INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第31号
テレビの番宣で買っても、いまは間に合わない。2015年までは間に合っていた——残っていたのは、引け後に出る予告を引け値で買うという実行できない建て方だった
編集部・最終更新 2026年8月2日
テレビ番組に取り上げられる企業は、放送前から分かっています。次回予告が約1週間前に流れるからです。そして株価は放送日より前にすでに動いている——ここまでは当サイトが第27号で実測しました。
ならば「予告を見てから買えばよい」ことになります。この記事はその一点だけを検証します。使ったのは第27号と同じカンブリア宮殿の全993回・実測258件で、違うのは値段の取り方だけです(2026年8月2日時点・編集部構成)。
2015年までは本当に取れた。いまは取るものが無い。実際に建てられる寄り値から測ると、上昇は全期間で中央値+0.59%(勝率58.1%、p=0.011)。ただし2006〜2015年の小型株が+2.55%・勝率84.4%と突出する一方、2016年以降は勝率50.0%・p=1.00。切る年を11通り動かしても、2014年以降で区切った後半はすべてゼロ近傍でした。しかもこれは売買コストを引く前です。
従来の測り方(終値起点)
+0.96%
勝率60.5%・p=0.0009。ただし建てられない
予告への一晩(取れない)
+0.19%
勝率61.6%・p=0.0002。引け後に出る
実行可能(寄り値起点)
+0.59%
勝率58.1%・p=0.011・CI[+0.14,+1.10]
2016年以降の実行可能
+0.04%
勝率50.0%・p=1.00。週次限定なら▲0.03%
02 · THE FLAWED BASELINE
従来の測り方は、買えない値段を起点にしていた
第27号が測った「放送前5営業日」は、B−5の終値から放送日の終値までです。上の時間割と重ねると、この起点は予告が流れる前の値段にあたります。予告を見てからでは、その値段では買えません。
イベントスタディの数字としては正しい測り方です。「放送日の前にどれだけ動いたか」を知りたいなら、これでよい。ただし「予告を見て買えたか」という問いに答える数字ではありません。同じ落とし穴は当サイトの第19号でも踏んでいます——前日の引け値で建てるバックテストは実行不能なのに、年率175.9%というもっともらしい成績を出しました。
そこで窓を4つに分けて測り直しました。調整方法・母集団・ベンチマークは第27号と同じで、変えたのは値段の取り方だけです。
| 窓 | いつからいつまで | 建てられるか |
| 従来(pre5) | B−5の終値 → 放送日の終値 | 建てられない |
| 予告への一晩 | B−5の終値 → B−4の寄り値 | 取れない部分 |
| 実行可能 | B−4の寄り値 → 放送日の終値 | 建てられる |
| 実行可能+翌寄り | B−4の寄り値 → 放送翌営業日の寄り値 | 建てられる |
B=放送日(番組は23時台なので、放送前に付く最後の値段は放送日の終値)。異常収益=実現リターン −β×ベンチマークの同一区間リターン。ベンチマークはTOPIX ETF 1305、βは放送前250〜30営業日で推定(放送前の値動きを推定に混ぜないため手前で切る)。βの中央値は0.691。
03 · THE RECALCULATION
寄り値に直しても、全体では残る
258件(価格が取れない2件を除外)の実測結果です。
| 窓 | 件数 | 中央値 | 平均 | 勝率 | 符号検定 p | 中央値の95%信頼区間 |
| 従来(pre5) | 258 | +0.96% | +1.73% | 60.5% | 0.0009 | +0.36 〜 +1.62% |
| 予告への一晩 | 258 | +0.19% | +0.27% | 61.6% | 0.0002 | +0.12 〜 +0.29% |
| 実行可能 | 258 | +0.59% | +1.46% | 58.1% | 0.0106 | +0.14 〜 +1.10% |
| 実行可能+翌寄り | 258 | +0.64% | +1.66% | 60.5% | 0.0009 | +0.37 〜 +1.12% |
当サイト実測。市場モデルの異常収益。信頼区間は中央値のブートストラップ(5,000回)。
予告への一晩の反応は+0.19%と小さく、しかし勝率61.6%・p=0.0002で確実に存在します。予告は確かに読まれている。そして取れない部分がこれだけしかないため、実行可能な窓にも+0.59%が残ります。「一晩で全部行ってしまうから手が出せない」という話ではありません。
「一晩で全部行ってしまうから手が出せない」という話ではありません。
本記事の実測より
ここで止めれば「予告を見て翌朝買えばよい」という結論になります。ただし、この+0.59%がいつ・どんな銘柄で稼がれたのかを分けると、話が変わります。
04 · WHO WAS EARNING IT
稼いでいたのは、2015年までの小型株だけだった
実行可能な窓を、時代と規模で4つに割りました。
| 小型(TOPIX Small・圏外) | 中大型(TOPIX Mid以上) |
| 2006〜2015年 | n=32 +2.55% 勝率84.4% p<0.001 | n=76 +0.60% 勝率63.2% p=0.029 |
| 2016〜2026年 | n=56 +0.67% 勝率57.1% p=0.350 | n=94 ▲0.26% 勝率45.7% p=0.470 |
実行可能(B−4寄り値 → 放送日終値)の異常収益・中央値。規模区分は現在のTOPIX分類。
効いているのは左上の1マスだけです。2006〜2015年の小型株は+2.55%・勝率84.4%——32件中27件が上がっている計算で、これは相当に強い。同じ期間の中大型も+0.60%(p=0.029)とわずかに残ります。
2006〜2015年の小型株は+2.55%・勝率84.4%——32件中27件が上がっている計算で、これは相当に強い。
本記事の実測より
ところが2016年以降は、小型でも中大型でも有意になりません。小型はp=0.350、中大型にいたっては中央値がマイナスで勝率45.7%です。
「一番おいしいはずのセル」=直近の小型株だけを取り出しても同じでした。2016年以降がp=0.350、2018年以降がp=0.480、2020年以降がp=0.291。どこで区切っても有意になりません。
05 · MOVING THE SPLIT YEAR
「2016年に何かが起きた」わけではない——切る年を11通り動かす
ここは慎重に扱う必要があります。時代を2つに割る分析は、区切る年を都合よく選べば何でも言えるからです。第27号が時代別の分割を本文の結論に使わなかったのも同じ理由でした。
そこで区切る年を2012年から2022年まで動かし、後半がどう動くかを並べました。
| 区切り | 前半(実行可能) | 後半・従来の終値起点 | 後半・実行可能 |
| 中央値 | 勝率 | 中央値 | 勝率 | p | 中央値 | 勝率 | p |
| 2012年 | +1.37% | 66.7% | +0.68% | 59.2% | 0.009 | +0.36% | 56.3% | 0.075 |
| 2014年 | +1.23% | 70.7% | +0.50% | 55.7% | 0.152 | +0.13% | 52.3% | 0.598 |
| 2016年 | +1.19% | 69.4% | +0.29% | 52.7% | 0.568 | +0.04% | 50.0% | 1.000 |
| 2018年 | +1.03% | 66.9% | +0.31% | 53.3% | 0.494 | +0.09% | 50.4% | 1.000 |
| 2020年 | +0.68% | 61.3% | +0.74% | 56.9% | 0.163 | +0.22% | 54.3% | 0.403 |
| 2022年 | +0.68% | 59.1% | +0.60% | 58.3% | 0.195 | +0.22% | 55.6% | 0.410 |
11通りすべてを計算し、代表6つを掲載。両方の起点を同じ手順で計算しているので、差はそのまま値段の取り方の差。
結果はどこで切っても同じ向きでした。2014年以降で区切ったとき、実行可能な窓の後半は中央値▲0.02〜+0.22%・勝率49.7〜55.6%・p=0.35〜1.00と、ゼロ近傍から動きません。特定の年に断層があるのではなく、「後半にはもう無い」という形が区切り方に依存しないということです。
従来の測り方では、この形が見えなかった
そしてここが、値段の取り方を直した本当の効き目です。表の中央のブロックを見てください。従来の終値起点だと、後半にも中央値+0.28〜+0.74%・勝率52.4〜58.3%という残り火が見えます。2012年や2013年で区切れば、後半だけでも符号検定はp=0.009/0.033と有意になってしまう。
寄り値起点に直すと、その残り火が消えて勝率がほぼ五分に落ちます。つまり後半の残り火は、予告が流れる前の終値で買えるという実行不能な仮定が作っていたものでした。
後半の残り火は、予告が流れる前の終値で買えるという実行不能な仮定が作っていたものでした。
本記事の結論
06 · EXCLUDING THE OUTLIERS
前提が崩れる回を外しても同じ
ここまでの計算は「予告は前回放送の夜に流れる」を前提にしています。特番などで2週あいた回では、予告はもっと前に出ているはずで、前提が崩れます。
そこで前回放送からちょうど7日の回だけ(258件中239件)に絞って測り直しました。
| 窓 / 区分 | 件数 | 中央値 | 勝率 | 符号検定 p |
| 従来(pre5) | 239 | +0.95% | 60.3% | 0.0018 |
| 予告への一晩 | 239 | +0.20% | 62.8% | 0.0001 |
| 実行可能(全期間) | 239 | +0.45% | 57.3% | 0.0276 |
| うち2006〜2015年 | 99 | +1.03% | 68.7% | 0.0003 |
| うち2016〜2026年 | 140 | ▲0.03% | 49.3% | 0.9327 |
前回放送からの間隔が7日ちょうどの回のみ。外れた19件(14日が14件、21日が3件ほか)の実行可能な窓は中央値+1.20%・勝率66.7%・p=0.238で、全体の結論を動かしていません。
直近10年は中央値▲0.03%・勝率49.3%・p=0.93。コインを投げているのと区別がつきません。
直近10年は中央値▲0.03%・勝率49.3%・p=0.93。コインを投げているのと区別がつきません。
本記事の実測より
07 · THE COST QUESTION
売買コストは、この結論の決め手ではない
ここまでの数字はすべて手数料もスプレッドも引いていません。ただし、この記事の結論をコストで支えるつもりはありません。コストを詰めても詰めなくても、直近10年はその手前で有意にならないからです。順番に見ておきます。
手数料はゼロにできます。現在は主要ネット証券の多くが信用取引の売買手数料を無料にしています。その代わり買方金利がかかりますが、制度信用で年2.5〜3%程度、この戦略の保有期間(4営業日・暦日で6日前後)なら0.05%前後にしかなりません。短期であるぶん、金利は問題になりません。
一方、スプレッドは信用取引でも消えません。信用で無料になるのは証券会社に払う手数料であって、買い気配と売り気配の差は同じ板の中の話だからです。ではその幅はどれくらいか。当サイトの母集団の株価は中央値1,312円(小型株では1,352円)で、東証の呼値の刻みは3,000円以下なら1円ですから、刻み1つは株価の0.09〜0.10%にあたります。往復でスプレッドを1回踏むとして、これは決して大きな数字ではありません。
実際の気配の幅は刻み1つより広いことが多く、板の薄い小型株ではとくにそうです。ただしその実測は本記事のデータ(始値と終値)からはできません。板情報が要ります。したがって「コストで消える」とは書きません。直近10年が取れないと言える根拠は、コストを引く前の段階ですでに勝率が49.7〜55.6%・p=0.35〜1.00だという点にあります。
逆方向の注意もあります。効果が出ていた2006〜2015年は、いまと違って信用取引の手数料が有料だった時代です。その条件下でも小型株の+2.55%は十分に上回る大きさでした。コスト環境は当時のほうが不利で、それでも取れていた——という順序になります。
もう一つ、コストとは別の制約があります。この戦略は週に1銘柄しか建てられません。カンブリア宮殿は週次で、そのうち東証の上場企業が登場するのは全993回中329回、株価を測れたのは308件です。年に15件前後しか機会がなく、1件あたりの期待値がゼロ近傍であれば、積み上がるものはありません。
留意点
- 予告の公開日は「前回放送日」で代用しています。番組サイトの実際の掲載日を全993回について特定することはできませんでした——インターネットアーカイブの番組トップページのスナップショットは20年間で896件しかなく、しかもサイトが複数回リニューアルされているため、当サイトが40件を無作為抽出して試したところ次回予告を機械的に抽出できたのは4件だけでした。前提の妥当性は週次であること(992間隔中931が7日)と、2014年2月15日のスナップショットによる実例で担保しています。
- 予告より前に情報が出ている可能性は排除できません。取材は放送の数週間前から入りますし、企業側が自社サイトやSNSで出演を告知する例もあります。その場合、実際に建てられる時点はさらに早まります。本記事が測ったのは「番組公式の予告を起点にしたら」という1つの想定です。
- βの推定に伴う誤差があります。放送前250〜30営業日で推定しており、βの中央値は0.691。低βの標本なので、上げ相場では単純な対ベンチマーク超過より控えめに出ます。
- 第27号の数値と厳密には一致しません。第27号は日次の異常収益を足し上げ、本記事は保有期間リターンから市場モデル分を引いています。同じ窓(従来のpre5)で中央値の差は0.15ポイント、1件あたりの平均絶対差は0.52ポイントでした。本記事の比較はすべて同一手順どうしなので、この方法差は結論に影響しません。
- 寄り値で必ず約定できるとは限りません。小型株では寄り付きに厚みがなく、成行が滑ることがあります。実際の成績はここで示した数字より悪くなる方向に働きます。
- 本記事は特定の銘柄や売買手法を推奨するものではありません。公開情報を明示した条件で集計・整理した情報提供です。
FAQ
Q. カンブリア宮殿のゲスト企業はいつ公表されますか?
番組公式サイトの次回予告として、放送の約1週間前に公表されます。番組は週次で、当サイトが全993回の放送日を調べたところ992個の放送間隔のうち931が7日ちょうどでした。予告は前回放送の回内で流れるため、公開されるのは前回放送日の夜、つまり株式市場の引け後です。実際にインターネットアーカイブに残る2014年2月15日時点の番組トップページには、2014年2月20日放送分のゲストとして「オオアサ電子 社長」が既に掲載されていました。
Q. 放送前に株価が上がるなら、予告を見てから買えば儲かりますか?
2015年までは実際に取れましたが、直近10年では取れません。当サイトが258件を市場モデルでβ調整して実測すると、実際に建てられる寄り値からの上昇は全期間で中央値+0.59%(勝率58.1%、p=0.011)でした。ただし内訳は2006〜2015年が+1.19%・勝率69.4%(p=0.0001)である一方、2016年以降は+0.04%・勝率50.0%(p=1.00)です。切る年を2012年から2022年まで11通り動かしても、2014年以降で切ったときの後半はすべて中央値▲0.02〜+0.22%・勝率49.7〜55.6%とゼロ近傍でした。しかもこれは売買コストを引く前の数字です。
Q. 終値で測るのと寄り値で測るのは何が違うのですか?
予告は前回放送の夜、株式市場が引けた後に流れます。したがって予告を見てから最初に売買できる価格は翌営業日の寄り値であり、予告が流れた日の終値では買えません。従来の測り方はこの終値を起点にしていたため、予告への一晩の反応を含んでいました。当サイトの実測では、この一晩の反応は中央値+0.19%(勝率61.6%、p=0.0002)と小さいものの確実に存在します。より重要なのは、終値起点だと直近10年でも勝率53.8〜56.3%とわずかな残り火が見えるのに対し、寄り値起点に直すと勝率が49.7〜55.6%とほぼ五分に落ちることです。
Q. 効果があるのはどんな銘柄ですか?
小型株、かつ2015年までに限られます。実際に建てられる寄り値からの上昇を時代と規模で4分割すると、2006〜2015年のTOPIX Small・圏外が+2.55%・勝率84.4%(p<0.001)と突出する一方、同じ期間の中大型は+0.60%・勝率63.2%(p=0.029)、2016年以降は小型が+0.67%・勝率57.1%(p=0.350)、中大型が▲0.26%・勝率45.7%(p=0.470)でいずれも有意ではありません。直近の小型だけを取り出しても、2016年以降p=0.350、2018年以降p=0.480、2020年以降p=0.291と、どこで区切っても有意になりませんでした。
本記事は公開情報(テレビ東京の番組バックナンバー、Internet Archive、JPXの上場会社一覧、Yahoo Financeの株価)および学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品の売買や特定の売買手法を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績・パターンは将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:テレビ東京「カンブリア宮殿」バックナンバー、Internet Archive、日本取引所グループ、Yahoo Finance、Engelberg et al. (2012) Management Science 58(2)。株価は2026年8月1日時点(実測・集計は当サイト算出、2026年8月2日時点・編集部構成)。