INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第48号
4月末売りは見つからなかった。むしろ4月は、日経平均62年で最も勝率の高い月だった
編集部・最終更新 2026年8月18日
相場の格言解説によく登場する「4月末売り」。4月末は利益確定売りが出やすく、株価が下がりやすいとされる経験則です。3月の彼岸底・5月のセルインメイと並んで紹介されることが多く、「3月に底を打った株価が4月に反発した後、月末の利益確定売りで一服し、5月から軟調になる」という一連の流れの一部として語られます。この「4月末は下がりやすい」という部分だけを、日経平均62年分のデータで確かめました。
対象は日経平均そのもの(^N225)の季節性なので、個別株イベント検証で使う市場モデルのβ調整は使えません(対照となる市場ポートフォリオが存在しないため)。代わりに、各年のリターン系列を独立乱数で循環シフトし「その暦日である必然性」だけを崩す置換検定(2万回)で対照を取りました。データは1965年1月〜2026年8月の日経平均62年分(すべて当サイトの実測。2026年8月10日時点・編集部構成)。
判定:「4月末は利益確定売りで下がりやすい」は62年のデータでは確認できませんでした。4月最終5営業日のリターンは中央値+0.49%・勝率61.3%(38勝24敗)と、むしろ逆方向です。年間高値がこの窓に入った年もわずか61年中1年で、ランダムな窓の期待値とほぼ一致。窓の営業日数を3〜10日の範囲で動かしても方向は一貫してプラスのままでした。極めつきは、この「下がりやすい」とされる4月こそ、平均リターン・勝率ともに12ヶ月中1位という事実です。
4月末5営業日のリターン中央値
+0.49%
「下がりやすい」の逆方向。勝率61.3%(38/62年)
窓の年間高値含有率
1 / 61年
期待値1.0年とほぼ一致(二項検定p=1.00)
4月の平均リターン・勝率
12ヶ月中1位
平均+1.51%・勝率69.4%(1965〜2026年)
置換検定のp値
p=0.49
窓幅を3〜10営業日で動かしても0.35〜0.61で安定
02 · THE METHOD
検証方法——指数そのものを測るので、β調整の代わりに置換検定を使う
当サイトの個別株イベント検証(サイバー攻撃やカンブリア宮殿の回など)では、市場モデルでβ・αを推定し、対象銘柄群の異常収益を市場全体の値動きから切り分けます。しかし今回測るのは日経平均という指数そのものなので、対照にできる「市場ポートフォリオ」が存在しません。β調整は使えないということです。
代わりに使うのが循環シフト置換検定です。仕組みはこうです——各年の日経平均の日次リターン系列を、独立な乱数で年内を一周させるようにシフトします(例えば「1月10日から始まる」系列を「7月5日から始まる」系列に読み替える)。これにより、各年が持つトレンドや自己相関の"形"はそのまま保たれる一方、「特定の暦日に対応している」という部分だけが崩れます。この操作を2万回繰り返し、「4月末の窓(各年4月の最終5営業日)」が実際に示した平均リターンが、ランダムな暦日に置かれた場合の分布のどこに位置するかを見ます。分布の端に来るほど、暦日固有の効果が疑われます。
データは^N225(日経平均、Yahoo Finance)の日次終値、1965年1月5日〜2026年8月7日の62年分です。単日変動が−60%を下回る、または+150%を超える異常値の常設チェックでは該当なし(0件)。窓の定義は、データを見る前に格言の定義から機械的に決めた各年4月の最終5営業日です(窓幅を変えた頑健性チェックは4章)。
03 · THE MONTH-END TEST
実測——窓内リターン・年間高値含有率・5月への持ち越し
4月の最終5営業日の日経平均リターンを62年分測ると、中央値+0.49%・勝率61.3%(38勝24敗)でした。「利益確定売りが出やすく、株価が下がりやすい」という定義とは逆方向です。
| 検証項目 | 実測値 | ランダムな窓との比較 |
| 窓自体のリターン(中央値) | +0.49% | 76パーセンタイル(置換検定p=0.49) |
| 窓の年間高値含有率 | 1/61年 | 期待値1.0年(二項p=1.00) |
| 5月への持ち越し10営業日 | +0.68% | 60パーセンタイル(p=0.81) |
| 5月への持ち越し20営業日 | +0.70% | 70パーセンタイル(p=0.60) |
※当サイト実測。窓は各年4月の最終5営業日。「年間高値含有率」はより緩い4月24〜30日の暦日窓での簡易チェック。「5月への持ち越し」は窓終了日から先の営業日数(セルインメイへの接続を見るため)。パーセンタイル・p値は循環シフト置換検定(年ごとに独立乱数でシフト、2万回)による。
「利益確定売りで年間高値の直後に崩れる」という筋書きも、年間高値がこの窓に入った年はわずか61年中1年(期待値1.0年とほぼ一致)で確認できません。5月への持ち越し(セルインメイの入り口にあたる部分)も、勝率53〜55%・p値0.6〜0.8とほぼ無風です。4月末売りについては、当サイトの実測で支持材料は一つも見つかりませんでした。
「利益確定売りで下がりやすい」はずの4月末の5営業日は、62年間で38勝24敗——負け越したことのほうが少なかった。
4月末5営業日の実測より
04 · A ROBUSTNESS CHECK
窓を動かしても結果は安定していた
3章の検証は「最終5営業日」という窓の定義に依存します。この定義を動かした場合に結論がどれだけ安定しているかを確認しました。
| 窓の定義 | 中央値 | 勝率 | 置換検定p値 |
| 最終3営業日 | +0.39% | 56.5% | 0.61 |
| 最終5営業日(本検証) | +0.49% | 61.3% | 0.49 |
| 最終7営業日 | +0.79% | 61.3% | 0.35 |
| 最終10営業日 | +0.91% | 61.3% | 0.38 |
※当サイト実測。手法は3章と同一(循環シフト置換検定・2万回)。
窓を3〜10営業日の範囲で動かしても、方向は一貫してプラスで、p値は0.35〜0.61の範囲に収まりました。窓の取り方次第で結論が反転したり、都合よく有意な数字が出てくるような不安定さは見られません。「4月末は下がりやすい」を裏付ける形は、窓の定義を多少変えても現れませんでした。
05 · WRONG SEASON TO CALL IT WEAK
なぜ逆に強いのか——4月は年間トップクラスの月
ここまでの実測を月別ベースラインに位置づけると、話がはっきりします。日経平均の月次リターンを62年分、月別に集計しました。
| 月 | 平均リターン | 中央値 | 勝率 |
| 1月 | +1.07% | +1.46% | 62.9% |
| 2月 | +0.75% | +0.57% | 54.8% |
| 3月 | +1.03% | +1.71% | 59.7% |
| 4月(4月末売りの月) | +1.51%(1位) | +2.01% | 69.4%(1位) |
| 5月 | +0.45% | +0.35% | 51.6% |
| 6月 | +0.50% | +1.01% | 64.5% |
| 7月 | ▲0.40% | ▲0.55% | 45.2% |
| 8月 | ▲0.37% | +0.18% | 50.0% |
| 9月 | ▲0.36% | ▲0.48% | 44.3%(最低) |
| 10月 | +0.51% | +0.89% | 57.4% |
| 11月 | +1.10% | +1.36% | 60.7% |
| 12月 | +1.14% | +2.09%(1位) | 63.9% |
※当サイト実測。^N225の月末終値比、1965〜2026年(62年、9〜12月は61年)。夏枯れ相場の検証(第26号)と同じ日次データを使用。
4月は平均リターン・勝率でともに12ヶ月中1位、中央値でも12月(+2.09%)に次ぐ僅差の2位です。「4月末売り」が「下げやすい」と呼ぶ月は、日経平均62年の実測ではむしろ1年で最も勝率の高い月でした。
背景として指摘されるのが、3月期末をまたぐ機関投資家の資金の動きです。日本では上場企業の多くが3月期決算のため、ファンドマネージャーが決算期末に向けて保有銘柄を買い支え基準価額を良く見せる「ウィンドウドレッシング(お化粧買い)」が3月の株高要因とされます。4月に入ると、年金基金・生命保険会社などの機関投資家が新年度の運用予算に基づく新規投資を始め、資産配分の見直し(リバランス)も活発化します。3月末に権利が確定した配当金が初夏にかけて再投資される需要も、春相場の下支え要因として指摘されています。つまり、4月末売りという格言が語る「利益確定の売り圧力」は、実際にはこの資金循環の中の一部分(決算期末に向けた現金化)を切り取ったもので、同じ資金循環が生み出すもう一方の力(決算をまたいだ後の資金流入)のほうが、実測では月末まで勝ち続けていると読めます。
4月末売りが語る「利益確定の売り圧力」は、資金循環の半分だけを切り取ったものだった。もう半分(決算をまたいだ後の資金流入)のほうが、月末まで勝ち続けている。
月別ベースラインの実測より
06 · THE ACADEMIC CASE FOR THE OPPOSITE
学術評価——「月末は下がる」を裏付けない研究
「月末は売られやすい」という直感自体、海外の学術研究とは整合しません。Ariel(1987, Journal of Financial Economics)は米国株で、月の後半のリターンが平均的にゼロ近辺(前半だけがプラス)であることを示しました——「下がる」ではなく「伸びない」という結果です。さらにLakonishok & Smidt(1988, Review of Financial Studies)は、ダウ工業株30種90年分のデータを使い、月末から月初にかけてプラスの異常収益が集中する「ターン・オブ・ザ・マンス効果(turn-of-the-month effect)」を報告しています。
市場(米国のダウ工業株30種・S&P500)も期間(1897〜1986年)も、当サイトが対象にした日本株・1965〜2026年とは異なります。両者を単純に同一視することはできませんが、少なくとも「月末は売られやすい」という直感を裏付ける学術文献は見当たらず、方向としてはむしろ逆(月末〜月初はプラスに偏る)を示す研究のほうが確立しています。当サイトが日本株の4月末で確認した「下がるどころか上がりやすい」という結果は、少なくともこの学術的な知見の方向性とは矛盾していません。
留意点
- 本記事は過去データの集計・検証であり、特定の時期の売買や特定の銘柄・商品の取引を推奨するものではありません。過去のパターンは将来の再現を保証しません。
- 循環シフト置換検定は、各年のリターン系列の自己相関構造を保ったまま暦日との対応だけを崩す方法です。62年という限られたサンプル数では検出力に限界があり、「有意な効果が無い」ことは「効果が絶対に存在しない」ことの証明ではありません。
- 「年間高値含有率」チェックは、実際の最終5営業日ではなく4月24〜30日という暦日ベースの簡易窓を使っています(主検証である窓内リターン・5月への持ち越しは実際の最終5営業日で計算)。
- 4月末売りについて、専用のETF・ETNなど商品化された運用戦略は確認できませんでした(セルインメイのSZNE、ダウの犬のDOGGのような専用商品はありません)。
- 「なぜ逆に強いのか」で挙げたウィンドウドレッシング・新年度資金・配当再投資は、報道・業界解説で一般的に指摘される説明であり、当サイトが資金フローそのものを独自に実測したものではありません。Ariel(1987)・Lakonishok & Smidt(1988)は米国株(NYSE・ダウ工業株30種)を対象にした研究で、日本株にそのまま当てはまる保証はありません。
- 3月の彼岸底については別記事(「節分天井、彼岸底」は62年間、一度も起きていなかった)で天文暦を用いたより精密な検証を行っています。本記事は4月末売りに検証範囲を絞っています。
- 他資料と数値が異なる場合は、対象期間・窓の定義・算出方法の違いによります。
FAQ
Q. 「4月末売り」とはどういう意味ですか?
4月末は利益確定売りが出やすく、株価が下がりやすいとされる相場のアノマリーです。松井証券のマネーサテライトが公開する月別アノマリー一覧に一行で紹介されている経験則で、3月の彼岸底・5月のセルインメイと並んで「3月に底を打った株価が4月に反発し、4月末に利益確定売りで一服、5月から軟調になる」という一連の流れの一部として語られます。ただし紹介記事自体に検証データの引用はありません。
Q. 4月末は本当に株価が下がりやすいですか?
当サイトが日経平均62年分(1965〜2026年)で実測した限りでは、確認できませんでした。4月最終5営業日のリターンは中央値+0.49%・勝率61.3%(38勝24敗)と、下がりやすいどころか上がりやすい側に偏っています。年間高値がこの窓に入った年もわずか61年中1年で、ランダムな窓の場合の期待値(1.0年)とほぼ一致します(二項検定p=1.00)。窓自体のリターンについての置換検定はp=0.49で統計的に有意ではなく、窓の営業日数を3〜10営業日の範囲で動かしても、方向は一貫してプラスのままでした。
Q. なぜ4月は「下がりやすい」と言われるのに、データでは逆に強いのですか?
当サイトの実測では、4月は平均リターン+1.51%・勝率69.4%でともに12ヶ月中1位でした。背景として、3月期末に向けた機関投資家のウィンドウドレッシング(保有銘柄を買い支えて基準価額を良く見せる動き)、4月の新年度入りに伴う年金基金・保険会社の新規資金の投入、3月配当の再投資需要などが指摘されています。「4月末売り」という格言は、こうした資金循環の中の一部分(決算期末に向けた現金化)だけを切り取ったもので、実際にはその後の資金流入の力のほうが月末まで勝ち続けている、と読めます。
Q. 「月末は売られやすい」という直感自体は正しいのですか?
米国の学術研究では、むしろ逆の効果が報告されています。Ariel(1987, Journal of Financial Economics)は米国株で月の後半のリターンが平均的にゼロ近辺(前半だけがプラス)であることを示し、Lakonishok & Smidt(1988, Review of Financial Studies)はダウ工業株30種90年分のデータで、月末から月初にかけてプラスの異常収益が集中する「ターン・オブ・ザ・マンス効果」を報告しています。市場・期間は異なりますが、当サイトが日本株で確認した「4月末はむしろ強い」という結果は、この学術的な知見の方向性と整合しています。
本記事は公開市場データ(Yahoo Finance)および公開されている学術文献を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・検証した一般的な情報提供を目的としており、特定の時期・銘柄・商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績・パターンは将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。
出典:松井証券マネーサテライト、Ariel (1987) Journal of Financial Economics 18(1)、Lakonishok & Smidt (1988) Review of Financial Studies 1(4)、Yahoo Finance(^N225)。市場データは2026年8月7日終値まで(実測・集計は当サイト算出、2026年8月10日時点・編集部構成)。