INVESTMENT STRATEGY ・ 投資の考え方 第36号

信用取引の買い残高が「過去最高」。東証の大きさで割ると、2006年の半分にも届いていない

2026年8月6日、ネット証券4社の決算が出そろい、合計純利益が前年同期比2.3倍になったと報じられました。個人投資家によるAI関連株の信用取引が活況で、東証の信用取引買い残高は6月26日時点で7兆円を超え、過去最高を更新したという一文が添えられていました。

この「過去最高」を、JPXが公表する信用取引現在高の週次データ(2002年8月〜)と、東証の月末時価総額データ(1949年5月〜)で検証しました(2026年8月6日時点・編集部構成)。

判定
名目限定

「過去最高」は名目としては事実。しかし東証の時価総額で割ると、現在の水準(0.51%)は2002年以降の週次分布で58.5パーセンタイルに過ぎません。真のピークは2006年2月(1.07%、今の2.1倍)、次点は2013年のアベノミクス相場初期(0.79%)。個人のレバレッジの「濃さ」で見れば、今回の相場はむしろ大人しい部類に入ります。

買い残高(6/26時点)
7.02兆円
2002年以降で名目過去最高
東証時価総額比(同時点)
0.51%
58.5パーセンタイル
2006年2月の相対ピーク
1.07%
今の2.1倍。いざなみ景気末期
名目ピーク週から6週間
日経-4.4%
同期間TOPIXは+2.7%
01 · THE NOMINAL CLAIM

「過去最高」は、まず名目で確かめる

報道の主張はシンプルです——東証の信用取引買い残高が2026年6月26日の申し込み時点で7兆円を超え、過去最高を更新した。まずこれを一次資料で確かめます。

JPX(日本取引所グループ)は「信用取引現在高」を毎週水曜に公表しており、2002年8月2日以降の週次データが遡って取得できます(東京・名古屋2市場の合計。2013年7月19日以前は大阪を含む3市場合計)。委託・自己を合わせた買い残高(金額ベース)を確認すると、2026年6月26日時点は7兆1673億円で、この24年間の系列の中で確かに最大値でした。報道と一致します。

ただし、この「過去最高」が今回だけの現象でないことにも気付きます。信用取引の買い残高は過去にも何度か大きく膨らんでおり、直近でとくに目立つのが2006年(いざなみ景気末期)と2013年(アベノミクス相場の立ち上がり)です。

時点名目買い残高局面
2006年2月10日5兆9836億円いざなみ景気末期(ライブドアショック後の戻り局面)。当時の名目最高値
2013年5月31日3兆1719億円アベノミクス相場・異次元緩和開始直後。名目では2006年に届かず
2026年6月26日7兆1673億円今回。24年間の系列で名目最高値

※JPX「信用取引現在高」(週次・申込日基準)。委託+自己の買い残高、金額ベース。

ここで目を引くのは、2013年の名目値(3兆1719億円)が今回(7兆1673億円)の半分にも届いていないことです。2013年は個人の信用取引がとりわけ活発だった年として記憶されていますが、名目の金額だけを見れば「今回のほうがずっと大きい」ように見えます。この先入観を、次の節で確かめます。

02 · THE RATIO TWIST

しかし、東証の大きさで割ると話が変わる

信用取引の買い残高は、東証という「取引の場」の大きさに対する数字です。市場そのものが大きくなれば、個人の熱狂度が変わらなくても名目の残高は増えます。そこで買い残高を、JPX「市場別時価総額」(1949年5月以降の月末系列。2022年4月の市場区分変更をまたいで新旧2シートを結合)で割り、東証全体に対する比率を作りました。

FIG. 01 — 信用取引買い残高 ÷ 東証時価総額の推移(2002-2026) 信用取引買い残高 ÷ 東証時価総額の推移(2002-2026) 0.00% 0.25% 0.50% 0.75% 1.00% 2003 2007 2011 2015 2019 2023 真のピーク(いざなみ景気末期):1.07% 2006年2月 1.07% アベノミクス相場初期:0.79% 2013年5月 0.79% 今回の名目ピーク週(買い残高は過去最高):0.51% 2026年6月 0.51% 信用取引買い残高 ÷ 東証合計時価総額(月次) 出典:JPX「信用取引現在高」「市場別時価総額」。当サイト算出。
図1:信用取引買い残高を東証の合計時価総額で割った比率。24年間の分布で見ると、真のピークは2006年、次点は2013年で、2026年6月の水準はどちらにも届いていない。

結果は次のとおりです。

時点買い残高東証時価総額比率
2006年2月10日5兆9836億円558.4兆円1.07%
2013年5月31日3兆1719億円401.4兆円0.79%
2026年6月26日7兆1673億円1376.7兆円0.51%

※当サイト算出。時価総額は各週の直前月末値(JPX「市場別時価総額」)。2026年6月26日の値は2026年5月末時点の時価総額に対する比率。

評価が反転します。2013年5月31日の名目残高(3兆1719億円)は今回の半分以下ですが、比率では今回(0.51%)を上回る0.79%でした。東証の時価総額が2013年5月の401.4兆円から2026年5月の1376.7兆円まで約3.4倍に膨らんだのに対し、買い残高の伸びは約2.2倍にとどまっているからです。市場そのものが大きくなった分を差し引くと、2013年のほうが個人のレバレッジは「濃かった」ことになります。

市場そのものが大きくなった分を差し引くと、2013年のほうが個人のレバレッジは「濃かった」ことになります。

比率換算の実測より

2026年6月26日時点の比率0.51%は、2002年8月〜2026年7月の週次分布(1,221週)の中で58.5パーセンタイル——つまり残り41.5%の週のほうが、比率としては高かったことになります。年ごとの最大値を並べると、傾向がはっきりします。

年間最大比率局面
2002年0.56%JPXデータの取得開始年
2006年1.07%真のピーク(いざなみ景気末期)
2009年0.57%リーマン・ショック後
2013年0.79%アベノミクス相場・異次元緩和開始
2017年0.45%低ボラティリティ相場
2021年0.50%コロナ後の回復局面
2025年0.49%直近の平常運転レンジ
2026年0.51%今回。2021-2025年のレンジ上限に乗った程度

※当サイト算出。各年の週次最大値。2021〜2025年は0.41〜0.50%の狭いレンジで推移しており、2026年(0.51%)はその上端に乗った程度に過ぎない。

03 · AFTER THE REAL PEAKS

「本当のピーク」の後、相場はどう動いたか

比率で見た「本当のピーク」——2006年2月と2013年5月——の後、相場がどう動いたかを見ておきます。個人のレバレッジが相対的に最も濃かった局面が、その後の下落を予告していたかどうかです。

起点4週間後13週間後26週間後52週間後
2006-02-10(日経平均)▲0.87%+2.12%▲4.26%+7.67%
2013-05-31(TOPIX/1305)▲0.34%▲2.72%+11.49%+7.44%

※当サイト算出。2006年はTOPIX連動ETF(1305)が2008年1月まで存在しないため日経平均(^N225)で代替。2013年はivyxon-measure準拠の1305固定。2つの結果は指数が異なるため単純比較はできない。

2つの事例に共通するのは、短期(1〜3カ月)はやや軟調、半年〜1年ではプラスに転じるという緩いパターンです。ただし2006年は26週間後に▲4.26%と一度沈んでおり、2013年は13週間後まで軟調が続いてから26週間後に+11.49%まで跳ねています。方向感のある「これが出たら危ない」というシグナルにはなっていません。

方向感のある「これが出たら危ない」というシグナルにはなっていません。

2006年・2013年の事後リターンより

もっとも、標本はそれぞれ1回のイベントに過ぎません。相対ピークが2002年以降で明確に2回しかない以上、統計的な検定に足る数ではなく、ここでの記述は傾向の紹介にとどめます。

04 · THE 2026 DIVERGENCE

今回の値動きが教えること

2026年の名目ピーク週(6月26日)を基準に、その後の日経平均とTOPIXを指数化して比べると、同じ相場でも指数によって下げ方がまったく違うことが分かります。

FIG. 02 — 日経平均とTOPIXの乖離(2026年6月-8月) 日経平均とTOPIXの乖離(2026年6月-8月) 日経平均 TOPIX(1305) 90 95 100 105 日経平均 8/6時点:95.6(6/1を100として-4.4) -4.4 TOPIX 8/6時点:102.7(6/1を100として+2.7) +2.7 出典:Yahoo Finance(^N225・1305.T)。信用取引買い残高の名目ピーク週2026年6月26日=100。
図2:信用取引買い残高の名目ピーク週(2026年6月26日)を100とした日経平均とTOPIXの推移。約6週間で日経平均-4.4%に対しTOPIXは+2.7%。

買い残高が名目最高値を付けた週から約6週間後(8月5日時点)、日経平均は▲4.4%下げているのに対し、TOPIX(1305)は+2.7%とむしろ上で推移しています。日経平均は225銘柄の株価加重平均で、値がさ株(株価の高い銘柄)の値動きが指数に強く反映される構造です。TOPIXは約2,000銘柄の時価総額加重で、個別銘柄の振れが指数全体には出にくくなっています。

報道は、今回の信用取引の活況が「AI・半導体関連株の売買を繰り返している」個人によるもので、キオクシアホールディングス株の急落で「一部の個人は痛手を負ったとみられる」としていました。日経平均とTOPIXのこの乖離は、その記述と整合的です——今回のボラティリティは、相場全体というより特定の値がさ・AI関連株群への集中を反映している可能性があります。ただし本記事は個別銘柄の信用取引残高までは調べておらず、これは間接的な傍証にとどまります。

今回のボラティリティは、相場全体というより特定の値がさ・AI関連株群への集中を反映している可能性があります。

日経平均とTOPIXの乖離より
05 · THE EARNINGS CLAIM

ついでに検証——決算の「2倍近い伸び」は正確か

今回の検証の出発点になったネット証券4社の決算についても、報道の一文を確認しておきます。「マネックスと松井も2倍近い伸びを記録した」という記述です。各社の決算短信(一次資料、2026年4-6月期=2027年3月期第1四半期)に当たりました。

証券会社指標前年同期比実額
SBIホールディングス親会社所有者帰属四半期利益+75.0%1480億6500万円(4-6月期として過去最高)
松井証券四半期純利益+95.3%28億7200万円→56億900万円
マネックスグループ親会社所有者帰属四半期利益+3.6%18億5600万円→19億2200万円
楽天証券ホールディングス2025年1月30日に東証上場方針を撤回済み。独立した決算短信なし

※各社決算短信(TDnet、2026年7月28日〜8月6日開示)より当サイト作成。楽天証券HDはみずほグループとの資本提携強化路線に転換し、株式上場を目指さない方針(楽天グループ発表、2025年1月30日)。

松井証券の+95.3%は「2倍近い」という表現とほぼ符合します。一方でマネックスグループの純利益は+3.6%にとどまり、報道の記述とは一致しませんでした。同社の四半期包括利益(為替換算差額等を含む、より広い利益指標)は+204.2%——こちらであれば「2倍以上」ですが、一般に「純利益」と呼ばれる指標ではありません。SBIホールディングスの+75.0%は報道の「過去最高益」という文脈と符合します。

マネックスグループの純利益は+3.6%にとどまり、報道の記述とは一致しませんでした。

各社決算短信の実測より

留意点

SOURCES

出典と一次資料

FAQ

Q. 信用取引の買い残高は本当に「過去最高」ですか?
名目値としては事実です。JPXが公表する信用取引現在高の週次データ(2002年8月2日以降、東京・名古屋2市場の合計)を確認すると、2026年6月26日時点の買い残高(委託・自己合計、金額ベース)は7兆1673億円で、この系列の中で最大値でした。日本経済新聞(2026年8月6日)が報じた「7兆円を超え、過去最高を更新した」という記述と一致します。

Q. なぜ「過去最高」なのに、それほど過熱していないと言えるのですか?
東証の時価総額そのものが大きくなっているからです。当サイトが買い残高を東証の合計時価総額(JPX「市場別時価総額」、1949年5月以降)で割ったところ、2026年6月26日時点の比率は0.51%で、2002年以降の週次分布では58.5パーセンタイルに過ぎません。真のピークは2006年2月10日の1.07%(当時の時価総額558.4兆円に対し買い残高5兆9836億円)で、現在の2.1倍です。次点は2013年5月31日の0.79%(アベノミクス相場初期、時価総額401.4兆円に対し買い残高3兆1719億円)。東証の時価総額は2013年5月から2026年5月までに約3.4倍に膨らんでおり、買い残高の伸び(約2.2倍)はそれに追いついていません。

Q. 過去に信用取引残高が相対的にピークをつけたときの後、相場はどうなりましたか?
方向感のある「危険シグナル」にはなっていません。2006年2月10日の相対ピーク後、日経平均は4週間後-0.87%、13週間後+2.12%、26週間後-4.26%、52週間後+7.67%でした(TOPIX連動ETFの1305が存在しない時期のため日経平均で代替)。2013年5月31日の相対ピーク後、1305は4週間後-0.34%、13週間後-2.72%、26週間後+11.49%、52週間後+7.44%です。どちらも短期はやや軟調、半年〜1年ではプラスという緩い共通点はありますが、標本はそれぞれ1回のイベントに過ぎず、統計的な検定に足る数ではありません。

Q. ネット証券の「純利益2倍近い伸び」という報道は正確ですか?
銘柄によります。当サイトが各社の決算短信(一次資料)で確認したところ、松井証券の四半期純利益は前年同期比+95.3%(28億7200万円→56億900万円)で「2倍近い」という表現と符合しました。一方でマネックスグループの親会社所有者帰属四半期利益は+3.6%(18億5600万円→19億2200万円)で、報道の「2倍近い伸び」とは一致しません。同社の四半期包括利益(為替換算等を含む広い利益指標)は+204.2%で、これと混同された可能性があります。SBIホールディングスは純利益+75.0%(1480億6500万円、4-6月期として過去最高)で、こちらは報道の水準と符合します。楽天証券ホールディングスは2025年1月に東証上場方針を撤回しており、独立した決算短信・株価データは存在しません。

スポンサーリンク

KEEP READING

あわせて読みたい

PR

米国株5,000銘柄以上に対応、松井証券なら24時まで取引可能

松井証券 口座開設はこちら →

本記事は公開市場データ(JPX・Yahoo Finance・各社決算短信)を基に、当サイトが計算条件を明示した上で集計・整理した一般的な情報提供を目的としており、特定の銘柄・商品・売買タイミングの採用を推奨・勧誘するものではありません。過去の実績は将来の成果を保証しません。投資に関する最終判断はご自身の責任で行ってください。

出典:JPX「信用取引現在高」「市場別時価総額」、SBIホールディングス・松井証券・マネックスグループ各社決算短信、楽天グループ発表資料、Yahoo Finance(調整後終値)。市場データは2026年8月6日時点(実測・集計は当サイト算出、2026年8月7日時点・編集部構成)。