IVYXON投資の考え方 > 設備投資の発表と株価
INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第32号

設備投資の発表で、株価はその日動かなかった。負けるのは1年後で、いちばん深いのは増産を約束した会社だった

新工場の建設、生産能力の増強、大型設備の取得——こうした開示は「成長投資」の証拠として受け取られ、買い材料として扱われます。この受け取り方が正しいかどうかを、東証の適時開示(TDnet)を2010年1月から2026年7月まで全走査して測りました。

設備投資に関わる語を含む開示は3,666件ありました。ここから縮小・撤収の開示、事故と復旧、既に決めた投資の進捗報告などを語で落とし、動作で機械分類して2,140件のイベントを作っています。市場モデルでβを調整できたのは1,490件で、比較対象として同じ銘柄の「設備投資の開示が無い日」を偽イベントにしたプラセボ3,511件も同じ手続きで測りました。

事例は一件も手で選んでいません(2026年8月2日時点・当サイト実測、編集部構成)。

判定
遅効性

発表そのものは買い材料になっていない。効いてくるのは1年後で、方向は下だった。公表翌営業日の異常収益は中央値+0.07%、95%信頼区間が▲0.02〜+0.21%と0を跨ぎます。20営業日まで同じで、短期では何も起きていません。一方250営業日後は▲5.44%(同▲8.26〜▲2.29%)で、平常日のプラセボ(+1.45%)との差は▲6.88ポイント、60日・120日・250日と窓を伸ばすほど深くなります。最も極端なのは増産・能力増強で、翌営業日は+0.41%と4分類で唯一はっきりプラスなのに、1年後は▲13.53%と最も深く沈みました。ただし時代で一貫していません——4期に分けると信頼区間が0を含まないのは2018〜2021年だけです。

母集団
3,666 → 1,490件
TDnet全走査+プラセボ3,511件
発表翌営業日
+0.07%
CI ▲0.02〜+0.21%=区間が0を含む
250営業日(約1年)
▲5.44%
β調整後・CI ▲8.26〜▲2.29%・n=1,357
増産・能力増強の1年後
▲13.53%
翌営業日は+0.41%。n=136
01 · THE PREMISE

「設備投資は成長の証拠」という前提と、研究が食い違っている場所

設備投資の発表を買い材料と見る読み方には、根拠があります。米国の古典的な研究は、658社の設備投資計画の公表日を event-time で調べ、産業企業では増額の発表に有意なプラスの超過収益、減額の発表に有意なマイナスが伴う一方、公益企業ではどちらも有意でないと報告しました(McConnell and Muscarella 1985)。投資を増やすと言えば買われる、という像はここから来ています。

ところが同じ文献の系譜には、正反対の結果もあります。設備投資を大きく増やした企業は、その後リスク調整後リターンがマイナスになるという報告で、しかも手元資金が厚く負債が少ない企業ほど強く出ます(Titman, Wei and Xie 2004)。総資産の伸びで測っても同じ方向が出ます(Cooper, Gulen and Schill 2008)。

この2つは矛盾していません。発表の瞬間と、その後1年は別の話だからです。前者は数日の窓、後者は年単位の窓を測っています。ただしどちらも米国の研究で、しかも後者は決算データから作った投資の増加率を使っており、投資家が実際に目にする「開示」を起点にしていません。日本の適時開示を起点に、同じ2つを1つの母集団で測ったものは見当たりませんでした。

そこで、東証の適時開示から「これから投資すると決めた」と告げる開示だけを機械的に取り出し、発表の翌営業日から1年後まで同じイベントで追いました。

02 · BUILDING THE SAMPLE

母集団の作り方——16年半の適時開示から、決定を告げる開示だけを取る

母集団は筆者が事例を選ばずに決めます。ただし株主優待のように1語で決まる題材とは違い、設備投資の開示タイトルは定型化していません。「設備投資に関するお知らせ」も「新工場建設について」も「生産拠点設立のお知らせ」も同じことを言うため、1語では母集団になりません。そこで2層に分けています。

第1層(広く取る)——タイトルに次のいずれかを含む開示をすべて保存しました。走査前に確定した語で、後から足していません。

設備投資/固定資産の取得/新工場/工場/増産/生産能力/生産設備/生産体制/生産拠点/製造拠点/新棟/新拠点/新センター

16年半で3,666件が該当しました。ここに「データセンター」を入れていないのは、建てる側と売る側の両方の開示に現れる多義語だからです。実際に抜き取りで「データセンター向け蓄電システムの発表」という製品告知を拾いました。建てる側の開示は「設備投資」「固定資産の取得」「新拠点」で拾えます。

何を落としたか——除外は4分類・1,335件

母集団の定義は一文で言えます。「これから投資すると決めた」と告げる開示です。ここから外れるものを、企業を見ずに語で落としました。

分類件数
①再送・定期開示訂正/お詫び/一部修正/決算短信/有価証券報告書/四半期報告書/半期報告書/決算説明/決算補足/月次63
②縮小・撤収・組織再編譲渡/売却/減損/除却/閉鎖/廃止/停止/休止/縮小/撤退/移管/移設/移転/生産終了/集約/再編/再構築/統合/最適化/改革/構造対策/構造改善/凍結/延期/中止/中断/早期退職/希望退職/特別損失/損失計上/特別利益/分社化/会社分割/賃貸借598
③事故・災害と復旧火災/事故/被害/地震/台風/停電/不具合/回収/流出/水害/復旧/復興271
④決定でないもの稼働/稼動/操業/竣工/完成/落成/開所/完了/経過開示/開示事項の経過/検討/再開/生産開始/合理化/生産調整/外部委託/解散/一部報道403

②は設備投資の逆向きの開示です。新設と閉鎖の両方を含む開示は正味の向きが定まらないため、まとめて落としています。④は「既に決めた投資が完成した」「検討を始めた」という、決定そのものではない開示です。

加えて投資法人(J-REIT・インフラファンド)4件を外しました。固定資産の取得が本業なので、設備投資の意思決定とは別物です。TDnetの社名は略称で「投資法人」の語を含まないことがあるため、市場区分のプレフィックス(R-)でも落としています。分類語に当たらなかった156件(環境問題への対応、生産の終了、子会社の増減資など)と、同一銘柄・同一日の重複31件も除いた結果、イベントは2,140件になりました。

動作で4つに分ける

分類タイトルに含まれる語件数
新設新工場/新棟/新拠点/新センター/新設/設立/建設/着工/新築/建替727
増強増産/増強/増設/増築/拡充/拡大/拡張/能力増/体制整備/強化/設置/導入/改修/改装222
取得固定資産の取得/物件取得/用地取得/土地の取得/建物の取得/資産の取得932
投資設備投資/投資計画/投資方針/戦略投資156
変更(測らない)変更/見直し/修正103

「設備投資計画の変更」は増額か減額かタイトルから決まらないため、母集団には数えても測っていません。複数の語が同居する場合は 変更>新設>増強>取得>投資 の順で決めます。

同時に何を発表したかを、必ず一緒に取る

設備投資の発表には固有の交絡があります。増資と同時に出ることがある——このとき株価が下がっても、それは希薄化であって投資のせいではありません。同時公表は別文書で出るためタイトルからは分かりません。そこで走査の時点で「設備投資の開示と同日・同一銘柄の他の開示」を全部(2,393件)保存し、それと突き合わせて副分類を付けています。結果は単独1,634件/決算・業績修正同時430件/増資同時51件/買収等25件でした。

03 · THE METHOD

測り方——設備投資を出す会社は、放っておくと指数より少し勝つ

ベンチマークはTOPIX配当込み(1305)ですが、yfinanceの素の系列は日次のイベントスタディに使えません。前号で見つけた3つの欠陥——分配金が権利落ち日ではなく決算日で記録される、単日の誤プリントがある、1306の受益権分割が反映されない——を潰した補正版を使っています。本稿は2010年のイベントも測るため、市場モデルの推定窓(250営業日)を確保できるよう起点を2008年6月まで延ばして組み直しました。重複区間4,094日で前号の系列と日次リターンが1bp以上ずれた日はゼロです。

そのうえで、各イベントについて発表前250営業日から30営業日までの窓でα・βを推定し、異常収益(実際のリターン − 市場モデルの予測)を窓内で累積しました。当標本のβ中央値は0.842です。設備投資を発表する会社は指数よりやや値動きが小さく、上げ相場では放っておいても指数に負けます。単純な対指数の超過だけで測ると、この分を発表のせいだと誤読します。

さらに、同じ銘柄で発表日を±504営業日・±756営業日ずらした偽イベント3,511件を同じ手続きで測りました。ずらし幅を前号(±252/±504)より大きく取っているのは、本稿が250営業日の窓を測るためです。±252だと偽イベントの推定窓が本物のイベントの事後窓と重なって汚染されます。

結果として、プラセボの250営業日の異常収益は+1.45%でした。つまりこの銘柄群は、設備投資を発表していない平常時には市場モデルの予測を1.5%ほど上回って推移しています。以降の数字は、すべてこの平常値との差で読んでください。

04 · THE ANNOUNCEMENT DAY

発表の日、株価は動かなかった

まず短期です。開示の84%は大引け後に出るため、反応が出るのは翌営業日です(寄り前14件・場中329件は個別に扱っています)。

異常収益(中央値)95%信頼区間プラセボ判定
翌営業日+0.07%▲0.02〜+0.21%▲0.07%+0.14pt区間が0を含む
5営業日▲0.15%▲0.33〜+0.03%▲0.14%▲0.01pt区間が0を含む
20営業日▲0.39%▲0.88〜+0.14%▲0.38%▲0.01pt区間が0を含む

exitを除く1,471件。プラセボは同じ銘柄群の偽イベント。

翌営業日の中央値は+0.07%で、信頼区間が0を跨ぎます。上昇した銘柄の割合は52%で、コイン投げとほとんど変わりません。設備投資の発表そのものは、平均すると買い材料になっていません。

設備投資の発表そのものは、平均すると買い材料になっていない。

発表翌営業日の実測より

ただし2つだけ、小さいながら0を跨がずに残るものがあります。

件数翌営業日95%信頼区間p値
製造業687+0.22%+0.05〜+0.42%0.00005
非製造業411▲0.03%▲0.17〜+0.10%0.44
増産・能力増強136+0.41%+0.15〜+0.82%0.0033
新工場・新拠点436+0.07%▲0.09〜+0.34%0.097
固定資産の取得473▲0.02%▲0.16〜+0.14%0.32

単独発表のみ。p値はプラセボとの中央値の差に対する並べ替え検定。

製造業だけがプラスで残り、非製造業はゼロ——これはMcConnell and Muscarella (1985) が「産業企業ではプラス、公益企業ではゼロ」と報告した構図と同じ形です。40年前の米国と2010年代の日本で、業種による非対称が同じ向きに出ています。ただし大きさは桁が違います。+0.22%は、呼値の刻みや売買コストを考えれば取りに行ける水準ではありません。

05 · ONE YEAR LATER

動くのは1年後で、方向は下だった

窓を伸ばすと絵が変わります。

異常収益(中央値)95%信頼区間プラセボp値判定
20営業日▲0.39%▲0.88〜+0.14%▲0.38%▲0.01pt0.99区間が0を含む
60営業日▲1.59%▲2.73〜▲0.87%▲0.49%▲1.11pt0.015生存
120営業日▲3.76%▲5.29〜▲2.07%+0.21%▲3.97pt<0.0001生存
250営業日(約1年)▲5.44%▲8.26〜▲2.29%+1.45%▲6.88pt<0.0001生存

exitを除く1,471件(250営業日はn=1,357)。

60日・120日・250日と、窓を伸ばすほど深くなります。信頼区間は3つとも0を含まず、プラセボとの差の並べ替え検定も通ります。設備投資を発表した会社の株は、その後1年で平常時の推移から6.9ポイント下に外れています。

設備投資を発表した会社の株は、その後1年で平常時の推移から6.9ポイント下に外れている。

250営業日後の実測より

これは Titman, Wei and Xie (2004) が米国の決算データで見つけたものと同じ方向です。彼らはこれを「投資家が拡大投資に伴うエージェンシーコストを過小評価している」と読みました。当サイトはこの解釈を検証していません。測ったのは、日本の適時開示を起点にしても同じ形が出る、というところまでです。

単独で発表した会社に絞っても同じ

決算や増資と同時に出た開示を除き、設備投資だけを発表した1,109件に絞ると、250営業日は▲5.52%(信頼区間▲9.00〜▲2.28%、プラセボとの差▲6.93pt)でむしろわずかに深くなります。同時に出た悪材料が下げを作っているのではありません。

逆に、決算・業績修正を同時に出した325件は全窓で信頼区間が0を跨ぎます。増資と同時の37件は120営業日で▲14.29%と大きく沈みますが、250営業日は▲20.05%でもp値が0.11となり、37件では確定できません。

06 · THE DEEPEST FALL

いちばん深いのは「増産」を約束した会社だった

動作で4つに分けると、短期と長期の対比が最も鮮明なのは増産・能力増強です。

分類件数翌営業日60営業日250営業日250日の信頼区間判定
増産・能力増強136+0.41%+0.98%▲13.53%▲19.26〜▲5.63%生存
新工場・新拠点437+0.07%▲2.38%▲4.87%▲10.81〜▲0.67%生存
設備投資(金額開示型)63+0.41%▲2.33%▲8.14%▲19.59〜+7.34%区間が0を含む
固定資産の取得473▲0.02%▲1.78%▲2.55%▲7.99〜+2.06%区間が0を含む

すべて単独発表のみ・β調整後の中央値。

増産の発表は、4分類で唯一はっきり買われ(翌営業日+0.41%・信頼区間+0.15〜+0.82%)、唯一はっきり大きく沈みます(250営業日▲13.53%・プラセボとの差▲15.48pt・p=0.0004)。60営業日までは+0.98%とプラス圏に留まり、そこから急に落ちる形です。

増産の発表は、4分類で唯一はっきり買われ、唯一はっきり大きく沈んだ。

動作分類別の実測より

固定資産の取得は逆に、短期も長期も確定しません。120営業日だけ▲4.61%で生存しますが、250営業日は信頼区間が0を跨ぎます。この分類は工場・倉庫・土地・本社ビルが混在しており、中身が最も不均質です。件数では最大(932件)ですが、当サイトはこの群について1年後の結論を持っていません。

07 · BY COMPANY SIZE

規模で割ると、確定できるのは小型株だけだった

規模区分件数翌営業日250営業日250日の信頼区間判定
大型(Core30/Large70)31▲0.10%+2.18%▲23.74〜+18.38%区間が0を含む
中型(Mid400)128▲0.02%▲7.22%▲13.52〜+4.09%区間が0を含む
小型(TOPIX Small)340+0.13%▲5.84%▲10.69〜▲2.19%生存
TOPIX圏外(Standard/Growth)600+0.13%▲4.95%▲10.04〜+0.29%区間が0を含む

単独発表・現存銘柄のみ(上場廃止銘柄はJPXの一覧に無いため規模区分が付かない)。

1年後の劣後が信頼区間ごと0を離れるのは小型株だけです。大型株31件は+2.18%で、区間の幅が42ポイントもあります。大型株について当サイトは何も確定していません——設備投資を単独で開示する大型株がそもそも少ないためで、「大型株では起きない」という主張ではありません。

業種で割ると、製造業は250営業日▲6.19%(信頼区間▲10.60〜▲2.46%)で生存、非製造業は▲3.12%で区間が0を跨ぎます。短期でプラスが残ったのも製造業でした。製造業では、発表の日に少し買われ、1年かけてそれ以上に失うという形になっています。

08 · STRESS-TESTING THE RESULT

結果を疑う

1. 同じ会社が何度も発表することが、数字を作っていないか

設備投資は繰り返し発表されます。738銘柄のうち309銘柄が2回以上、最多は住友金属鉱山の41件でした。250営業日の窓は互いに重なるため、信頼区間も並べ替え検定も前提する観測の独立性が崩れます。間引いて確かめました。

絞り方件数250営業日95%信頼区間
単独発表・全件1,021▲5.52%▲9.00〜▲2.28%
銘柄ごと年1件まで891▲5.76%▲9.40〜▲2.50%
銘柄ごと1件のみ573▲3.79%▲9.40〜▲0.70%
発表4件以下の銘柄のみ773▲6.19%▲9.99〜▲2.29%
発表5件以上の銘柄のみ248▲3.42%▲11.97〜+6.65%

どの絞り方でも符号は変わらず、銘柄ごと1件だけにしても信頼区間は0を含みません。むしろ連続発表が少ない銘柄のほうが深い(▲6.19%)ので、常連が結果を作っているわけではありません。

2. プラセボが特定の相場付きに寄っていないか

偽イベントは発表日をずらして作るため、標本の両端が薄く中央が厚くなります(2026年のプラセボは1年後の株価が無いので作れません)。実イベントとプラセボの中央年はどちらも2018年で一致しましたが、構成比の差が最大なのは2020年でプラセボが+4.1ポイント厚い——コロナ後の回復局面を含む窓が多めに入っています。この分だけプラセボの+1.45%は上振れしている可能性があります。

ただし結論はプラセボとの差だけに依存していません。実イベントの250営業日の信頼区間(▲8.26〜▲2.29%)自体が0を含んでおらず、市場モデルの予測に対して直接マイナスです。

3. 測れなかったものが結果を偏らせていないか

2,037件のうち404件(20%)が測れていません。ほぼ全部が上場廃止で、yfinanceに株価系列が残っていないものです。年別・分類別に見ると2010〜2017年の「固定資産の取得」に集中しています(2013年30件、2014年29件、2010年27件など)。これは生存者バイアスで、消えた会社は平均的に成績が悪いはずですから、本稿の▲5.44%はむしろ控えめな値と読むのが自然です。なお欠測がコード変換の誤りでないことは確認済みで、系列が取れなかった192銘柄はすべて最後の発表が2021年より前でした。

4. 時代で一貫しているか——ここは一貫していない

期間件数翌営業日250営業日250日の信頼区間判定
2010-2013236▲0.07%▲7.33%▲13.6〜+0.4%区間が0を含む
2014-2017279+0.07%▲5.59%▲13.8〜+1.8%区間が0を含む
2018-2021255+0.15%▲10.05%▲15.3〜▲3.7%0を含まない
2022-2026338+0.20%▲0.81%▲6.2〜+4.0%区間が0を含む

単独発表のみ。4期に分けた多重比較なので個別のp値は載せていません。

4期のうち信頼区間が0を離れるのは2018〜2021年だけです。符号はすべてマイナスで揃っていますが、期間を切ると1つを除いて確定できません。とくに直近の2022年以降は▲0.81%とほぼゼロです。この期間は250営業日の窓が埋まったイベントが338件中254件しかない(2025年後半以降の発表はまだ1年経っていない)という制約もありますが、区間の幅は2018-2021年と同程度で、単に件数不足とは言えません。

全期間をまとめた▲5.44%は本物ですが、「いま設備投資を発表した会社は1年後に5%負ける」と読むのは行き過ぎです。直近4年半に限れば、当サイトの実測は何も言っていません。

全期間をまとめた▲5.44%は本物だが、「いま設備投資を発表した会社は1年後に5%負ける」と読むのは行き過ぎだ。

時代別の頑健性チェックより
09 · THE 2026 HEADLINE

「過去最高の設備投資」でも、開示の件数は増えていない

2026年度の設備投資計画が全産業で過去最高を更新した、という報道があります(日本経済新聞・2026年8月2日、同社の調査による)。その集計値は同社独自の調査なので当サイトでは検証していません。ただし、設備投資を決めたと発表する会社の数なら数えられます。

件数件数件数
201012820161362022162
201113120171482023100
201211520181392024143
20131302019972025132
20141312020942026(7月まで)86
20151282021140

16年半で年94件から162件の範囲に収まっており、傾向的な増加はありません。最多は2022年の162件、最少はコロナ下の2020年で94件です。2026年は7月末までで86件ですから、年率に直すと2025年をやや上回る程度になります。

投資額が過去最高を更新することと、投資を決めたと発表する会社が増えることは別の現象です。前者が起きて後者が起きていないなら、金額が一部の会社に集中していることになります。ただし当サイトが数えたのは開示の件数だけで、1件あたりの金額は測っていません(適時開示のPDFは約1か月で消えるため、過去分から金額を取り出すことができません)。そこまでは確定できません。

留意点

SOURCES

出典と一次資料

計測コードと中間データは当サイトが保持しています。走査・分類・計測・頑健性チェックの各段階は独立に再実行でき、分類規則を変えても走査をやり直す必要のない構成にしてあります。

FAQ

新工場の建設や増産の発表は、株価にプラスですか?

発表そのものは、平均するとほとんど効いていません。当サイトが東証の適時開示を2010年1月から2026年7月まで全走査し、設備投資の決定を告げる開示から機械的に作った2,140件のイベントのうち、市場モデルでβを調整できた1,490件を測ったところ、公表翌営業日の異常収益は中央値+0.07%で、95%信頼区間が▲0.02〜+0.21%と0を跨ぎました。上昇した銘柄の割合も52%で、コイン投げとほぼ同じです。例外は2つあり、製造業だけに絞ると+0.22%(信頼区間+0.05〜+0.42%)、増産・能力増強の発表に絞ると+0.41%(同+0.15〜+0.82%)と、いずれも小さいながら0を跨がずに残りました。米国の古典的な研究(McConnell and Muscarella 1985)が「産業企業では有意にプラス、公益企業ではゼロ」と報告した構図と同じ形ですが、大きさは桁が違います。

設備投資を発表した会社の株は、その後どうなりますか?

1年後には指数並みの動きから下に外れています。当サイトの実測では、市場モデルでβを調整した異常収益の中央値が60営業日で▲1.59%、120営業日で▲3.76%、250営業日(約1年)で▲5.44%(95%信頼区間▲8.26〜▲2.29%)でした。同じ銘柄で発表日をずらした偽イベント3,511件では250営業日が+1.45%だったため、差は▲6.88ポイントで、並べ替え検定のp値は0.0001未満です。60日・120日・250日と窓を伸ばすほど深くなる形も一貫しています。これは設備投資を大きく増やした企業がその後アンダーパフォームするという海外の研究(Titman, Wei and Xie 2004)と同じ方向です。ただし発表から20営業日までは信頼区間が0を跨いでおり、短期では何も起きていません。

どの種類の設備投資がいちばん株価に響きますか?

増産・能力増強です。当サイトが開示タイトルで4つに機械分類したうち、増産・能力増強を単独で発表した136件は、公表翌営業日が+0.41%(信頼区間+0.15〜+0.82%)と4分類で最も高い一方、250営業日後は▲13.53%(同▲19.26〜▲5.63%)と最も深く沈みました。偽イベントとの差は▲15.48ポイント、p値は0.0004です。新工場・新拠点の建設437件は翌営業日+0.07%(区間が0を跨ぐ)から250営業日▲4.87%、固定資産の取得473件は250営業日▲2.55%で信頼区間が0を跨ぎ確定できません。つまり「増産します」という約束がいちばん強く買われ、いちばん強く裏切られています。

この1年後の下げは、単に小型株が指数に負けているだけではありませんか?

その可能性を潰すために3つの手続きを通しています。第一に市場モデルでβを調整しており(当標本のβ中央値は0.842)、指数との連動分は取り除いてあります。第二に同じ銘柄の設備投資を発表していない日3,511件を偽イベントとして同じ手続きで測っており、そちらは250営業日で+1.45%とプラスでした。つまり同じ銘柄でも平常時は指数並みかそれ以上に動いており、下げは発表のあった窓に固有です。第三に1銘柄が何度も発表することで観測が重なる問題に対し、銘柄ごとに1件だけ残した573件でも▲3.79%(信頼区間▲9.4〜▲0.7%)と符号も有意性も変わりませんでした。ただし規模別に見ると信頼区間が0を跨がないのは小型株(▲5.84%)だけで、大型株31件は+2.18%と区間が0を含みます。大型株について当サイトは何も確定できていません。

2026年度の設備投資は過去最高と報じられていますが、開示の件数も増えているのですか?

増えていません。当サイトが数えた設備投資関連の適時開示は、年あたり94件から162件の範囲で16年半ほぼ横ばいです。最も多かったのは2022年の162件、最も少なかったのは2020年の94件で、直近は2024年143件、2025年132件、2026年は7月末までで86件でした。金額ベースの投資額が過去最高を更新することと、投資を決めたと発表する会社の数が増えることは別の現象で、後者は起きていません。金額の集中が進んでいる可能性を示しますが、当サイトは開示の件数だけを数えており、1件あたりの金額は測っていないため、そこまでは確定できません。

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本記事は公開情報(東京証券取引所の適時開示情報、日本取引所グループの上場銘柄一覧、Yahoo Financeの株価データ)および学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・検証した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績・パターンは将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:東京証券取引所 適時開示情報(TDnet)、日本取引所グループ「東証上場銘柄一覧」、Journal of Financial Economics 14(3)、Journal of Financial and Quantitative Analysis 39(4)、The Journal of Finance 63(4)、Yahoo Finance。株価データは2026年7月31日終値まで(実測・集計は当サイト算出、2026年8月2日時点・編集部構成)。