたから記憶に残っている」標本になり、効果が過大に出ます。当サイトは以前、サイバー攻撃を公表した企業の株価を調べた際に、有名事案を手で選んだ場合と制度から全数取得した場合で結論が2つ消えるのを実測しています。

そこで今回は、テレビ東京の公式バックナンバー(2006年〜2026年の年別一覧)に載っている全放送回の「出演者」欄を機械的に読み取りました。この欄には「石川樹脂工業 専務」のように社名と役職が構造化されて記載されているため、編集部が企業を選ぶ余地がありません。取得できたのは993回・延べ1,059の出演者欄です。

段階件数内容
公式アーカイブの全放送回993回2006年4月17日〜2026年7月30日
出演者欄(延べ)1,059件1回に複数社が出る回を含む
東証上場企業に照合329件260社。残り651社は非上場(地方の中小企業・老舗・医療法人・自治体など)
株価が取得できた308件244社。当時まだ上場前だった回(コメダ・バルミューダ等)は自動的に外れる
+ 別枠で除外40件出演時は上場していたが現在は系列が消滅26件/出演時点で非上場9件/同名の別会社5件

※照合はJPX「東証上場銘柄一覧」(2026年6月30日基準)に対する正規化一致と、社名変更・持株会社化の対応表による。対応表は全件を理由付きで記録している。

この番組の出演企業のうち6割強は非上場だという点自体が、まず記事の前提になります。カンブリア宮殿は上場企業の紹介番組ではなく、地方の中小企業・老舗・農業法人・病院なども取り上げる経営者番組です。「テレビで見た会社を買う」という発想は、そもそも3社に1社にしか適用できません。

照合では機械的なルールが誤作動する箇所も見つかりました。たとえば2014年10月2日に出演した「ヤマトグループ」は、宅配便のヤマトホールディングスでも同名の上場企業(建設設備のヤマト)でもなく、千葉県鴨川市の非上場の水産会社でした。2023年1月19日の「東邦」もウタマロ石けんを作る大阪の非上場企業で、医薬品卸の東邦ホールディングスとは別法人です。社名の一致だけで機械的に紐づけると、この2件は上場企業のイベントとして混入します。放送内容を確認して除外しました。

03 · BEFORE THE BROADCAST

上がるのは放送の前——直前5営業日に集中している

実測の中心になる指標を先に説明します。単純に「TOPIXよりどれだけ上がったか」を見ると、対象銘柄のβ(市場感応度)の影響が混じります。今回の出演企業はβの中央値が0.691——市場より値動きの小さい企業が多く、上げ相場ではその分だけ指数に負けて見えます。そこで市場モデル(放送の250営業日前から30営業日前までの期間でα・βを推定し、AR=実際のリターン−(α+β×市場リターン)を累積する方法)で調整した異常収益を主指標にしました。

区間異常収益(中央値)95%信頼区間プラス比率判定
放送前5営業日+0.85%+0.35 〜 +1.33%59.6%有意にプラス(p=0.002)
翌朝の寄り付きギャップ±0.00%48.7%差なし(p=0.69)
放送当日(寄り→引け)▲0.20%40.3%下がりやすいが対市場では有意でない
放送後20営業日▲1.14%▲2.06 〜 ▲0.24%41.5%有意にマイナス(p=0.008)
放送後60営業日▲1.33%▲3.51 〜 +0.15%43.9%区間が0を含む
放送後120営業日▲2.19%▲5.56 〜 +0.59%46.0%区間が0を含む
放送後240営業日(約1年)▲0.74%▲6.48 〜 +5.18%49.4%実質ゼロ

※当サイト実測。市場モデルはベンチマークに1305(iFreeETF TOPIX)を使用。推定窓は放送250営業日前〜30営業日前(放送前の値動きが推定に混ざらないよう手前で切っている)。信頼区間は中央値のブートストラップ(5,000反復・乱数種固定)、p値は両側符号検定。市場モデルを通せる期間があるのは260件。翌朝ギャップと当日日中は単純リターンの中央値。

放送前5営業日の+0.85%は、この記事で最も頑健な数字です。信頼区間が0を跨がず、符号検定でもp=0.002。放送を見る前に、株価はすでに動いています。

放送前5営業日の+0.85%は、この記事で最も頑健な数字です。放送を見る前に、株価はすでに動いています。

「業績が良い企業が選ばれるだけ」ではないのか

当然の反論として、「番組は好調な企業を取り上げるのだから、放送前に上がっているのは当たり前だ」というものがあります。これを切り分けるために、直前5営業日のさらに手前(放送25営業日前〜6営業日前の20営業日)を対照区間として同じように測りました。もし「好調な企業が選ばれるだけ」なら、上昇は放送の直前だけでなく、その前の期間にも同じペースで存在するはずです。

区間対TOPIX超過(中央値)1営業日あたりプラス比率
放送25営業日前 〜 6営業日前(対照・20日間)+1.31%+0.066%55.3%
放送5営業日前 〜 前日(5日間)+0.84%+0.167%59.9%

※当サイト実測。対1305の単純超過(買い持ち・配当再投資込み)。1営業日あたりは中央値を日数で割った参考値。

対照区間にも上昇はあります(+1.31%/20日)。番組が好調な企業を選んでいるのは事実でしょう。ただし1営業日あたりで見ると、直前5日は対照区間の約2.5倍のペースで上がっています。選ばれる企業がもともと強いことだけでは、直前の加速は説明できません。放送予定は番組サイトの次回予告として約1週間前に公表され、取材はその数週間前から行われています。上昇の加速がこの告知タイミングと重なるのは、少なくとも整合的です。

04 · THE MORNING AFTER

翌朝は跳ねない——米国のクレイマー番組との決定的な違い

ここが実測でいちばん意外だった部分です。放送翌朝の寄り付きギャップは、中央値が±0.00%、平均でも+0.04%。308回のうち上昇が48.7%、下落が過半で、統計的にはまったくの五分です。

翌朝のギャップ件数全体に占める割合
+5%を超えた7件2.3%
+3%を超えた13件4.2%
+2%を超えた16件5.2%
▲2%を下回った25件8.1%

※当サイト実測。放送前最終取引日の終値から翌営業日始値までの変化率。n=308。

つまり「翌朝に跳ねる」回は20回に1回あるかどうかで、しかも下に跳ねる回のほうが多いのです。放送を見て翌朝に買う、あるいは放送直後の夜間取引で仕込む、という手順は、跳ねることを前提にしていますが、その前提が9割以上の回で成立していません。

この結果は、米国の代表的な先行研究とはっきり食い違います。Engelberg・Sasseville・Williamsの"Market Madness? The Case of Mad Money"(Management Science 58巻2号 351–364頁、2012年)は、CNBCの投資番組Mad Money(司会:ジム・クレイマー)の買い推奨826件(2005年7月〜2009年2月)を調べ、放送翌朝の異常リターンが平均+2.4%(時価総額にして平均7,710万ドル)に達したと報告しています。同番組も米東部時間の午後6時放送で市場が閉まった後という点は同じです。そして重要なのは、この上昇がその後数カ月かけて反転し、50日・150日・250日で保有しても統計的に検出できる超過リターンは残らなかったという点です。

+2.4%と±0.00%。同じ「テレビの注目」でもこれだけ違う理由として最も素直なのは、番組の性格です。Mad Moneyは司会者が個別銘柄を名指しで「買え」と推奨する投資番組で、視聴者にとっては売買指示に近い情報です。カンブリア宮殿は経営者を招いて事業を紹介する企業ドキュメンタリーで、株価にも投資にも言及しません。注目は集まるが、買い注文に変換する指示がない——注目そのものではなく推奨の有無が翌朝の需要圧力を作っている、と読めます。

+2.4%と±0.00%。同じ「テレビの注目」でもこれだけ違う理由として最も素直なのは、番組の性格です。

跳ねた数少ない例を見ると、その後の展開も示唆的です。

放送日企業翌朝ギャップその日の日中20営業日後(対TOPIX)1年後(対TOPIX)
2013-08-22森下仁丹+16.8%±0.0%▲6.3%▲37.0%
2024-05-16ココナラ+9.0%▲11.2%▲9.8%▲9.1%
2009-01-26王将フードサービス+7.7%▲9.6%+1.4%+43.1%
2010-09-20ハンズマン+7.4%▲3.7%▲0.8%+16.3%
2020-03-19学研ホールディングス+5.9%▲1.4%▲3.5%▲68.4%

※当サイト実測。翌朝ギャップ上位5件。「その日の日中」は翌営業日の始値→終値。20営業日後・1年後は放送前終値を起点とした1305(TOPIX ETF)に対する超過リターン。2020年3月はコロナ暴落の直後で、以後1年の対TOPIX比較は反発局面との相対である点に注意。

5件中4件で、跳ねた寄り付きから当日のうちに下げています(ココナラは▲11.2%、王将は▲9.6%)。ギャップで最も跳ねた森下仁丹の+16.8%は、1年後には市場に37%負けていました。米国の研究が見つけた「急騰と反転」の形は、日本では回数こそ少ないものの、跳ねた回に限れば同じように現れています。

05 · AFTER THE BROADCAST

放送の後——1カ月は負ける。ただしそこまで

放送後の劣後は、20営業日(約1カ月)で異常収益の中央値▲1.14%、プラスだった回は41.5%です。信頼区間は▲2.06〜▲0.24%で0を跨ぎません。寄り付きで買った場合の対TOPIX超過で見ても20営業日で中央値▲2.04%(勝率39.7%)と、同じ方向です。

一方で、期間を延ばすと効果は薄れます。60営業日▲1.33%・120営業日▲2.19%はいずれも信頼区間が0を含み、240営業日(約1年)では▲0.74%とほぼゼロ。「カンブリア天井」を「放送が天井で以後ずっと崩れる」という意味に取るなら、993回の全数実測はそれを支持しません。負けるのはおおむね最初の1カ月で、そこから先は市場並みに戻ります。

「カンブリア天井」を「放送が天井で以後ずっと崩れる」という意味に取るなら、993回の全数実測はそれを支持しません。

ただし平均が戻ることと、個別が安全であることは別です。1年後に市場から最も大きく劣後した回を並べると、規模が桁違いなのが分かります。

放送日企業翌朝ギャップ20営業日後1年後(対TOPIX)
2020-09-03コパ・コーポレーション▲5.1%▲24.3%▲98.0%
2020-03-12ペッパーフードサービス▲8.5%▲29.8%▲95.7%
2025-07-10ベガコーポレーション▲0.6%+2.8%▲81.1%
2021-01-28マクアケ+4.6%▲15.2%▲67.9%
2023-06-15LIFULL+1.8%+15.5%▲62.1%

※当サイト実測。1年後の対1305超過リターンが小さい順に5件。20営業日後・1年後はいずれも放送前終値を起点とした超過リターン。

反対側も同じ規模で存在します。メルカリ(2020年1月16日出演)は1年後に市場を153.3%上回り、オイシックス・ラ・大地(2019年8月29日)は+138.6%、日産自動車(2009年1月5日)は+136.9%でした。分布は極めて広く、中央値がほぼゼロというのは「どちらにも大きく動きうる」という意味です——「テレビに出た」という情報から1年後の方向を読むことはできません。

06 · THE PLACEBO TEST

本当に放送のせいか——「放送していない日」を869件測る

放送後1カ月の劣後には、まだ別の説明が残ります。この母集団は中小型の内需企業に偏っているので、単にそういう銘柄群がこの20年間で1カ月単位で負けやすかっただけかもしれません。それを切り分けるのがプラセボ検定です。

やり方は単純で、同じ銘柄について、放送日を252営業日(約1年)・504営業日(約2年)ずらした「偽の放送日」を作り、まったく同じ計算をかけます。実際の放送の前後60営業日にかかるものは除きました。こうして作った偽イベントは869件。もし劣後が銘柄群の性質なら、偽イベントでも同じように負けるはずです。

区間実測(放送あり・260件)プラセボ(放送なし・869件)並べ替え検定 p
20営業日▲1.14%▲0.16%▲0.98pt0.046
60営業日▲1.33%+0.33%▲1.65pt0.095
120営業日▲2.19%+0.32%▲2.50pt0.096
240営業日▲0.74%▲0.14%▲0.60pt0.892

※当サイト実測。いずれも市場モデルによるβ調整後の累積異常収益の中央値。並べ替え検定は実測群とプラセボ群のラベルを20,000回入れ替えて中央値差の帰無分布を作った両側p値(乱数種固定)。

プラセボはすべての区間でほぼゼロ(符号検定のp値は0.45〜1.00)でした。同じ銘柄・同じ計算方法で、放送していない日を起点にすると劣後は現れません。20営業日の差▲0.98ポイントは並べ替え検定でもp=0.046と、偶然としては説明しにくい水準です。放送後1カ月の劣後は、銘柄群の性質ではなく放送に固有の現象と言えます。60日・120日はp=0.10前後で、「傾向はあるが断定はできない」という位置づけです。

07 · SMALL CAPS ONLY

効くのは小型株だけ——注目と裁定の限界

最後に、どの銘柄で起きているのかを分けました。現在のTOPIX規模区分で、Core30・Large70・Mid400に入る大型・中型と、Small区分および区分外の小型に分けて同じ計算をかけています。

件数放送前5営業日放送後20営業日読み方
TOPIX Mid400以上(大型・中型)136件+0.43%▲0.71%どちらも有意でない(p=0.55/0.20)。色を付けていないのは有意でないため
TOPIX Small・区分外(小型)124件+1.43%▲2.06%どちらも有意(p=0.0002/0.015)

※当サイト実測。β調整後の累積異常収益の中央値。規模区分はJPX「東証上場銘柄一覧」(2026年6月30日基準)の現在の区分であり、放送当時の規模ではありません(下の留意点参照)。

大型株では何も起きていません。トヨタ自動車も伊藤忠商事もソフトバンクグループもこの番組に出ていますが、放送前の上昇も放送後の劣後も検出できません。効果はすべて小型株側にあります。

トヨタ自動車も伊藤忠商事もソフトバンクグループもこの番組に出ていますが、放送前の上昇も放送後の劣後も検出できません。

これは先ほどのMad Money研究とも一致します。同研究は「急騰と反転のパターンは、小型・低流動性で裁定が効きにくい銘柄ほど強い」と報告しており、理論的背景としてBarber・Odeanの"All That Glitters"(Review of Financial Studies 21巻2号 785–818頁、2008年)の注目仮説を挙げています。個人投資家は数千の銘柄から選ぶ探索コストが高いため、ニュースに出た・出来高が急増した・値動きが極端だった銘柄を買う側に偏る(すでに持っていない銘柄は売れないので、注目は買い需要としてしか現れない)という考え方です。

この枠組みで日本の結果を読むと、筋が通ります。トヨタの時価総額に対して番組がもたらす個人の買いは無視できる規模ですが、時価総額数十億〜数百億円の小型株では価格を動かせます。そして一時的な需要で動いた価格は、需要が引いた後に戻る——それが翌月の▲2.06%です。「テレビで紹介された銘柄」という切り口で意味があるのは、価格が動かせるほど小さい会社に限られるということになります。

08 · WHAT'S MISSING

測れなかったもの——生存者バイアスの実数と、他の3番組

この実測は現在の株価データが取れる企業しか含みません。上場廃止・経営破綻・非公開化で系列が消えた企業は自動的に落ちます。どれくらい落ちたのかを数えると、出演時には上場していたが現在は系列を取得できないケースが26件ありました。

重要なのはこの欠落がどちら向きに効くかです。破綻・退場した企業が消えるということは、実測値は本当の成績より良い方向に歪んでいます。したがって「放送後1カ月は負ける」という結論は、欠落を埋めればより強くなる方向であって、弱くなる方向ではありません。

WBS・モーサテ・ガイアの夜明けを測らなかった理由

「番組をチェックする」という定石は通常、複数の番組をまとめて挙げます。今回カンブリア宮殿だけを測ったのは、母集団を機械的に確定できるのがこの番組だけだからです。ワールドビジネスサテライトやモーニングサテライトは日々多数の企業を扱い、公式アーカイブに「この回で紹介した企業」の構造化された一覧がありません。どの企業を数えるかが編集部の裁量になった瞬間、冒頭で述べた「記憶に残る事例を選ぶ」問題が戻ってきます。ガイアの夜明けは全放送回のタイトルが公開されていますが、出演企業欄がないため同じ制約があります。

そのWBSに関しては、しばしば引き合いに出される事例があります。2021年6月に上場した電解銅箔メーカーの日本電解は、上場前日に同番組で紹介され、上場初日にストップ高まで買われました。その3年半後の2024年11月27日、同社は民事再生手続開始を申し立て、負債総額約147億6,100万円で同年12月28日付の上場廃止が決まっています。テレビでの注目度と事業の耐久性は別物だ、という一例です(1社の事例であり、番組全体の傾向を示すものではありません)。

留意点

出典と一次資料

FAQ

Q. テレビ番組で紹介された企業の株は上がりますか?
上がりますが、上がるのは放送より前です。当サイトがカンブリア宮殿の全993回(2006年4月〜2026年7月)を公式アーカイブから全数取得し、東証上場の出演企業308回ぶんを実測したところ、放送直前5営業日の市場調整後リターンは中央値+0.85%(95%信頼区間+0.35〜+1.33%、符号検定p=0.002)と有意にプラスでした。一方、視聴者が最初に売買できる翌朝の寄り付きギャップは中央値±0.00%で、上昇はすでに終わっています。放送日の前にすでに値上がりが起きている理由としては、取材が数週間前から入っていること、次回予告が約1週間前に流れることが考えられます。

Q. 放送の翌朝に買うのは有効ですか?
当サイトの実測では、翌朝の寄り付きで買うと20営業日(約1カ月)で市場に負けました。市場モデルでβを調整した異常収益は中央値▲1.14%(95%信頼区間▲2.06〜▲0.24%、勝率41.5%)で、寄り付きから買った場合の対TOPIX超過も20営業日で中央値▲2.04%です。翌朝のギャップが+5%を超えた回は308回中7回(2.3%)しかなく、「翌朝に跳ねるところを取る」という前提自体がほとんどの回で成立していません。なお本記事は過去データの検証であり、特定の売買を推奨するものではありません。

Q. 「カンブリア天井」は本当ですか?
「放送直後の1カ月は市場に負ける」という限りでは本当ですが、「放送が天井で以後は崩れる」という劇的な版は、当サイトの実測では支持されませんでした。β調整後の異常収益は20営業日で▲1.14%(信頼区間が0を跨がない)ですが、60営業日▲1.33%・120営業日▲2.19%はいずれも信頼区間が0を含み、240営業日(約1年)では▲0.74%と実質ゼロになります。同じ銘柄で放送していない日を偽の放送日にしたプラセボ検定869件では20営業日▲0.16%だったため、1カ月の劣後は放送に固有の現象と言えますが、続くのは1カ月程度です。

Q. 米国のジム・クレイマー番組の研究とは結果が違うのですか?
翌朝の反応が決定的に違います。Engelberg・Sasseville・Williams(Management Science 2012)が米国CNBCのMad Moneyの買い推奨826件を調べた研究では、放送翌朝の異常リターンが平均+2.4%に達し、その後数カ月かけて反転しました。当サイトが実測したカンブリア宮殿では翌朝のギャップが中央値±0.00%です。違いの理由として考えられるのは番組の性格で、Mad Moneyは司会者が個別銘柄を名指しで推奨する投資番組であるのに対し、カンブリア宮殿は経営者を招く企業ドキュメンタリーで「買え」とは言いません。一方で「効果が小型株に集中し大型株では消える」という点は日米で共通しており、これは同研究が指摘する「小型・低流動性で裁定が効きにくい銘柄ほど値動きが大きい」という構図と一致します。

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本記事は公開情報(テレビ東京の番組公式アーカイブに掲載された放送日・出演企業名、JPXの上場銘柄一覧、Yahoo Financeの株価データ)および学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・検証した一般的な情報提供を目的としており、特定の番組・銘柄・商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績・パターンは将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:テレビ東京「カンブリア宮殿」バックナンバー、JPX「東証上場銘柄一覧」(2026年6月30日基準)、Yahoo Finance、Engelberg・Sasseville・Williams (2012) Management Science 58(2)、Barber・Odean (2008) Review of Financial Studies 21(2)、株探、帝国データバンク。株価データは2026年7月31日終値まで(実測・集計は当サイト算出、2026年8月1日時点・編集部構成)。