INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第12号
インドの雨は金の需要を動かす。ただし価格には届かない — 54年の実測
編集部・最終更新 2026年7月28日
金の相場解説には、季節になると必ず出てくる話があります。インドに雨が降る、作物が実る、農村の懐が潤う、そして収穫後の祝祭と婚礼のシーズンに金が買われる——だからモンスーンが順調な年は金が上がる、という筋書きです。CMEグループもインタラクティブ・ブローカーズも、日本の金取扱事業者のコラムも、ほぼ同じ順序でこれを書いています。
この筋書きは4段あります。雨→豊作→農村所得→金需要までは、World Gold Council(WGC)が計量モデルで数字を出しています。検証が要るのは最後の一段、需要→価格です。
インド気象局(IMD)の公式降雨データとLBMA金価格で、1972年から2025年までの54回のモンスーンを採点しました(2026年7月28日時点・編集部構成)。
需要は動く。価格は動かない。祝祭シーズンを含む5つの窓すべてで説明力はR²0.06以下、符号はむしろ通説と逆でした。しかもその逆符号も本物ではなく、少雨の年が1970年代の金急騰期に偏っていたことによる見せかけです。2000年以降ではきれいに消えます。理由は単純で、雨がもたらす需要の増減は年13.5トン、世界が1日に3,273トンを売買する市場では埋もれます。
検証したモンスーン
54回
1972〜2025年・IMD公式値
説明力(最も強い窓)
R² 0.06
5窓すべて0.06以下
多雨1σが増やす需要
13.5t
1日の売買量の0.41%
01 · SORTING FACT FROM FOLKLORE
通説のうち、どこまでが確かめられているか
まず公平に、通説の側から確認します。前半3段は事実です。インドの年間降雨のおよそ4分の3は6月から9月の南西モンスーンで降り、IMDの2025年の報告書は「インドの年間降雨の約75%がモンスーン期に集中する」と記しています。農村世帯の約70%は今も農業に生計を依存しています。そして金は農村部で、装身具であると同時に貯蓄手段です。
4段目の「金需要」にも数字があります。WGCは2021年10月19日公表の報告書「The drivers of Indian gold demand」で、1990年から2020年の年次データを用いてインドの金需要(うち75%超が宝飾)の決定要因を推計し、次の弾性値を示しました。
- 所得:1人当たり国民総所得が1%増えると金需要が0.9%増える(長期)
- 価格:ルピー建て金価格が1%上がると需要が0.4%減る(長期)
- インフレ:1%ポイント上がると需要が2.6%増える(短期)
- 降雨:長期平均(LPA)比で1%増えると需要が0.2%増える(短期)
降雨の係数は確かにプラスです。ただしこの報告書は、その一文の前にこう断っています——「モンスーンが需要に与える影響は以前より小さいが、それでも消費者行動には影響する」。0.2%は、所得の0.9%やインフレの2.6%と並べると最も小さい係数です。
そしてここまでのどれも、価格の話ではありません。CMEグループやインタラクティブ・ブローカーズの解説記事も、「インドの買いが年後半の国際価格に影響してきた」とは書きますが、その裏付けとなる数字は示していません。査読論文も探した範囲では見当たらず、金の需要弾性を扱った研究はあっても、降雨から金価格へのリンクを検定した研究は見つけられませんでした。だから測りました。
02 · THE TEST DESIGN
検証の設計
降雨はIMD気候監視グループの「All India (June–September) Rainfall」を使います。1901年からの全インド面積加重の実測値と、LPA比の乖離率(%departure)が公表されている公式系列です。2025年の値は936.8mm、乖離+7.8%で、IMDの『Monsoon 2025: A Report』が記す「936.8mm=LPA(1971〜2020年平均868.6mm)の108%」と一致することを確認しました。
金価格は世界銀行Pink SheetのLBMA午後値決め月中平均(1960年1月〜2025年12月)を使い、2026年分のみyfinanceのGC=F月中平均で継ぎ足しました。インドの買い手が実際に向き合うのはルピー建て価格なので、FRED(DEXINUS)の月中平均で換算したルピー建ても並行して測っています。
期間は1972年から2025年のモンスーン54回です。1971年8月のニクソン・ショックで金の固定価格が終わったため、価格が自由に動く期間だけを対象にしています。この54年の降雨は平均+0.2%、標準偏差9.5%pt、最少が1972年の−22.3%、最多が1988年の+21.2%。IMDが多雨・少雨と呼ぶ±10%を超えた年は、多雨8回・少雨9回でした。
窓は5本取りました。良い窓だけを後から拾うと必ず「有意」が出てしまうため、試した窓は全部載せます。最後に並べ替え検定で「5本試したとき偶然これくらいのt値が出る確率」も出しています。
03 · THE SCOREBOARD
採点 — 5つの窓すべてで、符号は通説と逆になった
| 窓 | 期間 | 傾き | t値 | r | R² | 窓の平均 |
| モンスーン期間中 | 6月→9月 | −0.185 | −1.34 | −0.182 | 0.033 | +2.6% |
| モンスーン明け | 9月→12月 | −0.225 | −1.80 | −0.243 | 0.059 | +1.8% |
| 祝祭シーズン | 10月→12月 | −0.149 | −1.51 | −0.205 | 0.042 | +0.8% |
| 収穫〜婚礼 | 10月→翌3月 | −0.215 | −0.99 | −0.136 | 0.018 | +5.2% |
| 翌暦年まるごと | 翌1月→翌12月 | −0.044 | −0.13 | −0.018 | 0.000 | +7.9% |
※当サイト実測。金価格はドル建て(LBMA午後値決めの月中平均)。傾きは「降雨がLPA比で1%pt増えたときの金リターンの変化(%pt)」。N=54(翌暦年のみ53)。窓の平均は各窓の単純平均リターンで、窓の長さが違うため相互比較はできません。
通説が正しければ傾きはプラスになるはずですが、5本すべてマイナスです。そして重要なのはマイナスであること以上に、大きさがないことです。最も強い「9月→12月」でもR²は0.059、つまり金価格の動きのうち降雨で説明できるのは6%足らず。94%は別の何かで動いています。
通説が正しければ傾きはプラスになるはずですが、5本すべてマイナスです。
— 5つの窓・ドル建て回帰(N=54)
ルピー建てでも結論は変わりません。「9月→12月」が傾き−0.194(t=−1.56)、「10月→12月」が−0.116(t=−1.18)で、長い窓(10月→翌3月、翌暦年)だけわずかにプラスに転じますが、いずれもt値は0.5以下でゼロと区別できません。
5本の窓を試したことを織り込んで、降雨の並びを2万回シャッフルした並べ替え検定にかけると、「5本のうち最大のt値がこの水準に達する確率」はドル建てでp=0.29、ルピー建てでp=0.42でした。偶然の範囲です。
多雨年と少雨年に分けても、通説の向きにならない
| 窓 | 多雨8年 平均 | 上昇 | 少雨9年 平均 | 上昇 | 差 |
| 6月→9月 | +2.75% | 5/8 | +7.66% | 5/9 | −4.91pt |
| 9月→12月 | −0.84% | 2/8 | +7.20% | 6/9 | −8.04pt |
| 10月→12月 | −0.16% | 2/8 | +4.99% | 6/9 | −5.15pt |
| 10月→翌3月 | +0.97% | 3/8 | +10.72% | 6/9 | −9.75pt |
| 翌暦年 | −0.87% | 4/8 | +2.34% | 4/9 | −3.21pt |
※多雨=降雨がLPA比+10%以上の8年(1975・1983・1988・1990・1994・2007・2019・2020)、少雨=−10%以下の9年(1972・1974・1979・1982・1987・2002・2009・2014・2015)。IMDの多雨・少雨の定義に合わせています。金価格はドル建て。
祝祭シーズンの10月→12月で、多雨の年に金が上がったのは8回中2回、少雨の年は9回中6回。通説をそのまま裏返した結果になっています。
04 · THE ROBUSTNESS CHECK
ただし、この逆符号も本物ではありません
ここで止めると「雨が降ると金は下がる」という新しい通説を作ってしまうので、続けます。少雨の9年を並べると、1972年・1974年・1979年が入っています。金が史上最大の上昇をした1970年代です。一方で多雨の8年は1983年・1988年・1990年・1994年と、金が長期低迷した1980〜90年代に偏っています。降雨とは無関係に、たまたまそういう並びになっていました。
期間を割ると、これがはっきり出ます。
| 窓 | 1972〜1989年 | 1990〜2025年 | 2000〜2025年 |
| 9月→12月 | −0.362(t=−1.58) | −0.085(t=−0.58) | −0.026(t=−0.15) |
| 10月→12月 | −0.244(t=−1.28) | −0.051(t=−0.46) | −0.031(t=−0.27) |
| 10月→翌3月 | −0.510(t=−1.09) | +0.091(t=+0.49) | +0.226(t=+1.17) |
※当サイト実測。ドル建て。括弧内はt値。1972〜1989年はN=18、1990〜2025年はN=36、2000〜2025年はN=26。
逆符号は1970〜80年代にしかなく、1990年以降はほぼゼロ、2000年以降ではt値が−0.15まで縮みます。念のため、窓の前後24カ月の平均月次リターンを差し引いて「その時期の金相場の地合い」を除いた季節超過リターンでも測り直しましたが、最大でもt=−1.50(9月→12月)、順位相関で−0.26と、やはり有意なものは残りませんでした。
結論として、降雨の多寡は金価格の方向についてプラスにもマイナスにも情報を持っていません。
降雨の多寡は金価格の方向についてプラスにもマイナスにも情報を持っていません。
— 本記事の結論
05 · YEAR BY YEAR
年ごとの答え合わせ
通説を語るとき、しばしば「2015年は雨が少なくインドの需要が減り、価格の下落につながった」という例が引かれます。実際の数字を並べます。
| モンスーン年 | 降雨(LPA比) | 10月→12月 | 10月→翌3月 | 通説どおりか |
| 2002年 | −20.9% | +4.9% | +7.6% | 逆 |
| 2009年 | −18.3% | +8.8% | +6.7% | 逆 |
| 2014年 | −10.1% | −1.8% | −3.6% | 一致 |
| 2015年 | −12.7% | −7.2% | +7.4% | 窓次第 |
| 2019年 | +11.8% | −1.0% | +6.5% | 窓次第 |
| 2020年 | +10.5% | −2.2% | −9.6% | 逆 |
| 2024年 | +7.8% | −1.6% | +10.9% | 窓次第 |
| 2025年 | +7.8% | +6.2% | +19.7% | 一致 |
※当サイト実測。金価格はドル建て(LBMA午後値決めの月中平均)。降雨はIMDの全インド6〜9月乖離率。
よく引かれる2015年は、10月→12月では確かに−7.2%ですが、婚礼シーズンまで含めた10月→翌3月では+7.4%です。どの窓を切るかで結論が反転する——通説の代表例がこれでは、根拠として弱いと言わざるを得ません。
そして2009年。降雨は−18.3%で、数十年ぶりと言われた干ばつの年です。通説どおりなら金は売られるはずでしたが、祝祭シーズンの金価格は+8.8%でした。ちょうど同じ窓のなかで、インド準備銀行がIMFから200トンの金を買っています(10月19〜30日に平均1,045ドル/オンスで取得、11月2〜3日に公表、総額67億ドル)。農村が買い控えたぶんなど問題にならない規模の取引が、同時に起きていたということです。
06 · THE SCALE PROBLEM
なぜ届かないのか — 13.5トンと3,273トン
需要の段には裏付けがあるのに価格に出ない理由は、規模を並べると一目でわかります。WGCの弾性値(降雨+1%で需要+0.2%)を、実測した降雨のばらつきとインドの需要規模に当てはめました。
| ケース | 降雨 | インド需要 | トン | 世界の年間需要比 | 1日の売買量比 |
| +1標準偏差の多雨 | +9.5pt | +1.90% | +13.5t | 0.27% | 0.41% |
| 観測史上最多(1988年) | +21.2pt | +4.24% | +30.1t | 0.60% | 0.92% |
| 観測史上最少(1972年) | −22.3pt | −4.46% | −31.7t | 0.63% | 0.97% |
| 最多年と最少年の差 | 43.5pt | 8.70% | 61.8t | 1.24% | 1.89% |
※WGCの弾性値0.2に、当サイト実測の降雨標準偏差9.5%ptとインドの2025年年間需要710.9トン(WGC)を当てはめた試算。世界の年間需要はOTCを含む5,000トン、1日の売買量は2025年の平均売買代金3,610億ドルを年平均価格3,431ドル/オンスで割った3,273トン。全セルをスクリプトで再計算して一致を確認しています。
1標準偏差の多雨がもたらす追加需要は年13.5トン。これに対し、世界の金市場は1日に3,273トンを売買しています(OTC 1,800億ドル+先物 1,740億ドル+ETF 70億ドル)。1年ぶんの雨の効果は、1日の売買量の0.41%です。
観測史上いちばん雨が多かった年といちばん少なかった年の差——実際には54年かけて一度しか起きていない振れ幅——ですら61.8トンで、世界が30分弱で売買する量にしかなりません。付け加えると、金の1日の売買量はインドの年間需要710.9トンのおよそ4.6倍あります。
金の1日の売買量は、インドの年間需要のおよそ4.6倍あります。
— World Gold Council統計に基づく試算
しかも、この効果が仮に価格に出るとしても、それは事前に読めます。IMDは季節予報を毎年4月中旬に出しており、2025年は4月15日の第1段階予報が「LPA比105%(誤差±5%)」、5月27日の更新が106%、実績が108%でした。祝祭シーズンの半年前に公表され、実績もその範囲に収まっています。もし本当に効くなら、4月の時点で織り込まれているはずのものです。
07 · WHO SETS THE PRICE
価格を作っているのは、宝飾ではなく投資
もう一段深い理由があります。インドの農村が買うのは主に宝飾ですが、宝飾需要は金価格を作る側ではなく、受ける側だからです。
宝飾需要は金価格を作る側ではなく、受ける側だからです。
— Erb & Harvey (2013)、価格弾性の実証
Erb & Harvey(2013)は2001年から2011年の世界の金需要を用途別に集計しました。金価格が1オンス279ドルから1,567ドルへ5.6倍になったこの10年間で、宝飾需要は3,009トンから1,963トンへ減り、投資需要は357トンから1,641トンへ増えています。推計された価格弾性は宝飾が−0.24、投資が+0.98。価格と同じ向きに動くのは投資需要のほうで、宝飾は価格が上がると引っ込みます。Batchelor & Gulley(1995)も米日独仏伊英の宝飾需要について−0.5〜−1(平均−0.64)と、同じくマイナスの弾性を報告しています。
WGC自身の直近の記述も、これを裏づけています。2025年のインド市場について、同社は「インドの消費者は宝飾への支出額をあらかじめ決めており、それが買える量の歯止めになる」と書きました。実際、2025年のインドの金需要は前年の802.8トンから710.9トン(−11%)へ、宝飾に限れば563.4トンから430.5トン(−24%)へ減っています。にもかかわらず金額では7,514.9億ルピー(+30%)と過去最高でした。予算が固定なら、価格が上がるほど数量は減る。これは価格の受け手の挙動そのものです。
つまり通説は、価格形成に対して最も影響力の弱いセクターの、そのまた一部の変動を見て、価格を語っていたことになります。
08 · THEN AND NOW
通説が生まれたころのインドと、いまのインド
この言い伝えが完全な作り話かというと、そうではないと思います。ただし前提が変わりました。WGCの報告書は、世界銀行のデータを引いてこう書いています——1960年代にインドのGDPの40%超を占めていた農業は、2019年には16%になった。都市人口比率も1960年の18%から2019年に34%へ上がっています。
金側の変化も同じ向きです。インドの2025年の需要710.9トンは、OTCを含む世界の年間需要5,000トン超に対して約14%。かつてインドが世界最大の消費国として振る舞っていたころとは、市場に対する比重が違います。
当サイトの期間別の実測(1972〜1989年にだけ弱い関係が出て、1990年以降に消える)は、この構造変化と整合します。もっとも、当時の関係も統計的に有意ではなかったので、「昔は効いていたが今は効かない」と言い切ることはできません。言えるのは、効いていたと仮定しても、その経路は3分の1以下に細っているということです。
なお、農村と金の結びつき自体が消えたわけではありません。農村世帯の約70%は今も農業に依存しており、雨が少ない年には手持ちの金を担保にした金ローンの需要が増えるという逆方向の経路も指摘されています。金は農村で今も金融インフラの一部です。それでも、その事実と「金価格が上がる」の間には、上に見たとおりの距離があります。
09 · HOW TO GET EXPOSURE
日本から金に触るなら
この通説を商品化したものは存在しません(モンスーン連動の金商品は当サイトが調べた範囲で見当たりませんでした)。金そのものへの投資手段としては、東証にいくつかのETFがあります。
- 1540 純金上場信託(金の果実)— 信託報酬0.44%(TER 0.46%)、純資産1兆9,256億円。NISA成長投資枠の対象
- 314A iシェアーズ ゴールド— 信託報酬0.22%、純資産738億円。NISA成長投資枠の対象
NISAの枠は2層で見る必要があります。①非課税保有限度額1,800万円は、売却した翌年以降にその簿価ぶんが復活し再利用できます。②年間投資枠(つみたて120万円/成長投資枠240万円)はその年の購入額で消費され、同じ年のうちには戻りません。季節性を狙った回転売買は、制度上は可能でも規模が年間枠に縛られ、残高を積み上げにくくなります。
そもそも本記事の実測は、その季節性が存在しないことを示しています。東証ETFの一覧と利回り・信託報酬・NISA対象の別は東証ETFデータ一覧にまとめています。
留意点
- 本記事は過去のデータの集計であり、特定の銘柄・商品・売買タイミングを推奨するものではありません。「モンスーンを見て金を売買する」という型を検証対象として引用したもので、当サイトがその実行を勧めるものではありません。
- 降雨は全インドの面積加重値です。地域差(2025年は北西インドが127%、東・北東インドが80%)や、モンスーン期内の降り方の偏りは捨象されています。金を買う農村の所在地に重みを付けた指標を作れば、結果が変わる可能性は残ります。
- 金価格は月中平均を用いています。日次終値で測れば数値は変わりますが、月中平均のほうがノイズが小さく、季節性の検出には有利な設計です。それでも有意にならなかった、という読み方をしてください。
- 需要側の弾性0.2はWGCの推計をそのまま用いたもので、当サイトが再推計したものではありません。この係数自体が過大であれば、規模の試算はさらに小さくなります。
- 世界の年間需要5,000トンは「OTCを含む総需要が初めて5,000トンを超えた」というWGCの記述に基づく下限値です。分母を大きく取ればインドのシェアと降雨の寄与はさらに小さくなります。
- 1972年から2025年という期間の取り方は、金価格が自由化された時点を起点にしたものです。起点を変えれば数値は動きますが、期間別の集計(1972〜1989/1990〜2025/2000〜2025)を併載しているのはそのためです。
- 他資料と数値が異なる場合、起点・終点・価格系列・算出方法の違いによります。当サイトの数値は本文に明記した条件下での算出です。
FAQ
Q. インドのモンスーンと金価格のアノマリーは実在しますか?
言い伝えとしては広く流通していますが、価格の段は当サイトの実測では確認できませんでした。CMEグループやインタラクティブ・ブローカーズの解説記事、日本の金取扱事業者のコラムまで、「モンスーンが順調だと農村の所得が増えて金需要が伸び、金価格に効く」という説明は繰り返し登場します。ただしこれらはいずれも需要の話までで、価格を検証した数字は示されていません。当サイトがインド気象局の公式降雨データとLBMA金価格で1972年から2025年までの54回のモンスーンを測ったところ、モンスーン期間中・9月から12月・10月から12月・10月から翌3月・翌暦年の5つの窓すべてで決定係数R²は0.06以下でした。5つの窓を試したことによる見かけの有意性を並べ替え検定で調整すると、最も強い窓でもp=0.29です。なお需要の段には裏付けがあり、World Gold Councilは降雨がLPA比で1%増えるとインドの金需要が0.2%増えると推計しています。
Q. モンスーンが良い年に金を買うのは有効ですか?
当サイトの実測では、その向きの関係が出ていません。降雨がLPA比プラス10%以上だった多雨の8年について、収穫後の10月から12月の金価格(ドル建て)は平均マイナス0.16%、上昇したのは8回中2回でした。逆に降雨がマイナス10%以下だった少雨の9年は平均プラス4.99%、上昇は9回中6回です。10月から翌3月の窓でも多雨年プラス0.97%に対し少雨年プラス10.72%と、通説とは逆向きの差が出ています。ただしこの逆向きの差自体も本物ではありません。少雨の年が1972年・1974年・1979年と金が急騰した1970年代に偏っているためで、期間を1990年以降に区切ると傾きはほぼゼロ(t値マイナス0.58)、2000年以降ではさらにゼロに近づきます(t値マイナス0.15)。本記事は過去の値動きの集計であり、特定の売買タイミングを推奨するものではありません。
Q. なぜインドの金需要は世界の金価格を動かさないのですか?
動く量が小さすぎるためです。World Gold Councilの推計値(降雨プラス1%で需要プラス0.2%)を、当サイトが実測した降雨のばらつき(標準偏差9.5%pt)とインドの2025年の年間需要710.9トンに当てはめると、1標準偏差の多雨がもたらす追加需要は13.5トンです。これは世界の年間需要5,000トン超の0.27%にあたります。一方で2025年の金の1日あたり平均売買代金は3,610億ドルで、年平均価格3,431ドル/オンスで割ると1日あたり約3,273トンが売買されている計算になります。13.5トンはその0.41%です。観測史上最も雨が多かった1988年と最も少なかった1972年の差(43.5%pt)ですら61.8トンで、世界が30分弱で売買する量にしかなりません。金の1日の売買量は、インドの年間需要のおよそ4.6倍あります。
Q. この通説が生まれた当時と今で、何が変わったのですか?
インド経済に占める農業の比重が大きく下がりました。World Gold Councilの報告書は、1960年代にインドのGDPの40%超を占めていた農業が2019年には16%まで低下したと記しています。都市人口比率も1960年の18%から2019年に34%へ上昇しました。同報告書は「モンスーンが需要に与える影響は以前より小さい」と明記した上で、それでも消費者行動には影響が残るとして0.2%という推計値を示しています。当サイトの期間別の実測もこれと整合的で、降雨と金価格の(弱く逆向きの)関係は1972年から1989年にのみ現れ、1990年以降と2000年以降では消えています。ただし農村世帯の約70%が今も農業に生計を依存しており、農村における金の重要性そのものが失われたわけではありません。
本記事はインド気象局(IMD)の公表データ、世界銀行およびFRBセントルイス連銀の公表統計、World Gold Councilの調査資料、学術文献ならびに市場データ(Yahoo Finance経由)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:India Meteorological Department(All India June–September Rainfall/Monsoon 2025: A Report)、World Bank Commodity Markets "Pink Sheet"、FRED DEXINUS、World Gold Council(The drivers of Indian gold demand 2021/Gold Demand Trends FY2025/Gold Trading Volumes)、Erb & Harvey (2013) NBER WP 18706、Batchelor & Gulley (1995) Resources Policy 21(1)。市場データは2026年7月まで(実測・集計は当サイト算出、2026年7月28日時点・編集部構成)。