ROBOTICS STOCKS COLUMN ・ 汎用ロボット市場と日本企業の現在地

ロボット密度「世界1位→5位」の中身 — 日本の主要6社決算に「ヒューマノイド」の文字はほとんどなかった

McKinsey&Companyが2026年8月4日に公開したレポートは、日本の製造業ロボット密度(従業員1万人あたりの稼働台数)が1994〜2009年の世界1位から、2024年には5位まで後退したと指摘した。「かつてロボット大国だった日本が凋落した」という物語は分かりやすい。

だが国際ロボット連盟(IFR)の一次資料で数字を分解すると、話はもう少し込み入っている。日本自身のロボット密度は、2019年以降も年5%前後で伸び続けていた。それでも順位が落ちたのは、韓国・シンガポールがもっと速く伸びたからだ。あわせて、日本の主要ロボット関連6社の最新決算を一次資料で確認すると、業績はおおむね堅調な一方で「ヒューマノイド」という言葉自体はほとんど出てこないという、もう一つの発見があった。

ロボット密度「世界1位→5位」の実態

IFR(国際ロボット連盟)の公式定義によると、ロボット密度とは「稼働中の産業用ロボットのストック台数(平均使用年数12年を仮定し、退役分を控除)を製造業従業員数で割った、従業員1万人あたりの台数」である。国ごとの導入規模を人口・産業規模の違いを均して比較するための指標だ。

この指標で見た日本の世界順位は、1994年から2009年まで一貫して世界1位。それが2014年に2位、2019年に3位、2024年には5位まで後退した。2024年時点の主要国の密度は以下の通りで、日本はこの5カ国中では最下位にあたる。

FIG. 01 — ロボット密度の国際比較(2024年、従業員1万人あたり) ロボット密度の国際比較(2024年) 0 250 500 750 1000 1250台 従業員1万人あたりの稼働ロボット台数 韓国 1,220 シンガポール 818 中国 567 ドイツ 449 日本 446
日本 他の上位国(参考)

出典:国際ロボット連盟(IFR)公式プレスリリース「Robot density surges in Europe, Asia and Americas」。参考値として米国は307台。

日本の446台は、ドイツの449台にわずかに及ばない5位。韓国の1,220台は日本の2.7倍にあたる。「世界1位だった国が、今は5カ国中で最も低い」という並びだけを見ると、日本のロボット導入そのものが停滞しているように見える。

順位が落ちた理由 — 日本の密度自体は伸びていた

ここが本記事の核心である。IFRの時系列データを見る限り、日本のロボット密度は2019年以降も年5%前後のペースで伸び続けている。密度の定義(稼働ロボット台数÷製造業従業員数)から考えると、分母にあたる日本の製造業従業員数は1994年以降ほぼ一貫して減少してきた(総務省統計局の労働力調査を引用する複数の資料によれば、ピークの1990年代前半から2024年までに3割強、人数にして概ね500万人規模の減少)。分母が縮めば密度はむしろ押し上げられる方向に働くはずで、これは順位低下の説明にはならない。

実際に順位を追い越したのは、日本より分子(ロボット導入台数)の伸びが急だった国だ。韓国は年7%前後、シンガポールは年13%前後のペースで密度を伸ばしており、日本の年5%を上回るスピードで差を詰めてきた。「日本のロボット導入が後退した」のではなく、「日本も伸びているが、他国がそれよりずっと速く伸びた」という相対的な順位低下——という説明の方が、一次資料が示す数字とは整合する。

もっとも、この説明は「だから問題ない」という話ではない。順位そのものは事実として5位まで下がっており、次のセクションで見るように、追い上げる側の国々が照準を合わせているのは従来型の産業用ロボットではなく、その先にある「汎用ロボット」という新しい市場だ。

汎用ロボットという新しい競争軸

McKinseyのレポートは、ロボット市場の主戦場が今後シフトすると指摘している。溶接や搬送など決められた単一作業をこなす従来型の産業用ロボット市場は、2040年まで年率約3%程度の成長にとどまり、規模は約800億ドル止まりと見積もられる。一方、AIを搭載し多様な環境で幅広い作業をこなす「汎用ロボット」市場は、2025年時点でまだ10億ドルに満たないが、2040年には年率約70%というペースで約3,700億ドルまで拡大すると試算されている。

この文脈でMcKinseyが指摘するのが、ヒューマノイド(人型ロボット)供給企業の上位10社に日本企業が入っていないという点だ。人型ロボット関連の特許出願件数も、日本が年間約1,100件であるのに対し、中国は約7,700件とされる。これらの数値はMcKinsey原文への直接アクセスができなかったため、同レポートを独立に報じる複数の媒体の内容が一致することによる間接確認(詳細は留意点を参照)だが、次のセクションで見る日本企業6社の決算資料の傾向とは、方向性として整合する。

日本の主要6社、決算は堅調でも「ヒューマノイド」は語られない

ロボット密度の順位低下と汎用ロボット市場の拡大を踏まえ、日本の主要ロボット関連6社の最新決算を一次資料(決算短信・決算説明資料)で直接確認した。まず、ロボットの完成機を手がける3社。

企業決算期売上高/収益利益ロボット関連
ファナック
6954
27/3期Q12,310億円
(+17.7%)
営業利益535億円
(+26.1%)
ロボット部門961億円
(+18.7%・構成比41.6%)
安川電機
6506
27/2期Q11,390億円
(+10.6%)
営業利益85億円
(△19.2%)
ロボットSeg利益9億円
(△82.3%)
川崎重工業
7012
27/3期Q15,435億円
(+11.3%)
事業利益357億円
(+74.1%)
精密機械・ロボットSeg利益53億円
(+124.4%)

各社決算短信・決算説明資料(2026年7〜8月開示)より。決算期・会計基準(日本基準/IFRS)は各社で異なる。

ファナック・川崎重工業は増収増益で、特に川崎重工業の精密機械・ロボットセグメントは利益が2倍超に伸びた(同社の決算説明資料の補足情報では、ロボット単体で半導体製造装置向けが前年同期比+38.9%と牽引役になっている一方、自動車向けの車体組立・塗装ロボットは▲12.1%と唯一の減少分野だった)。対照的に安川電機は全社では増収を確保したものの、ロボットセグメントの利益は前年同期比82.3%減と大きく落ち込んでいる。同社は基幹システム移行に伴う生産影響と欧州事業の構造改革費用を要因に挙げている。

続いて、減速機・アクチュエータなど要素部品を手がける3社。

企業決算期売上高/収益利益ロボット関連
THK
6481
26/12期中間1,511億円
(+32.4%)
営業利益225億円
(+268.9%)
(用途別開示なし)
ハーモニック・ドライブ
6324
27/3期Q1167億円
(+23.6%)
営業利益18億円
(前年1.2億円)
減速装置128億円
(+18.4%)
ナブテスコ
6268
26/12期中間1,674億円
(+16.8%)
営業利益158億円
(+72.4%)
コンポーネント事業利益48億円
(+160.8%)

同上。ナブテスコの精密減速機は中大型産業用ロボット関節用途で自社推計シェア6割(主要顧客はファナック・安川電機・川崎重工業・KUKA・ABB)。

要素部品3社は揃って好調で、特にTHKの営業利益は前年同期比2.7倍、ナブテスコのコンポーネント事業も利益が2.6倍に伸びた。ハーモニック・ドライブは前年同期の四半期純損失から黒字転換している。決算短信の本文では、THKは「フィジカルAIを支えるTHKの技術」という専用スライドでソニーグループの卓球ロボット研究への部品供給事例を紹介し、ナブテスコは新型減速機「RV mini」を「フィジカルAI需要」の取り込みを狙って2026年下期に投入すると明記している。

6社の決算短信・決算説明資料をそれぞれ全文検索した結果、「ヒューマノイド」という語が登場したのは0社だった。「フィジカルAI」というバズワードはファナック・安川電機・川崎重工業・THKの4社が前面に出す一方、名指しで「ヒューマノイド」に触れている決算資料は今回確認した範囲では見当たらない。ただし、これは各社が人型ロボットに無関心という意味ではない。ハーモニック・ドライブは2026年5月の通期決算説明資料で「AI・ヒト型ロボット」を成長領域の筆頭に掲げており、ナブテスコも2025年12月発表の新型減速機「RVmini」「Monocrank」を「協働ロボットおよびヒューマノイドロボット市場」向けと明記していた。四半期の決算短信という数値中心の文書では定性的な戦略語りが薄くなる一方、通期の投資家説明会や個別の製品発表ではヒューマノイドへの言及が現れる——という文書の性格差があるとみられる。

政府目標「20兆円」とMcKinsey試算「$111B」は別物

日本政府(内閣官房)は2026年3月に策定した「AIロボティクス戦略」で、「米中に並ぶ第三極として世界シェア3割超の獲得を通じて、2040年に60兆円規模の市場のうち20兆円規模を獲得する」という目標を掲げている。McKinseyのレポートも「2040年の汎用ロボット市場3,700億ドルのうち日本が3割を獲得すれば約1,110億ドル」という試算を示しており、見出しでは「日本の1,000億ドル超の機会」と表現されることが多い。

この2つの数字はよく似ているが、同じものではない。McKinseyの1,110億ドルを1ドル150〜155円で円換算すると、おおよそ16.65兆〜17.2兆円になる——日本政府の「20兆円」に近いが、一致はしない。より重要なのは、分母となる市場の定義が異なる点だ。日本政府の20兆円は「AIロボティクス市場全体(60兆円)」の3割超を指すのに対し、McKinseyの1,110億ドルは「汎用ロボット市場(3,700億ドル)」に限定した3割の試算である。似た数字が2つ並んでいるように見えて、実際には範囲の異なる目標と試算が並走している。

⚠ 留意点

FAQ

Q. ロボット密度が世界1位から5位に下がったのは、日本のロボット産業が衰退しているということですか?
一次資料(国際ロボット連盟IFR)で確認する限り、日本のロボット密度自体は2019年以降も年5%前後で伸び続けています。順位が下がったのは韓国(年7%)・シンガポール(年13%)など他国の伸びがより急だったためで、「日本が後退した」というより「他国が先に行った」という相対的な現象です。

Q. 日本の主要ロボット関連企業の業績は悪化しているのですか?
直近の四半期・中間決算では、ファナック・川崎重工業・THK・ハーモニック・ドライブ・システムズ・ナブテスコの5社が増収増益(ハーモニック・ドライブは黒字転換)でした。安川電機のみロボットセグメントの利益が前年同期比82.3%減と苦戦しています。全体としては悪くありません。

Q. 日本企業は人型ロボット(ヒューマノイド)の開発で出遅れているのですか?
McKinseyは人型ロボット供給企業の上位10社に日本企業が入っていないと指摘しており、人型ロボット関連の特許出願数も日本の年間約1,100件に対し中国は約7,700件とされます。当サイトが確認した限り、日本の主要6社のうち5社の直近の決算短信・決算説明資料には「ヒューマノイド」という語がほぼ登場しません。ただし個別の投資家向け説明会や新製品発表では言及例もあり(ハーモニック・ドライブ、ナブテスコ)、「決算という文書では前面に出していない」という程度の言い方が正確です。

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本記事は国際ロボット連盟(IFR)公式プレスリリース、内閣官房「AIロボティクス戦略」、ファナック・安川電機・川崎重工業・THK・ハーモニック・ドライブ・システムズ・ナブテスコ各社の決算短信・決算説明資料(TDnet・各社IR公式)、McKinsey&Companyのレポートを報じる複数媒体の内容等の公開情報を基に整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。記載内容は作成時点のものであり、今後変更される場合があります。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:国際ロボット連盟(IFR)公式プレスリリース、内閣官房「AIロボティクス戦略~社会実装を加速し、巨大市場を切り拓く~」(2026年3月26日策定・5月27日一部変更)、ファナック(2026年7月31日開示)・安川電機(同7月10日)・川崎重工業(同8月7日)・THK(同8月5日)・ハーモニック・ドライブ・システムズ(同8月7日)・ナブテスコ(同7月31日)各社決算短信・決算説明資料。McKinsey&Company "Japan's $100 billion opportunity in general-purpose robotics"(2026年8月4日公開、原文未直接確認)を報じるIEEE Spectrum・ロボスタ・response.jp・PEAKS MEDIA各記事。